第15話「裏の記憶〜御厨秀将〜」③
長良さんから話を聞いた後、俺と御厨さんは春日井さんにゲストルームへと案内された。
案内されたのは2人分のシングルベッドが置いてある部屋。テレビや本棚等一通りの家具は揃っているようだ。
御厨さんは「一人部屋でもいい」と言っていたが、春日井さんがそれを許さなかった。
「今の状態のあんたを一人にするのは危険や。なんかあった時に対処できひん。弓本、護衛したれ」
「分かりました。……春日井さんはどうするんですか?」
「俺は長良にもうちょい話聞くわ。……ああそれとるみかにも連絡しといてくれへん? 御厨の状態は……言わんほうがええか」
「そうですね。るみかには『暫く春日井さんの家に泊まる事になった』とだけ伝えておきます」
春日井さんの言葉に俺がそう返すと、春日井さんは「頼むわ」とだけ返して部屋のドアを閉めた。
その後るみかに連絡すると、るみかからは『分かった。こっちは一人でも大丈夫だからってヒデさんに伝えといてー』との返事があった。
……『ヒデさん』って呼んでるのか、御厨さんの事。なんて事を思いながら了解と返事をした。
「……るみか、一人でも大丈夫だそうですよ」
俺が御厨さんにそう言うと、御厨さんは「……そうか」と返事をした。
「……ちなみに、俺がヤクザだってのは」
「伝えてません。るみかを巻き込むわけにはいかないので」
「……おう。悪いな」
そんな会話があった後、暫く気まずい沈黙が続いた。
正直、長良さんの話は半信半疑で聞いていた。
るみかの一件からも分かるように、御厨さんはとても明るく正義感が強い。だからこそ『警官』としてこの島の人たちに慕われているのだろう。俺も、多分春日井さんもその一人だ。
ただ、長良さんが嘘をついているようにも思えなかった。俺にはなんとなく分かる。あの人は嘘をつけるような性格では多分ない。
『巌鉄会』の人間に御厨さんの所在がバレるのは良いとして、もし『総流会』の人間にバレてしまったら。
なんて、我ながら不謹慎な事を考えていた時だった。
「ぐっ……!」
呻き声が聞こえ、慌てて御厨さんの方を見る。
御厨さんは頭を抱えて蹲っていた。
「御厨さん!」
俺は駆け寄って御厨さんを支える。
「大丈夫ですか、御厨さん?」
「っ……悪い、大丈夫だ」
御厨さんはそう返しながら、近くにあったベッドにゆっくり座り直す。
俺はそれを支えながら、御厨さんの隣に座った。
「急にどうしたんですか、御厨さん」
俺がそう聞くと、御厨さんは一度深呼吸をしてから答えた。
「……さっきの、話。春日井にも弓本にも、これ以上迷惑かけたくなくて、なんとか思い出そうとしてた。……そしたら、すげえ頭が痛くなって」
話を聞いて、俺は成程、と納得した。
御厨さんは失った記憶を無理に思い出そうとして、負担をかけてしまったのだろう。
結果、強烈な頭痛が襲った、と。
御厨さんの背中をさすりながら、俺は言った。
「無理に思い出そうとしたら、自分を傷つけるだけですよ」
「……そう、だな。……悪い、弓本」
「いえ。……なんか今日の御厨さん、謝ってばっかりですね」
「それしか言えねえんだから、しゃーねえだろうが」
俺の言葉に、御厨さんが眉間に皺を寄せながらそう返す。……御厨さんには申し訳ないけど、ちょっと面白い。
俺は笑いを堪えながら「そうですね」と返した。
ーふと、俺のスマホが震えた。
通知を見ると、春日井さんからの連絡だった。俺はアプリを開いて春日井さんからの連絡を確認しー驚愕した。
『【総流会】のヤツが来た。御厨をその部屋から出すな』
俺は、何か言いかけた御厨さんを制して春日井さんからの連絡を映した画面を見せる。
御厨さんは了承したように頷いた。
今は、おそらく長良さんか春日井さんが対応しているところだろうか。今の内に御厨さんが身を隠せる場所を探さなければ。
そう思い、辺りを見渡す。……が、どこに隠れてもすぐに見つかりそうな気がしてならなかった。
相手はあの『総流会』の人間だ。人が隠れそうな場所などある程度把握しているだろう。
だが、せめて。
俺はスマホのメモ帳を開いて文を書き起こし、それを御厨さんに見せる。
『念の為ベッドの下に隠れていてください』
ー『ベッドの下』、なんて一番見つかりやすい場所。自分でもそう思った。だがそうするしかなかった。
御厨さんは困惑しながらも了承し、ベッドの下に隠れた。その数十秒後に、再び俺のスマホが震える。春日井さんだった。
『すまん、止められなかった』
それだけ。ただそれだけだが、状況を把握するには充分だった。
せめてもの抵抗として、俺は近くに置いてあった箒を手に取り構える。
ーガチャ。
部屋のドアノブが、動く音がした。
【第15話「裏の記憶〜御厨秀将〜」④へ続く】




