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Forget-Me-Not  作者: おかつ
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第14話「別人格の記憶~華田摩耶~」③

真癒さんの言葉に、宗次郎さんは「だって」と返した。

「そんなの当たり前じゃないの!」

「……驚いたり、しないの?」

「そりゃあ、最初は驚いたわよ。けど、摩耶さんも真癒さんも一人の人間。ちゃんと生きてる。……そうでしょ? だったら、それを否定する事なんて出来ないわ。少なくとも、あたしには」

宗次郎さんの言葉に、真癒さんは驚いたかのように数回瞬きをした。

が、その後何処か安堵したかのようにフッと微笑んだ。

「……ありがとう、宗次郎さん。正直、否定されると思ってたわ。『摩耶』と『真癒』、どちらかの人格を消去しなければならない。閉じ込めなければならない。……そういう覚悟で来たのだけれど」

真癒さんがそう言うと、宗次郎さんは「その必要はないわ」と微笑み返した。

「あたしは摩耶さんの事も大事に思ってるし、真癒さんの事も大事にするわ。真癒さんともっとお話ししたいしね! それに、この島にいる人達は皆優しいし適応能力が高いのよ。だから真癒さんの事もきっとすぐに受け入れてくれるわ」

「宗次郎さん……」

宗次郎さんの言葉に真癒さんがそう返す。

その後、今まで黙って2人の話を聞いていたマスターが「宗次郎さんの言う通りだよ」と口を開いた。

「最初は皆驚くかもしれないけど、案外皆慣れるのが早いものだよ。そうだよね、弓本君」

マスターのその言葉に、俺は「はい」と答えた。

「……それに。……えっと、宗次郎さんも似たようなこと言ってたんですけど、どちらかの人格を『否定』して閉じ込めてしまうっていうのはちょっと違うと思うんです。だって、どっちもつらいだけじゃないですか、そんなの。それって……なんか、『殺してしまう』のと同じになってしまうような、気がして」

そこまで話した後、なんだか偉そうな事を言ってしまったような気がして慌てて「ごめんなさい!」と頭を下げた。

しかし真癒さんは首を横に振りながら「謝る必要はないわ」と返した。

「寧ろ、ありがとう。その言葉を聞いて安心したわ。……そうね。どちらの『人格』も、無理に閉じ込めてしまう必要なんてないのかもしれない。だって、受け入れてくれる人達がいるもの。少なくとも、ここには」

そう言いながら真癒さんは立ち上がり、カフェラテ代をカウンターテーブルの上に置いた。

「じゃあ、私はこれで失礼するわ。カフェラテも美味しかったし。……ああ、それと最後にもう一度。……本当にありがとう。話を聞いてくれて。……『華田真癒』の事も、『華田摩耶』の事も、受け入れてくれて」

そう言った真癒さんの目は、少し涙で潤んでいるように見えた。



真癒さんが去った後、続けて宗次郎さんも「診療所の仕事があるから!」とその場を去った。

去る前に、宗次郎さんは俺達の方を向いて言った。

「そうそう。……あたしからもお礼を言わせて頂戴。今日は本当に色々ありがとう。助かったわ」

そう言った宗次郎さんの目も、涙で潤んでいるように見えた。

―やはり、相当心配だったのだろう。摩耶さんの事も、真癒さんの事も。

宗次郎さん自身が受け入れることが出来ても、同じようにその場にいた俺やマスターがもし『否定』していたら。……その事を考えると、ゾッとした。



その翌日、俺は偶然にも華田夫婦とばったり会った。

俺が「お疲れ様です」と話しかけると、向こうも「おや」と口を開いた。

「お疲れ様。今日はお休みかい?」

俺は口調で相手が『摩耶』さんの方であると確認すると、質問に「はい」と答えた。

「お二人はこれからお出かけですか?」

「ああ。ちょっと夕飯の買い出しに付き合って貰っているんだ。……ああ、そういえば昨日は『真癒』が世話になったようだね。宗次郎さんから聞いたよ。ありがとう」

摩耶さんの言葉に、俺は「いえ、全然!」と首を振った。

「大した事は、全然してませんし! ……ああ、そういえば摩耶さん。失っていた記憶が戻ったという事は、摩耶さんってこの島から……」

俺がそう言うと、摩耶さんは「いや?」と首を振った。

「私はまだこの島にいるよ。先程許可ももらってきたところだ。……私の記憶が戻っても、まだ『旦那』の記憶が戻っていないからね」

そう言いながら、摩耶さんは宗次郎さんの方を向いた。

宗次郎さんは「ええ」と返事をした。

「だから、あたしの記憶も戻るまでは摩耶さんもここに残るわよ。もちろん、真癒さんも」

宗次郎さんのその言葉に、俺は「へえ」と相槌を打った。


―本当に、仲の良い夫婦なんだな。


そう思いながら、俺は海辺の方を見た。

「……ん?」

ふと、1台の舟が目に留まった。なんだかただの舟ではないような気がしたのだ。

考えすぎかもしれないが、何かを『監視』している、ような。

「? ……どうしたの弓本さん?」

ふと宗次郎さんにそう声をかけられ、俺は慌てて「なんでもありません!」と返した。

―あの舟は、一体?

(……まあ、そんなに深く考えなくてもいいか)

そう思い、俺は華田夫婦に別れの挨拶をしてからその場を去った。



【第15話へ続く】

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