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179 村人、神薬を使う。

 

「問題となる【ゾンビ】の指定───

銘々の移動ルート算出───

障害物の配置ポイント設定───……主様、皆さん、この図面を頭に叩きこんで下さい」


「気"の"所"為"か"……私"の"ル"ー"ト"が"エ"グ"く"な"い"か"?」


「気の所為ですよ?」




 【ゾンビ】の溢れる【ロス村】で、【ゾンビ化】を治す【神薬】を作ることに成ったキュア達。


 朱雀が、【ゾンビ】を殺さず……かつ皆が安全に作戦遂行できるルートを地面に火燐で焼く。 半【ゾンビ化】しているゾリディアのルートが、【ゾンビ】の多いルートに見えるのは……気の所為だ。




「俺は一直線に、【錬金台】の有る家に行くだけか……」


「ええ。

ですが此は、主様以外が【ゾンビ】と相対するルート───などではなく、主様が迅速に【神薬】を作る事で皆の安全が保証されたルートだと御考え下さい」




 自分にだけ、【ゾンビ】という危険が無いルートだと一瞬思ったキュアであったが……皆の心強い頷きと共に、考えを改める。




「分かった。

皆で頑張ろう」


「おー!

チェン、頑張るぞー!」


「こ"の"試"み"は"【名"も"無"き"集"落"】……引"い"て"は"、後"世"で"も"役"に"立"つ"。

成"功"さ"せ"て"み"せ"る"と"も"」


「シーナの為、村の皆の為だ。

やってやんよ」


「キュアさん……皆さん……有難う御座いますわ」


「主様の、よしなに」




 駆けるメンバー。

 【ロス村の裏山】から【ロス村】内へと入った瞬間、【ゾンビ】達が動きだす。 キュア以外の面々は大急ぎで障害物を運び、安全地帯作りに東奔西走するルートだ。


 【ドラゴンハーツ】制作者陣のパズル好きが作った、イジワルな地形と障害物と【ゾンビ】の配置は……刻一刻と変化してゆき、キュアが【神薬】を作り終えるまで一瞬たりとも余裕が無い。




「うぉっ!?

しまっ───道を間違え……」


「兄さん!

……キューブ!」




 一人置いてはおけないシーナの保護があるため、一番動きと危険の少ないポイントを守っていたイーストンだったが……目まぐるしく変わる状況に、ポカを遣らかしてしまう。


 咄嗟に、イーストンのフォローをするシーナ。 キュアから預かった、【写真】なる道具のキューブを迫る【ゾンビ】へと投げる。


 出現したのは───高さ2m・幅1m・厚さ1mm以下の物体。




「い、板?

……いや、紙か?」


「ウー……?

ウー………………」


「兄さん、【ゾンビ】が【写真】? に気を取られている間に!」


「お、おう!」




 杖魔法【写し】(カメラ)で写した風景は、紙に描かれて【写真】という道具に成る。


 【写真】は髪の毛より薄く、衝撃を与えれば簡単に折れ曲がるが……自重を支える程度には丈夫だ。 地球で言う所の、ダンボール程の強度か。


 通常の【写真】は20cm四方程のサイズであるが、キュアが皆に渡した【写真】は、【拡散】(ワイド)を併用した【写し】(カメラ)で写され物であり、長身のキュアでも等身大で入るサイズとなる。


 しかも何故かこのサイズの写真は、支えナシで自立するのだ。 【写し】(カメラ)は、お遊び用魔法だそうだが……【写真】を飾りやすくする為なのかもしれない。


 とかく───現状では簡易障害物として、一瞬【ゾンビ】の動きを止められたし……【ゾンビ】や【写真】によっては、かなり長時間見入るケースも有った。




「フフフ……私の【写真】に見惚れていない【ゾンビ】は居ません」


「絵"と"は"言"え"……キ"ス"さ"れ"ま"く"っ"た"り"、顔"面"を"舐"め"ま"わ"さ"れ"た"り"し"て"い"る"の"は"気"分"が"悪"い"な"……」


「チェン、後でキュアにもっかい撮り直して貰おー……」


「……あの服……酒場のアイドル、シャリーちゃんじゃねえか!?

アッチは道具屋の看板娘のオールちゃん!?

なんでキュアの写真の前から動かねぇ……爆ぜろ爆ぜろ爆ぜろ爆ぜろ爆ぜろ爆ぜろ爆ぜろ…………」


「兄さん?」




 キュアとしては【ゾンビ】が一瞬でも壁と勘違いし、動きが止まればなあ……といった程度のアイデアでしか無かった【写真】であるが───中々嬉しい誤算であったようだ。

( イーストンからの嫉妬は……かなりの大誤算であるが。)




「みんな、【神薬】が出来たぞ!」


「主様!」


「キュア、やったなー!」


「寄"越"せ"!

手"分"け"し"て"【ゾ"ン"ビ"化"】を"、治""療"す"る"ぞ"!」


「爆ぜろ爆ぜろ爆ぜろ爆ぜろ爆ぜろ爆ぜろ爆ぜろ……」


「兄さん……」




 キュアは皆に朱雀・チェン・ゾリディア達女性陣に40人分の【神薬】を渡し……最後、イーストンへと【神薬】を渡す。




「イーストン……今まで有難う!

さあ、シーナを治してやってくれ!」


「キュア……」




 薬を受け取り、涙ぐむイーストン。




「オレは……オレは最高の友人を持ったぜっ!」


「兄さん……」




 イーストンは、タラシが最愛の妹に近付くのを心配していただけなのだ。 イーストンを責められる男はそうは居ないのだ。 いやホント。

 そしてシーナに使われる【神薬】。




「く……ぅ!」


「し、シーナ……大丈夫か!?」




 一瞬、苦しみに悶える表情を浮かべるシーナの……その首筋から消える、腐れ肉のような跡。




「───……い、痛くない。

苦しくないし、身体もちゃんと動く!

兄さん!

キュアさん!」


「良かった……シーナ。

遣ったな、イーストン」


「止せやい、全部オメェさんのお陰だぜ」


「キュアさんには、一生感謝しても……尚、し足りないですわ」


「い、一生っ!?

おいっ、シーナ……そりゃどうゆう意味だっ!?」




 イタズラっぽく笑うシーナに……イーストンが憤慨していると、女性陣の声。 みな『普段通り』の、落ち着いた声だった。




「主様。

【ロス村】の村民、全員の治療を終えました」


「全員治ったぞー!」


「衰"弱"は"し"て"い"る"が"……直"に"治"る"だ"ろ"う"」




 皆『普段通り』の……変わらぬ、姿。




「あれっ?

ゾリディア、君の分の【神薬】も渡したのに……ま、まさか効かなかった───!?」


「勘"違"い"す"る"な"」




 ゾリディアは、懐から【神薬】を取りだし……キュアに渡す。




「キ"ュ"ア"……お"前"は"、集"落"し"か"知"ら"ぬ"私"に"い"ろ"ん"な"物"を"見"せ"て"く"れ"た"。

───最"後"は"……お"、お"前"に"こ"の"薬"を"使"っ"て"欲"し"い"」


「ゾリディア……」


「か"、勘"違"い"す"る"な"よ"!?」


「分かっている」




 力強く応えるキュア。




「皆は俺に対し、天然疑惑を抱いているようだが……ココにきてボケたりしない」


「キ"ュ"ア"……」


「『お前に使って欲しい』とは、俺自身に使え……という意味では無い。

勘違いなどするものか」


「「「キュア……」」」




 皆の、残念な物を見る目。

 誰もキュアに対して、天然疑惑など抱いていない。 疑惑とは、天然かどうか分からない時に使う。

 キュアは紛う方無き天然だ。

 しかし天然のキュアには分からない。




「主様には、『勘違いしてくれ』と言うべきですよ?」


「な"っ"、な"な"な"……お"、お"前"等"も"、変"な"勘"違"い"す"る"な"!?」


「分かってるぞー。

みぃーんな、分かってるからー♡」


「精々、キュアの心を掴んでてくれ。

主に俺とシーナの為に」


「兄……ハァ」




 飽きれるシーナ。

 許したげて。




「……行くぞ」


「あ"あ"」




 キュアが、ゾリディアの身体に【竜の心臓】(ドラゴンハーツ)製の薬、【神薬】を掛ける。

 服の上から何故、薬効が効くんだろうと……若干要らん事を考えながら───




「…………。

……ああ、元に戻っただけなのに───まるで生まれ変わったようだ」


「……良かったな」




 ゾリディアが、仮面を掴む。


 赤黒い腐肉の手から───戦士特有の荒れた……だが気高さは失わない白い手で。


 仮面の隙間から、髪が零れる。


 カサついた白髪から───陽光の如き、金の髪が。


 仮面を外し、素顔が現れる。


 糸引き、パーツの幾つもが溶け落ちた顔面から───美しい女戦士の顔が。




「───キュア、有難う」




 しわがれた声から───凛とした声で。


 【ゾンビ】から───人間としてのゾリディアが、キュアに……ニコと笑う。

 

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