101 村人、化物を怒らせる。
「二人とも、無事だな!?」
「え、ええ……。
というか、兄さんの怪我は大丈夫なのっ!?」
「いや……貧民街へ行って、ヘイストの母親と話した後の記憶が全く無いんだ。
何時の間にか【ドラゴ───っと」
キュアは防壁魔法の中のクリティカルとヘイストを背後に、眼前の化物を睨みながら二人へと語りかける。
ついうっかり、兄妹だけの秘密を洩らしそうになる……が。
「キュア、自分は【仮想現実装置】と【ドラゴンハーツ】の事は聞いている」
「へ、ヘイスト?」
「済まない、キュアの怪我は全て自分の───」
「チ"ン"タ"ラ"話"し"て"ん"じ"ゃ"無"ぇ"よ"っ!?」
「むっ」
猛る化物。
有り得無い殺気。
山野の獣は、殺気を隠す。
盗賊野盗は、殺気で商売をする。
この化物は……殺気の塊───
「───いや、殺気が……化物なのか?」
「あ"?」
「に……兄さん?」
【ドラゴンハーツ】では、実に様々な魔物が出現する。
中には、殺気を放たずに攻撃してくる魔物も居るのだ。 殺気を読む事に長けるキュアには、殺気と殺害行為の解離は気味悪さが目立って見えた。
「オマエは───」
『どけっ、ソコの民間人!』
「……っ!?」
キュアが感じた違和感を……確認する前に、矢の雨が化物に降り注ぐ。
……討伐隊だ。
どうやら、自分達が苦戦する魔物に対して……たった一人の『凄腕』が、魔物を跳ね飛ばした事が気にいらないらしい。
「奴は無敵ではない! いずれ倒せる!
打ち込めっっ!!」
「う"ぜ"え"ッ!
オ"レ"様"が"キ"ュ"ア"を"殺"す"所"を"黙"っ"て"見"て"ろ"ッ!」
化物が炎の腕を振ると……矢の雨が燃え、公園の外周が炎上する。 普段、魔物や盗賊と戦う事のない都会の討伐隊は……感じた事のない熱気に腰を抜かしたり、或いは逃げだしたり。
クリティカルとヘイストを救う役には立たなそうだ。 無視するキュア。
「そんな事より今…… 『 キュア 』 と───
俺の名を呼んだのか?」
「は"ぁ"?」
「兄さん……アシッドよ!」
「あ、アシッド!?」
記憶の欠損を自覚するキュアだが……流石に、クリティカルの発言には正気を疑いかける。
アシッドは、腕だか腹を怪我し……肉食獣も住む森へと消えていったのだ。 生きているハズが無い。
しかし。
「お"い"お"い"ぃ"、オ"レ"様"を"忘"れ"た"か"あ"あ"……?
……ま"あ"な"あ"、弱"い"テ"メ"エ"の"全"身"を"叩"き"潰"し"て"や"っ"た"か"ら"な"あ"ぁ"ぁ"ぁ"」
「アシッド……なのか」
顔の右半分が燃え、もう半分は火傷で引きつっていて……アシッドの面影は無い。 ……が、バカっぽい喋り方。 ソレには覚えは有る。
「自分も、記憶が薄いんだが……キュアが貧民街で炎の化物に対して、「アシッド」……と」
「連"れ"ね"え"じ"ゃ"ね"え"か"。
弱"い"オ"マ"エ"が"、必"死"に"オ"レ"様"の"名"前"を"呼"ん"で"命"乞"い"を"───」
「…………済まん、たぶんソレは強酸をばら蒔く魔法名を唱えただけだ」
「───あ"?」
「貧民街に行った頃の所持魔法だと……うん」
気不味そうなキュア。
フォローしたつもりが、的外れだったヘイスト。
あと……自信満々だったアシッド。
やや、間抜けた空気が流れ───
「───わ"」
「わ?」
「訳"の"分"か"ら"ね"え"事"を"言"う"な"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
「きゃあっ!?」
キュアを殺すために、キュアに自分の強さを認めさせるために、化物へと成ったアシッドは……ブチ切れ、業火を振り撒く。 先程、クリティカルの防壁に亀裂を走らせた一撃である。
ニヤリと笑うアシッド。
自分達と……キュアの死を覚悟するクリティカルとヘイストだが。
「【 炎断ち 】!」
「が"っ!?」
アシッドの炎を斬ったキュア。
目を丸くするクリティカルとヘイスト。
アシッドは……勝利を確信した笑顔のまま、固まっている。
「───一つだけ、分かった事がある」
「あ"あ"っ!?」
「俺がやたら、『 炎 』 に対して準備をしていたのは……オマエに対してだったんだな」
「ソ"レ"が"ど"う"し"た"っ!?」
「……準備は万端だ。
アシッド、俺の勝ちだ」
アシッドは、過去最高に激怒の表情を浮かべる。
アシッドの喋り……邪魔くさ過ぎる……。




