第13話「縛られた記憶~荒若るみか~」②
さっきの事を全部御厨さんに話すと、御厨さんは「成程な」と返した。
「荒若の『両親』だっていう奴ら……まあちと気になるとこだな」
「ええ。それに……るみかがなんであんな風に拒んだのか、も」
御厨さんの言葉に、俺はそう返しながらるみかの方を見る。
るみかは、依然何処か困惑した表情で俺の方を見ている。おそらく自分でも、なんであんな風に叫んだのか分かっていないのだろう。
―『来ないで』。
久々に再会したであろうるみかの両親からしたら、間違いなく傷つく一言だ。そんな一言を、何故?
「うーむ」と暫く考えていた御厨さんが、再び口を開いた。
「普通に考えりゃ、その両親と荒若の間で何かあったとしか思えねえな。それこそ荒若が、久々に会った自分の親を拒むくらいの」
「もしかして、それが……るみかの『失った記憶』……?」
御厨さんの言葉に俺がそう返すと、御厨さんは「まあそうだろうな」と返事をした。
「……とりあえず、荒若は今日はもう家で休んでろ。色々混乱してるだろうから。……ああ、なんなら家まで送ってこうか?」
御厨さんが、そう言ってるみかの方を見る。るみかも、その言葉に反応するかのように御厨さんを見た。
「……いや、大丈夫。一人で、帰れるから」
るみかがそう言うと、御厨さんは少し心配そうな表情をしつつも「……そうか」と返した。
るみかが帰った後、俺は御厨さんに「話がある」と言われ、記憶淵村の駐在所まで来た。
相手が見知った相手とはいえ、流石に警官に駐在所まで呼び出されるのは緊張する。
「……あの、取り調べってわけじゃない、ですよね?」
俺が恐る恐るそう聞くと、御厨さんは「んなわけねえだろ」と少し呆れ気味に返した。
「……それともなんだ? もしかして取り調べしなきゃなんねえようなやましい事でもあんのかぁ?」
「いえ! ありません! 一切ありません!!」
御厨さんの言葉に俺が慌ててそう否定すると、御厨さんは笑いながら「冗談だよ」と返した。
その後、御厨さんは真面目な表情で話し始めた。
「話ってのはな、その『荒若の両親』に関する事だ」
「『るみかの両親』の……? 何か、知ってるんですか?」
御厨さんの言葉に俺がそう聞き返すと、御厨さんは「おう」と頷きながら、とある雑誌をデスクの上に置き、話を続けた。
「その雑誌、様々な医療機関で無料配布されてるやつなんだけどよ。その中に、恐らく荒若の父親である
『荒若修造』ってやつが載ってる」
御厨さんの言葉に俺が確認するように雑誌を開くと、確かに『荒若修造』という名前と写真が載っていた。
その顔は、確かに俺がさっき見た二人組の男性の方だ。
「あっ! この人です! 確かに見ました!」
俺がそう御厨さんに告げると、御厨さんは「やっぱそうか」と返事をした。
「そいつ、世界レベルで有名な医者らしくてな。何でも数多くの難しい手術を成功させてきたらしい。その雑誌の記事にも、そういう内容の事が書かれてる」
「そうなんですか!? ……あっ、じゃあもしかして摩耶さんや宗次郎さんも……」
「間違いなく知ってるだろうな。……そいつの、悪い『噂』も」
「悪い……『噂』……?」
御厨さんの言葉に俺がそう返すと、御厨さんは「おう」と頷いた。
「確かに手術の腕は確かだし、周りからもそれなりに尊敬されてるのは確かだ。……だがその一方で、そいつ『自分の奥さんや娘に対してかなり厳しい』って『噂』だ。奥さんや娘にGPSを持たせて常に行動を監視したり、娘の将来も決められてるらしい」
「えっ!? そんな……それって『束縛』っていうんじゃ……?」
御厨さんの話に衝撃を受けつつ俺がそう聞くと、御厨さんは「間違いなく『束縛』してんな」と返事をした。
『束縛』。自分の行動を制限され、将来も勝手に決められて。そんな自由のない生活を強いられていたのか、るみかは。
「考えられるとすりゃ、そんな自由がねえ生活に限界を感じた荒若が家出した後、何らかの出来事が起き、その際自分の両親に関する記憶を全て失った……ってとこだな」
御厨さんはそう言いながら先程出した雑誌を見つめる。
その後御厨さんは「ああ、それと」と付け足すように再び口を開いた。
「今俺が話した事は誰にも言うんじゃねえぞ。あくまで俺の憶測にすぎねえし、仮に俺の仮説が本当だとして、それが荒若の耳に入ったとなりゃ、あいつ自身の『負担』にもなりかねんからな」
御厨さんの言葉に俺は「はい」と返事をした。
帰宅後、俺は先程の御厨さんの話を自分なりにまとめてみた。
『父親に色々制限される事が嫌になったるみかが家出をし、家出中に何らかの出来事が起き、その際自分の両親に関する記憶を失った』。
「……ん?」
まとめていく中で、ふと疑問点が浮かんできた。
―それじゃあなんでるみかは、『母親も拒んだ』のか?
御厨さんの話と照らし合わせても、るみかは『母親には何もされなかった』のに『母親も父親同様に拒んだ』事になる。
……それは一体、『何故』?
(……明日、もう一度御厨さんに相談しよう)
そう思い、その日はもう眠りにつく事にした。
【「縛られた記憶~荒若るみか~」③に続く】




