13 村人、出勤する。
「クリティカル?
へ……変じゃ無いか?」
「そんなこと無いわ。
兄さん、背が高くてイケメンだもの♪」
領主舘に勤める妹クリティカルの薦めで、領主舘へ就職面接をしたキュアは無事合格。 それから数日後の仕事初日、キュアは緊張していた。 支給された上等な服に、では無い。
……はず。
「領主様も使用人達も、みんな魔ナシに差別的じゃあ無いとは聞いているが……ほ、本当に俺で良いのか?」
「もう。
ソレはこの数日、言ったでしょう?
兄さんの勤勉さと識字率と計算力は、他人を馬鹿にする事しか出来ない能無しのアジルー村村民達とは違うのよ」
「お……おう」
キュアがクリティカルに素直に成った事により、クリティカルもまたキュアに対し素直に成った。 クリティカルはアジルー村の人間にも愛想良く笑っていたが……ソレは全てキュアの為であり、クリティカル自身は村民が嫌いだったとの事。
その、偽りの笑顔に全く気づかなかったキュアは 「女って怖い……」 と思いつつ───己の為に嫌いな人間に頭を下げさせてきた事への申し訳無さから、クリティカルに恥は掻かせられないなと誓う。
「じゃあ兄さん、私の部所は早く出なきゃいけないから。
行って来ます」
「ああ、行ってらっしゃい」
◆◆◆
「【後退即歩】……【後退即歩】……【後退即歩】───」
家を出る時間が迫り、ますます緊張が高まったキュアは【仮想現実装置】を起動。 ひたすら【後退即歩】の練習をして、気を紛らわせていた。
≪タイマー時間です≫
「もうそんな時間か」
飽くまでも仕事に支障が出ない程度に疲れ、無心になり緊張がほどけたキュア。 領主舘に着くころには取れる疲れだ。
家を出て、村を出る。
クリティカルが上等な服を着て村を出るのは毎日の光景だが……いつもはボロを纏っているキュアまで上等な服で村の外へ出るのを初めて見る村民達は、彼のことを奇異の目で見ていた。
大概の村民は、普段と違う様子のキュアを遠巻きに眺めるだけだったが……人が、変わったなら変わったでチョッカイを出さねば気が済まない人間という者は居る。
キュアが村を出て暫く、人目が付かない森の中に……ソイツは現れた。