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Forget-Me-Not  作者: おかつ
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第13話「縛られた記憶~荒若るみか~」④

診療所に戻ると、華田夫婦と誰かがなにやらもめている様子だった。

とりあえず声をかけようと少し近づいたが、その『誰か』の正体にすぐに気がつき、思わず立ち止まってしまった。


もめていたのは、華田夫婦と―あの『るみかの両親』だった。


恐らく両親は、るみかを家に連れ戻そうとしているのだろう。だが華田夫婦がそれを止めていると言ったところか。

そう予想しながら更に少し近づく。

(……ん?)

ふと、何処か違和感を感じて更に立ち止まる。

もめていたのは、華田夫婦とるみかの両親だと思っていたのだが、どうも違う。

実際言い合っていたのは、華田夫婦と―『るみかの母親だけ』であり、父親である荒若修造の方は黙って見ているだけだったのだ。

……だが、一体何故?

ふと、父親の方と目が合った。どうしようかと考えている内に、今度は摩耶さんの方が俺に気づいた。

「……おや、弓本さんじゃないか」

摩耶さんがそう言うと、宗次郎さんもるみかの母親もこちらを見てきた。

とりあえず「……どうも」と挨拶をすると、母親の方が暫く考えた後「……ああ」と口を開いた。

「貴方は確か、先日港の方でお会いした……」

「ええ、そうです。あの時るみかと一緒にいた者です。……ところで、一体何が?」

俺がそう言うと、るみかの母親が俺の方に駆け寄りながら「聞いてくださいな!」と眉をゆがめた。

「あのお医者さん達、『るみかの記憶は戻りましたが、貴方方の元に返すわけにはいきません』って言うんですよ? 私があの子の母親なのに! あの人があの子の父親なのに!! 酷いと思いませんか!?」

「と、とりあえず落ち着いてください……!」

俺はるみかの母親をそう言って落ち着かせようとしたが、母親の怒りは収まらない様子だった。

……だが、正直摩耶さんや宗次郎さんが『るみかの両親にるみかを引き渡せない理由』は分かっていた。

二人とも、荒若家の事情に関してある程度知っているのだ。特に、『母親の事』を。

恐らく事前に御厨さんから話を聞いていたのだろう。あるいは、るみか本人から。

そう考えながら何度も母親を落ち着かせる。やがて少し冷静になったのか、母親は俺から離れ「……ごめんなさい」と謝ってきた。

「みっともない所をお見せしてしまいました。……ですが、分かって頂けますよね? 私は間違いなく『荒若るみかの母親』なんです。……それなのに、るみかに会う事さえ許されないなんて。こんな酷い事……!」


―プチン。

その言葉を聞いた瞬間、堪忍袋の緒が切れた音がした。


「……だったら」

俺の言葉に、母親は「え……?」と何処か困惑した様子で返事をした。

「だったら、今までの貴方の行動をよーく思い出してみたらどうですか? るみか本人から聞いたんですよ。貴方、『少しでもるみかのテストの点数が落ちれば土日祝祭日全部返上して部屋でずっと勉強させてた』らしいじゃないですか。しかもおやつも、ご飯も抜きで。それっていわゆる『虐待』って言うやつなんじゃないですか?」

「それは……! 私はあの子の為にそうしただけで……!」

「『あの子の為』? るみかに無理矢理勉強させて? るみかが本当にやりたかった事全部否定しておいて? それが『るみかの為』だって言うんですか!? ……今の発言でよくわかりました。あんたに……いや、あんたらに『るみかの両親である資格はない』! るみかを束縛するような事をするあんたに! ……そして、さっきから黙ってこっちを見てるだけで何も言ってこないそこの……あんたにも!!」

そこまで言った所で、宗次郎さんが「弓本さん、ちょっと落ち着いて……!」と俺を制止する。

俺は一つ深呼吸をしてから、「……すみません」と謝った。

その後母親の方を見ると、彼女は俺の方をじっと見ながら、どこか動揺していた。

暫くすると、今度は父親の方が近づいてきた。どこか険しい表情をしている。……ついに、俺がこの人に怒鳴られでもするのだろうか。そんな事を考えながら、その人の方を見た。

「……君の、言う通りかもしれないな」

「……え?」

父親から出た言葉は―想像していた言葉と全く正反対の言葉だった。

その様子にきょとんしていると、父親は続けて言った。

「……私は、『京子きょうこ』のやっていた事をただ見ている事しかできなかった。一度は『やりすぎだ』と注意した事があった。だが、京子は聞く耳を持たなかった。……だから私は、何も言わない事を選んだ。間違っている事は分かっていたが、私が京子の『しつけ』に対して口を出すことはしない事にしたんだ。……その結果が、これだ」

「修造さん……」

父親の言葉に宗次郎さんがそう返した。

父親は、ひとつ溜息を吐いてから、母親の方を見て言った。

「……帰るぞ」

「え……? でも、るみかは……?」

「あの子なら一人でもやっていけるだろう。……実際、私達が迎えに来るまで一人でこの島で暮らしていたんだから」

母親は納得していない様子だったが、父親は、「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」と深く頭を下げた後、母親の手を引いて去って行った。



その後、俺がるみかに事情を全て話すと、るみかは「……そっか」と何処か安堵した様子だった。

るみかがいる病室を出ると、そこには御厨さんが立っていた。

「すっかり遅くなっちまったし、家まで送ってやるよ」

そう言って、御厨さんは微笑んだ。

帰り道で、俺は独り言のように「……本当に、これで良かったのかな」と呟いた。

独り言のつもりだったのだが、隣で自転車を押しながら歩いていた御厨さんには聞こえていたようで、御厨さんは「……お前は何も間違っちゃいねえよ」と言った。


これは後から聞いた話だが、るみかは『特例』という形で島への永住が認められた。

『荒若るみか』は『御厨るみか』に戸籍を改めた。どうやら御厨さんの『養子』として永住するようだ。

ちなみにこれは、るみかの実の両親である荒若修造や荒若京子にも許可を得ているらしい。

荒若京子の件は何処から漏れたのかネット上で話題となり、それがきっかけとなって荒若夫婦は逮捕された。

これで、るみかは『自由』に生きることが出来る。何にも、誰にも縛られない生活を送る事が出来る。

……そう考えれば、恐らく、あの時の俺のあの行動は、正しかったのかもしれない。

俺はそう、自分に言い聞かせた。そして、心の中にわずかに残っていたモヤモヤを、無理矢理消した。



【第14話へ続く】

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