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102/420

102 村人、化物を貫く。

 

「燃"え"ろ"ッ!」


「ふんっ」




 アシッドの、薙ぎ払うように振るわれた火炎の腕を飛びはねて回避するキュア。 アシッドはニヤリと笑い……息を溜める。




「引"っ"掛"か"っ"た"な"、キ"ュ"ア"!」


「オマエがな」




 空中で動きが止まったキュア目掛け、クチから火球を吐き出すアシッドだが……キュアはソレを読んでいた。




「【 二段ジャンプ 】からの、【 メイクハンマー 】!」


「ぎ"ゃ"っ!?」




 火球ごとアシッドを飛び越えつつ空中で半回転したキュアは、アシッドを幹竹割りにする。




「ぐ"う"ぅ"……だ"が"、効"か"ね"え"ぞ"っ!」


「強がり……では無いみたいだな」




 確かにアシッドの背中を裂いた、キュアの持つ杖から伸びる桃色の魔光。 だが、傷口を炎が被うと……火傷が傷を潰し───出血が止まる。




「キュアっ! 確か最後に見たアシッドは、腹辺りが真っ赤だった!

アレは腹が裂けていたハズだ!」


「裂けて……?」


「現場には、兄さん以外の血も大量に飛び散っていたそうよ!」




  キュアの作った隙で避難したクリティカルとヘイストの言葉。

 ヘイストも軽く記憶喪失が有り、眼病で詳しくは判断できない。 しかし……幼馴染み繋がりとはいえマフィアに一目置かれる存在であり、以前キュアに向けた殺気は本物であった。

 無視できる判断材料ではない。


 キュアは覚えていないが……肩口から腹まで、アシッドに内臓が露出する程の大怪我を与えていたのだ。




「そんな傷跡は無い……というか、炎で隠れているのか?」


「傷"口"を"焼"い"た"ん"だ"よ"ォ"ォ"。ク"ク"ク"……痛"か"っ"た"が"───オ"レ"様"は"不"死"身"だ"ぜ"ェ"ェ"!」


「不死身? 不死身……」


「ど"う"し"た"ァ"ァ"?

来"ね"え"な"ら"コ"ッ"チ"か"ら"行"く"ぞ"ォ"ォ"ォ"」


≪火炎は避けられるようです≫


「っ!?」


「な"ら"直"接"ブ"ン"殴"っ"て"や"る"ァ"ァ"」




 迫るアシッド。

 その直前、微かに聞こえた声。 女性の声にも聞こえた。

 見えた火燐。

 僅か……ほんの僅か、キュアの記憶を擽る。




「兄さんっ!?」


「っと……」


「死"ね"え"ッッ!!!」




 擽られた記憶に、一瞬呆けた顔になるキュアだが……戦闘を放棄するほど生易しい戦場は潜り抜けてはいない。 炎により巨大化した腕で連打してくるアシッドの連打を、キュアは【 炎絶ち 】と【 バックステップ 】で軽く往なす。




「当"た"れ"当"た"れ"当"た"れ"ェ"ェ"!??」


「【 グレードサラマンダー 】より遅い!」




 一瞬で行われる攻防。

旅館館執事コリアンダーと討伐隊は唖然とする。

 特に、キュアが魔ナシと聞いていたコリアンダーは愕然とするしか無い。




「こ……コレが領主様の仰られた、キュアの魔法か。

私も幼少の身から護身術は会得しているが───動きが見えなかった」


「コリアンダー様、兄の空中移動は魔法スキルですが……動きそのものは、普段通りですよ」


「なに?」


「へ、へえ……クリティカルの言う通りでさ。

【アジルー村】の連中に言われて、キュアを討伐隊で預かった事が有りやすが……アイツは魔法が無くとも、討伐隊の誰より強かったですだ」


「むう……」




 コリアンダーの剣技は、街の討伐隊や野盗程度なら一対三でも圧勝できる。 然れどキュアの動きは、スキルを無視しても異常だ。 老練な……百戦錬磨の戦士を見ている気分である。


 あの【 二段ジャンプ 】とて、自分が使えた所で……あんなにも一瞬で判断し使いこなす事など不可能だろう。




「一体どんな修羅の如き生活をしたら、アレ程の戦闘経験を積めるのか……」


「兄さん……」




 「寝ながら遊んで」、とは言えないクリティカルは固唾をのんでキュアの無事を願う。




「で、でもすげえやな……あれが今のキュアかい」




 遠目だとキュアは最小限の動きで避けているように見える。 田舎の村々を回る討伐隊隊長シナモンには、素早く動くアシッドに比べ、その周囲をキュアがノロノロ動いているようにすら見えた。


 シナモンはキュアに、魔物や盗賊退治に関する知識を与えはしたが……武の師匠では無い。


 キュアの動きは天然の動き。

 敵の攻撃を避けるというより……敵が攻撃しようの無い場所でジッとしながら、敵に攻撃が当たる場所に行くという物だ。


 野性動物の狩りに、人間の知性を加えた戦法。 ワンパターンなアシッドの攻撃など、当たりようが無かった。




「何故、以前のキュアはダメージを受けたのだ?」


「そう言えば階段に、柄だけの剣が落ちていた気がします。

予想外の熱に不意打ちを喰らったのでは……」


「対処さえしてしまえば、アシッドなど敵では無い……と。

ふん、やはり魔ナシ差別など下らんな」




 領主館で働く者は皆、何らかの傷を負った者でありながら領主に拾われた者ばかり。 その恩ゆえ、領主館の人間は仲間意識が強い。

 コリアンダーもその一人。




「死"ね"っ"!

死"ね"よ"っ"、キ"ュ"ア"ぁ"ぁ"ぁ"!!!!」


≪───ああ……我が(・・)主よ……!≫




 キュアに連撃が一切当たらず、混乱し体力を消耗し始めたアシッド。 しかし……キュアもまた疲れだしたのか、アシッドに追い詰められたようだ。


 思わず悲鳴を上げるクリティカル。


 やけに世界が静かだ。

 クリティカルは……キュアに微笑まれた気がした。

 




「【 炎絶ち 】」


「───ぐ"───」




 キュアは、アシッドの両腕を真上に払う。『 バンザイ 』 させた形である。




「【 ワイド───」




 アシッドの腹に、杖を押し当てるキュア。




「───ウォーターボール 】!!!」


「ぐ"も""ォ"ォ"ォ"っ!???」



 後に唱えた魔法を五つに分裂させる【 ワイド 】。 一カ所に当たった五つの水球は───アシッドの腹に大穴を開け……貫いた。

 

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