103 村人、遠慮ってモノを知らない。
「兄さん!」
「キュア!」
腹に、大穴が空いたアシッド。
思わず飛び出ようとしたクリティカルとヘイストを……キュアが制止する。
「まだだ! みんな、出てくるな!!」
「「えっ?」」
キュアの残心。
彼の実力を知る二人と、執事コリアンダー、田舎の討伐隊隊長シナモンは咄嗟に身を屈める。
が……キュアの制止を無視して飛び出した者が居た。 街の討伐隊隊長だ。
「突撃ィ! 突撃ィィ!
我々が奴を仕止めるのだ!」
「待っ───」
総数、百人以上。 アシッドへ突撃する彼等を止める術を持たないキュアは……囲まれ、身動きが取れなくなる前に避難する。
一度は止めたのだ。
「炎の化物を、我等が討ち取ったり───」
「───"ッ"ッ"ッ"ら"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"っ"っ!!!!」
爆発。
アシッドから炎の嵐が吹き荒れる。
既にクリティカル達の前まで避難していたキュアは、皆を庇いながら、最大限の魔力を込めて魔法名を唱える。
クリティカルもまた、己の魔法の範囲内に仲間が揃っているのを確認し……魔法を使う。
「【 炎特防 】っ!!」
「【 防壁 】よっ!!」
合わさる兄妹の魔法。
先には、亀裂が入ったクリティカルの防壁が……カスリ傷の一つも入らない。
「ぐぅ……何という爆炎だ…………!
この防壁の陰に居る者か、噴水に飛び込んだ者以外、生存者は居るまい。
キュアよ……どういう事なのだ?」
「おそらく……アシッドは───あの森で死んだんです」
「兄さんっ!?
アシッドが死んだって……!?」
「あ、歩く死体だとでも言うのか!?」
「【 ゾンビ 】の雰囲気に……いや。
と、ともかく奴の……アシッドの殺気が 『 のっぺり 』 していたというか……」
「のっぺり?」
「まるで動かぬ死体や怪我人を、操作しているかのような……そんな感じがしたんですが」
「操作……」
クリティカルとヘイストは、互いに顔を見合わせる。
まさしく、二人は瀕死のキュアを【仮想現実装置】を通して操っていたと言えるからだ。 最高クラスの魔道具と同じ能力。
否。
もし本当にキュアの見立て通りならば……死体を完全に、生者の如く振る舞わせている。 そんなのは神の領域。
「神……神の、鳥───火の鳥」
マグマに住まう火焔竜を焼き殺す鳥。 島一つを蒸発させるチカラを持つ鳥。 火の鳥。
伝承で火の鳥は、神のペットだと言う。
キュアが【アジルー村】にて、アシッド相手に召喚した火の鳥。
姿を消した、アシッド。
虚空に消えた、火の鳥。
異常な炎のチカラを有して現れた、アシッド。
「───炎が……収まってきたな。
……クリティカル、防壁を解いてくれ」
「に、兄さん……」
「頼む」
「……………………無事に、帰ってきてね」
「ああ、ヘイストの母親とも同じ約束をした。
みんな無事で帰ろう」
防壁を解くクリティカル。
キュアは未だ熱気の残る公園を歩く。
腹に大穴の空いたアシッドの下へ。
アシッドの後ろを見つめながら。
「キ"ュ"ア"ぁ"ぁ"ぁ"…………!」
虚ろな瞳のアシッドが、拳を奮う。
業火は纏うものの……猛威は無い。
「アシッド───眠れ」
「──────」
アシッドの首を落とす、キュア。
静寂が、辺りを包み───突然公園内の炎と熱気が消えた。 それどころか……今までアシッドが燃やした街中の火災全てが一瞬で鎮火したのだ。
そして。
アシッドの死体の上に舞う火燐が……鳥を象り───やがて、人の形になる。
女だ。
天上の美貌。
足下まで流れる、火に煌めく細髪。
しなやかに伸びる手足。
何処かから、タメ息が聞こえた。
「女神……」
「女神様だ……」
「神の奇跡が今、目の前で……」
女は……アシッドの死体を踏みつけてキュアの前に降り立ち、微笑む。
≪……見事です。 我が主、キュアよ≫
「火の鳥……か」
≪ええ……良くぞ、我が試練を乗り越えました≫
公園の周囲や至る所から、すすり泣く声が聞こえる。 神の奇跡を目にした人間が、慟哭しているのだ。
≪我が奇跡は、主の奇跡。
この火災から民を救ったのは、我が主です。
神への賞賛は貴方へ───ぷぎゃっ!??≫
「何を言ってんだか、よく分からん」
女神の顔面に刺さる、キュアの拳。
女神は……美貌を変形させていた。 ジャイ○ンに殴られた、○び太の如く。




