14 村人、一瞬で逃げる。
「───ようキュア。
テメェ、何処へ行くんだ?」
「アシッドか……」
ニタニタとイヤラシげな笑みを浮かべながら物陰から現れたのは……キュアの幼馴染みであるアシッド。 魔ナシ差別の酷いアジルー村の中でも、殊更にキュアを侮蔑してくる村民である。
ちなみに、クリティカルがこの世で最も嫌いな人間でもある。
「もしかして、領主舘へコジキをしに行くのかぁ?
妹のクリティカルが領主舘で働いているからって、図に乗るんじゃねえぞ!?」
「……はあ?」
【ドラゴンハーツ】を軽くプレイし、軽く脳が疲れているのを除いても……アシッドの言葉の一つ一つが理解出来ないキュア。
領主舘には、正式に就職する。
クリティカルが領主舘で働いている事は、数日前まではコンプレックスでしかなく、今は緊張の元。
図になど、乗りようが無い。
「……済まないが、急ぐんだ」
アジルー村村民の内心など興味が無かったキュアに、知るすべは無いが───アシッドは、クリティカルに邪な感情を抱いている。
クリティカルは自分に微笑む。
他の村民にも微笑むが、アレは愛想笑いであり自分に向ける微笑みこそ真実。
クリティカルは自分に惚れているのだ。
───アシッドは、本気でそう信じていた。
故に。
アジルー村で一番偉い村長の息子である自分が、何度口説いてもクリティカルが靡かないのは、『魔ナシ』 を養うのに大変だからだ。
だが、ここ数日はクリティカルが己に一切微笑まなくなった。 魔ナシのせいで心労がたたったのだろう。
クリティカルが巨大な魔力さえ持っていなければ力尽くで手に入れる所だが……ソレが叶わない現状に、彼はイラついていた。
───そんな折に、正装をして歩く魔ナシである。
奴はクリティカルにとって害毒だ。
自分にとって疫病神だ。
唯でさえ、村から恥ずべき魔ナシが産まれて不名誉だと言うのに。
……何ならココで成敗したって良い。
アシッドは、暗い笑顔でキュアに近づく。
「───……はあ」
子供の頃から肉盾として戦わされてきた戦闘経験豊富なキュアは、アシッドの殺気に気づく。 野生の魔物に比べて、余りにお粗末な殺気の隠し方だからだ。 そして余りに矮小な殺気ゆえに怖くない。
「悪いが、本当に急いでいるんだ。
オマエの相手をしているヒマは無い。
───【後退即歩】」
「あ???」
アシッドには、何が起こったか分からない。 キュアが何事かを呟いたら───一瞬で遠ざかったからだ。
……この 『現実の世界』 で。




