第2話「初仕事」②
開店からお客様が来るまでの間、俺はマスターに仕事内容を教えてもらった。
俺の仕事は接客。お客様から注文を聞いてマスターに伝え、出来上がったものをお客様に提供する。その後の会計も俺が担当する。……うまくできるだろうか。
少々不安に感じつつ、マスターや久留実と話しながらお客様を待っていると、数分後、1人目のお客様が現れた。
「あ、いらっしゃいませ……って」
1人目のお客様は、お婆さんだった。それも、昨日挨拶周りがてら愛依に島を案内してもらった時に出会った駄菓子屋のお婆さんだ。
お婆さんは俺の姿を見て「おや」と口を開いた。
「誰かと思えば、昨日の新入りさんじゃないかい? この喫茶店で働く事になったんだねえ」
「はい、今日からここで働かせて頂くことになりました!」
お婆さんの言葉に俺がそう返すと、お婆さんは近くの席に座りながら「そうかいそうかい」と優しい笑みで返した。
「ここのマスターさんはとても優しい人だしねえ。あんた働く場所ここにして正解だよ。あんた顔もそこそこイケてるしねえ」
「そ、そうでしょうか」
お婆さんの言葉に、俺は少し照れながらそう返した。『イケてる』なんて言葉何処で覚えたのだろう。るみか辺りからうつったのだろうか。
そんな事を考えていると、今のやり取りを見ていたらしいマスターの声が後ろから聞こえてきた。
「そうか、君は昨日『おきくさん』のところの駄菓子屋にも行っていたんだね」
「はい。島にあるある程度の場所は愛依に案内してもらいました」
マスターの言葉に俺がそう返すと、マスターは「そうかい」と返した。
マスターの言っていた『おきくさん』というのは、お婆さんの『あだ名』だ。
お婆さんの本名は『明関きく江』さん。昨日愛依から教えてもらったのだが、大体の人からは『おきくさん』だったり『おきく婆ちゃん』と呼ばれているらしい。それだけ、お婆さんが皆に親しまれているという事なのだろう。
きく江さんから注文を聞いてマスターに伝えると、その間に次のお客様がやってきた。
「おっ、洋輝さんじゃん。やっほー」
そう言って手を振る次のお客様は、るみかだった。その後ろにローラもいる。
俺が「いらっしゃい」と返すと、久留実がこちらに気づいたらしく、「あっ!」と口を開いた。
「お二方、お待ちしておりました!」
「おー、久留実もやっほー。もうすぐプロデューサーも来るよ」
るみかのその言葉に、久留実は「了解しました!」と返した。今日は何か『Memoria』としての打ち合わせがあるらしい。
俺はるみか達が窓際の空いた席に座ったのを確認すると、そこに行き4人分の注文を聞いた。どうやらプロデューサーの分の注文もるみかが事前に聞いていたらしい。注文内容をマスターに伝えると、るみかが「いやー」と口を開いた。
「愛依から聞いてはいたけど、まさか本当にここで働いてるなんてね」
るみかの言葉に、久留実が「そうなんですよ!」と返した。
るみかの隣に座ったローラは、先程から俺の方をチラチラと見ている。何度か目が合った時にさりげなく手を振ってみるが、ローラは慌ててすぐに目を逸らしてしまう。昨日るみかからも聞いていたが、相当な人見知りなのだろう。
暫くして、彼女達のプロデューサーらしき人が来店してきた。プロデューサーも女性らしく、るみか達の姿を見つけると、その席に近づき久留実の隣に座った。
きく江さんやるみか達が注文した品を席まで届けると、その後徐々にではあるがお客様が増え始めた。
注文を聞き、マスターに伝え、出来上がった品を届ける。その繰り返し。俺はなるべく注文を聞き間違えたり聞き逃したりしないように気をつけながら仕事を続けた。
その間に打ち合わせが終わったらしい久留実が、再び手伝いに入る。その分少しだけ仕事が楽になった。
お客様の中には見覚えのあるお客様もいた。恐らくこの島の人だろう。何度か「おっ昨日の新入りか」など声をかけられる事もあった。
昨日逢ったばかりなのに、もうこの島の人達に顔を覚えられたのか。そう思うと少し嬉しいような恥ずかしいような、そんな気分になった。
【初仕事③に続く】




