10 村人、レッサーワイバーンを倒す。
「相棒、オメェが会得した【後退即歩】は、【レッサーワイバーン】の通常攻撃は全部無効化できるぞ!」
「よ、よし……【後退即歩】!
───ををっ!? 」
キュアが【後退即歩】と、意識して宣言した瞬間……軽い目眩にも似た感覚に襲われる。 レッサーワイバーンや周囲を見るに、約3mほど元いた位置から後ろに摺り下がっていた。
しかも、ほぼ一瞬で。
どうやらスキルとは、【弾丸】のような魔法のごとき超常の現象を起こす能力らしい。
「な……なんだ? 瞬間移動……??
歴史に名をのこす世界最高位の魔法使いには、そんな魔法を使える奴も居たらしいが……」
「魔法じゃねぇ、スキルだよ。
MPの代わりに体力を使うがな」
「な、なるほど」
レッサーワイバーンの手足や尻尾は【後退即歩】の範囲外。 確かに彼の言う通りタイミングこそ難しいが、このスキルを使いこなせればレッサーワイバーンの攻撃は届かないだろう。
「よ……よし!
【弾丸】と【後退即歩】さえ有れば!」
「おう、その意気だ! 行くぜっ!」
冷静さを取り戻したキュアは、囚人と共にレッサーワイバーンと戦闘再開。
レッサーワイバーンを圧倒してゆく。
「【後退即歩】……【弾丸】!
【後退即歩】……【弾丸】!
【後退即歩】【弾丸】【後退即歩】───」
【後退即歩】は、ほぼ瞬間移動という特性ゆえに 『使用した瞬間から、使用後の数瞬』 の間、他の動作が出来ない。 だが本来約3mほど後退する所を、体感にして約1.8mほどの辺りで一瞬だけ、他の動作を受け付ける瞬間が有るのに気付いたキュア。
いわゆる、ゲーム用語で言う 『キャンセル』 である。
今までの……アジルー村の連中から、肉盾として使われてきた戦闘とは違う───望むべくして望んだ戦闘。
かつての戦闘経験から、最早キュアにとってレッサーワイバーンは【後退即歩】の特性を掴む為の練習台でしか無かった。
レッサーワイバーンとの戦闘の果てに、キュアは無意識で【後退即歩】を連続で繋げたり、【後退即歩】後の硬直をキャンセルして【弾丸】を撃てるように成る。
「───ありがとう、すまなかった」
練習台になってくれた事。
練習台にしてしまった事。
キュアは、レッサーワイバーンにしか聞こえぬ声を掛け…………最後の猛攻。
レッサーワイバーンを撃破した。




