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Forget-Me-Not  作者: おかつ
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第3話「健康診断」①

「そういえば、洋輝君はまだ健康診断受けてないんだっけ?」

翌日。バイト中に突然マスターがそのような事を聞いてきた。

俺が「健康診断?」と聞き返すと、マスターは「その様子だとまだみたいだね」と返して続けた。

「この島では、毎年この時期になると『健康診断』を受ける事が義務付けられているんだ。もうそろそろ洋輝君の方にも案内が来るはずだよ」

「そうなんですか……。マスターはもう受けたんですか?」

「僕もまだなんだけど、案内が届き次第すぐに受けるつもりだよ。久留実ちゃんと一緒にね」

そこまで話した後、マスターは「ああ」と何かを思いついたように言った。

「もしよかったら君も一緒に来るかい?」

予想外の誘いに、俺は驚いたように「えっ」と口を開いた。

「いいんですか?」

「勿論。どうせ健康診断の時はお店をお休みさせてもらうしね。それに、まだ診療所の場所わからないだろう?」

「ああ……一応案内はしてもらったんですが、正直一人で行けるかどうかは自信ないです」

俺が苦笑しながらそういうと、マスターは「なら決まりだね」と穏やかな笑みで言った後、たまたまお客様として来ていた春日井さんの方を向いた。

「君もちゃんと健康診断行くんだよ」

マスターのその言葉に、春日井さんは一つ溜息を吐いてから「……わかっとる」とそっけない返事をした。



―そして、健康診断当日。

待ち合わせ場所である喫茶店の前に向かうと、そこには既にマスターと久留実が何かを話しているところだった。先に俺に気づいたのは久留実で、彼女は俺の方を向いて「あっ!」と口を開き、続けて手を振りながら言った。

「洋輝さーん! お待ちしておりましたー!」

俺はそんな久留実に手を振り返し2人に近づこうとしたところで、もう1人見覚えのある人物がいる事に気がついた。更に近づくと、やはりその人物は以前出逢った事のある人物だった。

「おはようございます、マスター。久留実……と、ローラも、おはよう」

俺がそう挨拶をすると、久留実は「おはようございます!」と相変わらず元気すぎるほどの挨拶を返されたが、ローラはすぐにマスターの後ろに隠れてしまった。まだ俺と話す事は慣れていないようだ。そう思いながら苦笑すると、補足するかのようにマスターが口を開いた。

「ローラちゃんも今日健康診断に行くつもりだったそうだからね、急遽一緒に行く事になったんだけど……構わないかい?」

「あ、はい。俺は全然」

マスターの言葉に俺がそう返すと、今度は久留実が「よかったです!」と満面の笑みで言った。その間にも、ローラはマスターの後ろに隠れながら、時々俺の顔をじっと見ては目が合うたびにサッと隠れてしまう。……何回か話しかければ、いつかちゃんと話が出来るようになるのだろうか?

「……さて、もうそろそろ向かおうか」

マスターが、そう言って歩き出す。続けて久留実も「はい!」と返事をして歩き出した。ローラはそんな2人の方を見て慌てて歩き出す。そんな3人の後ろに続くかのように、俺も歩き出した。


診療所に向かうまでの間、俺達は色んな話をした。他愛のない世間話から、仕事の話、この島の事、自分の事……本当に色々だ。ただ、ローラだけはただ黙って皆の後をついていくだけだった。時々相づちをうってくれる事はあったが、そんなに口数は多くなかった。

そうこうしているうちに、いつの間にか診療所に到着していた。よく見ると入り口の所に既に誰か立っているのが見える。この診療所の制服のようなものを着ているようだ。おそらくこの診療所の関係者だろう。

マスターが、その人物に向かって声をかけつつ手を振る。

「やあ、来たよ『華田』さん」

『華田さん』と呼ばれたその人は、その声に気づいて振り向く。服装や見た目からして男性のようだ。……と思った、次の瞬間。


「あらー! 待ってたわよー興村さん!」


「……えっ」

思わず動揺してしまった。そのまま『華田さん』の方を見ていると、彼(彼女?)は「あらやだ」と再び口を開いた。

「驚かせちゃったかしら? やだーごめんなさいねー! えっと、貴方が弓本洋輝さんね?」

「あ……はい、そうです」

華田さんの言葉に俺がそう返すと、華田さんは再び口を開いた。

「初めまして、弓本さん。あたしは『華田宗次郎はなだそうじろう』。この診療所で看護師として働いてるの。よろしくね」

「あ……はい、よろしくお願いします」

俺がそう返すと、華田さんはニコッと返した。

先程からの言動でなんとなく分かってきたが、華田さんは多分『オネエ』だ。

これまでそういう人はテレビでよく見る程度で、実際に見た事がなかった。まして関わった事もない。

そう思いながら華田さんの方をじっと見ていると、華田さんは「あら」と再び口を開いた。

「もしかして貴方、あたしみたいな『オネエ』を実際見たのは初めてかしら?」

「えっ……。あっ、はい。テレビではよく見かけるんですが……。あっ、すみません、ついじっと見てしまって」

俺がそう謝ると、華田さんは「いいのよー全然」と返した。

「寧ろそういう事ならもっと見てくれても構わないのよ! いいえ見てちょうだい! このあたしの美貌を!」

そう言って何かしらのポーズをとりだす華田さん。もしかしたらこの人なかなかの強烈キャラなのかもしれない。

そう思いながら若干押されていると、後ろからマスターが「ごめんね」と耳打ちしてきた。

「時々あるんだよ、ああいうの。慣れればただの面白い人だから、大丈夫だよ」

マスターがそう言うと、華田さんにも聞こえたのだろうか、「あっごめんなさい、引かないで」と謝って来た。その後、華田さんは一つ咳払いをして続けて言った。

「……さて、そろそろ本題に入りましょうか。健康診断ね、中で受け付けするから入って入って!」

華田さんがそう言って診療所の中に入っていく。俺達もその後に続いて、診療所の中に入っていった。


【「健康診断」②へ続く】

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