第14話「別人格の記憶~華田摩耶~」①
るみかの件から1週間が経った。
あの時感じていたモヤモヤはすっかりなくなり、俺はいつも通りの日常を送っていた。
あれからるみかもいつも通りの明るい表情に戻っており、正直ホッとした。今は御厨さんと楽しく暮らしているようだ。
暫く活動を休止していた『Memoria』も、昨日から活動を再開した。るみかが退院した時、久留実が号泣しながらるみかに抱きついてたっけか。
今日はその『Memoria』の3人が、今度出す予定の写真集の打ち合わせのために喫茶店に集合していた。色々撮った写真の中からお気に入りの写真を選び、それを写真集にして売り出す予定らしい。
真剣に選んでいる様子をどこか微笑ましく思いながら接客を続けていると、喫茶店の扉が開いた。
「いらっしゃいま……せ?」
俺はそう言いながら扉の方を向き、その後首を傾げた。
そこに立っていたのは、宗次郎さんだった。
だが、どこか様子がおかしい。
「……あの、宗次郎さん?」
俺がそう話しかけると、「こんにちは」と挨拶をした。その表情は何処か不安げだ。
「いらっしゃい。……どうかしたのかい?」
続けてマスターがそう聞くと、宗次郎さんはカウンターに歩み寄りながら口を開いた。
「ちょっと、相談したいことがあって……。……時間、大丈夫かしら?」
「構わないよ。その表情からして、深刻な話なんだろう?」
「ええ。……ごめんなさい。けど、他に相談できる相手が浮かばなくって」
「気にしなくていいよ。……ところで、相談っていうのは?」
マスターがそう聞くと、宗次郎さんは「ええ」と返事をしてから、続けて言った。
「……その前に。ちょっと長くなりそうだし、コーヒーをいただけないかしら? いつもの、砂糖多めのやつね」
宗次郎さんのその言葉に、マスターは「了解」と返事をし、コーヒーを淹れだした。
コーヒーが出されると、宗次郎さんは「ありがと」とお礼を言って一口飲んだ。
その後、カップを置くと再び口を開いた。
「……相談っていうのは、実は摩耶さんの事なの」
「摩耶さんの?」
宗次郎さんの言葉に俺がそう聞くと、宗次郎さんは「ええ」と頷いた。
「摩耶さん、この間たまたまテレビで流れていた特集を見てから様子がおかしくなっちゃって。何か考え事をしてるみたいに、あたしが話しかけても上の空で。……今まで、あたしの話を上の空で聞くなんて事一度もなかったのに」
宗次郎さんの話を一通り聞くと、マスターが「なるほど」と返した。
「……ちなみに、その特集の内容は覚えてるかい?」
「ええ。……っていっても、なんとなく見てただけだから詳しくは覚えてないんだけど……」
マスターの言葉に、宗次郎さんはそう返しながら少し考え、暫くして再び口を開いた。
「確か……『解離性同一性障害』の人の特集だったわ」
「『解離性同一性障害』……?」
聞き慣れない言葉に俺がそう聞くと、宗次郎さんは「ええ」と頷いた。
「『解離性同一性障害』っていうのは、簡単に言うと『自分の中に、自分とは別の人格が存在するっていう障害』の事よ。そうね……、『多重人格障害』って言ったほうが馴染みがあるかしら?」
「ああ、そっちなら聞いた事あります。……そういえば、映画とかでもよく題材にされているような?」
「確かにそういう映画もあるわね。……ただ気になるのは、摩耶さんがその特集を妙に真剣な表情で見ていたことなの。最初は仕事の関係で気になってるのかと思ったけど……どうも違うみたいで」
「確かに、それは気になるね……」
マスターの言葉に宗次郎さんが「でしょ?」と返す。
確かに、宗次郎さんの話を聞くだけでもすごく気になる内容だった。
『解離性同一性障害』。それが摩耶さんと何の関係があるんだろうか……?
そんな事を考えていると、再び喫茶店のドアが開いた。
その音に俺が「いらっしゃいませ」と振り向くと、そこには1人の女性が立っていた。
知らない人、だがどこか見覚えのある雰囲気の女性だった。
その既視感の正体は、宗次郎さんの言葉ですぐに分かった。
「摩耶さん……? 摩耶さん、よね?」
確かに、よく見ると女性の正体は摩耶さんだった。だが、いつもと雰囲気が違う。
その様子に首を傾げていると、摩耶さんは俺達の方を見て言った。
「……皆さんとは初めまして、よね。私は『真癒』。皆さんがよく知っている『華田摩耶』の、『別人格』よ」
【「別人格の記憶~華田摩耶~」②へ続く】




