176 村人、竜を倒す。
「竜が逃げたぞ!」
「逃げた!?」
「逃げた!
竜が負けて逃げたんだ!!」
生贄が、碗き苦しむサマを最後のその瞬間まで見続けるよう、竜たちにより命令されていた漁村の民は───巻き込んでしまった余所者に謝罪しながら、遠巻きに『全て』を見ていた。
常人なら、子竜の小指一本どころかタメ息一つで殺されてしまう攻撃の一つ一つを、旅人達は……或いは避け、或いは受け止め、ソレでも必死に立ち上がり、その死闘の果てに───子竜は逃げた。
暴力と理不尽の権化『竜』が、逃げだしたのだ。
「「「あの旅人が勝っ───」」」
「まだだ!」
漁村全体から沸き起こる歓声に、水を差す一声……ソレは他ならぬ、勝利した旅人───キュアから上がった。
「奴の尾を斬り落としただけだ!
奴は死んでいない!」
「た、確かに……」
村民の命と尊厳を踏みにじり続けた竜の……無様な逃げップリに、ついつい歓喜の声を上げたが【ドラゴンハーツ】は、どんな怪我すらもHPさえ残っていれば回復する手段は有る。
「【敵視】!
……くっ、赤いモヤが消えたか。
朱雀、分かるか!?」
「消えたのではなく、溶けて煙のように成りました。
そのまま地面に吸収されたようです」
言われてみれば……キュアが見たのは確かに、赤いモヤが【敵視】の範囲外から出る時の 「フッ」 とした消え方ではなく、霧散するような消え方であった。
キュア達の会話を聞いていた村民の一人が、意見をだす。
「ぐ、【グリーンドラゴン】は植物と菌類の竜だ!
胞子と成って、姿を消せるらしい!」
「朱雀の火燐みたいなモンか」
「あ、主様!?
主様の発言と言えど、そんな下品な技と一緒にされては困ります!
発言撤回を望みま───」
「良"い"か"ら"行"く"ぞ"、下"僕"女"」
「チェンは、朱雀の良いトコ知ってるからなー?」
「ぐっ……後で主様には罰として、たっぷりハグをして貰わねば……」
子竜が逃げた方角へ、駆けゆくキュア達。
その場に、成り行きを見守るしかない村民と……未だ震え、謝罪の言葉を呟き続ける村長を残して。
◆◆◆
「【敵視】の赤いモヤが消えたのは、この辺りだ」
「地"中"に"溶"け"た"と"言"っ"た"な"?
地"下"で"如"何"す"る"?
地"下"か"ら"巨"大"湖"の"島"へ"、援"軍"を"呼"び"に"行"っ"た"の"か"?」
「「人間如きに尾を落とされた」と仲間に触れまわるのか?
……厚顔不遜な竜が」
「チェンなら言わないなー。
ヤな奴ばっかの竜だからなー。
絶対、みんな馬鹿にしてくるぞー?」
「……確"か"に"」
「主様、彼方の樹木の影に……小屋が有ります。
地下への入口かと」
「地"下"……そ"う"い"え"ば"、本"来"の"生"贄"で"あ"る"村"長"の"孫"娘"は"氷"室"に"隠"し"た"と"か"……」
『氷室』とは冷凍庫の無い時代、冬に出来た氷や降った雪を貯め置いた部屋である。 主に一年を通して温度変化の少ない場所 (地下・洞窟など) に作られ、食材などを長期保存する為に使用される。
漁村ならば、魚の傷み防止だろうか。
「性"根"の"腐"っ"た"竜"の"事"だ"。
腹"い"せ"に"、本"物"の"生"贄"を"殺"そ"う"と"す"る"や"も"し"れ"ん"」
「───行こう」
朱雀の示した小屋へと降りるキュア達。 偶に有る、【敵視】で透視出来ない場所らしく中は窺えない。
ので、渋られたが……先ずキュアから降りる事に。
「生"贄"に"は"私"が"成"っ"た"の"だ"。
私"が"地"下"を"探"る"」
「駄目だ。
ゾリディア……隠しているようだが、今の君は体調が悪いのだろう?
俺が最初に降りる」
「キュアー……」
「く"っ"……。
確"か"に"今"の"私"は"、【限"界"無"視"】を"使"っ"た"後"遺"症"で"戦"闘"力"が"落"ち"て"い"る"」
ゾリディアに奮われた子竜の一撃を、キュアが庇い……割りと瀕死に近いダメージを負った時に───ブチ切れたゾリディアが使用したスキルである。
「……だ"か"ら"こ"そ"今"の"私"は"、先"行"偵"察"ぐ"ら"い"に"し"か"役"立"て"な"い"の"だ"!?」
「あのスキル……凄かったですね。
効果は『攻撃力・攻撃速度の増加』と『攻撃属性が、全て敵弱点へと変化』ですか……」
「【名"も"無"き"集"落"】の奥"義"だ"」
「主様がピンチになって、やっと使えましたよね……?
使える条件は、『愛しい人のピンチ』ですか?」
「ぎ"ゃ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"っ"っ"!??」
「きゃー♡」
等々、唐突に始まったガールズトーク。
ので(?)、渋られた(??)が……その隙にキュアがこっそり降りる事に。
◆◆◆
「誰か居るのか?」
吐く息が白い。 寒い。
氷室で間違いないようだ。
「───だ、誰っ!?」
「竜を退治した旅人だ」
「ええっ!?
あ、あの竜を……!?」
キュアの問いに返すのは、妹クリティカルと同年代ぐらいの少女の声。
村長から聞いた、生贄に選ばれた孫娘と一致する。
「アタシ……助かったんですね!」
まだまだ頑是無い様の残る栗毛の少女が、氷室の奥から飛び出し───
「ぐフッ!?」
「ふん」
キュアの杖が、ナイフを隠し持っていた少女の腹にめり込む。
忌々しげにキュアを睨む少女の、その顔は───『どろり』と溶けた。
「な、何故……アタシが、竜だと……」
「せめて……その体臭ぐらい消せ。
本人の物か、こびり付いた物かぐらいは分かる。
だから竜は馬鹿だと言うんだ」
「ぐく……そ、村長に五感を惑わす薬を使わたハズ───」
「その前に、馬鹿みたいに早くオマエが来たからな。
村長は投げ飛ばした」
「投げ……!?
……クソっ───」
「じゃあな。
───【鍛冶具】」
子竜の身体に深々と刺さる、魔光。
顔だけではなく、全身が溶ける。
身体の細胞が崩れた……とかでは無く、変装の為の魔法だかスキルだかが解けてそう見えるらしい。
───後には、子竜の死体が残っていた。
◆◆◆
「えーっ!?
キュアは最初から、村長に孫娘が居ないと分かっていたのかー!?」
「可能性としては、な」
村長宅。
ガールズトークに夢中の女性陣を呼びだして、子竜を倒したと報告 (怒られた。) し……子竜の死骸を分割して外へと運びだし解体。
村長が自害せんばかりに謝罪してきたので受け入れていたキュア達である。
「大昔から竜は、村民全員を逃げられないよう見張っていたというのに……その竜の目を盗んで、生贄を氷室へと避難させた……というのがな」
「そ"う"言"え"ば"、変"だ"な"」
「性格の悪い竜の事だから、勝ったと思わせといて嘲笑うつもりだった……とかかなー?」
「御輿をチェックしていた時ですか……。
あの時、主様がやたら不思議そうな顔を成されていたのは……」
「なんとかして、御輿にムリヤリ乗り込む手段を探していたのかと思っていたぞー」
「あのな……みんな、俺がサギ耐性無いからって馬鹿だと思っているだろう?」
「ソ、ソンナコトアリマセンヨ」
「オ、オモッテナイゾー」
「ダ"、ダ"イ"ジ"ョ"ウ"ブ"ダ"」
「…………」
キュアの事を、別に馬鹿だとは思っていないが……下手な子供より目の離せない天然だとは思っている三人。 変に放っておいたら何をするやら、危ういのだ。
自分達の居ない所で、勝手に子竜を一人で倒すとか。




