第13話「縛られた記憶~荒若るみか~」①
『勿忘祭』の翌日。
この日はマスターが「流石に疲れただろうから」と休みにしてくれた。正直昨日は帰宅してからすぐにベッドに倒れ込むような形で寝てしまっていた為、休みにしてくれたのはとても有難かった。
とはいえ特にやる事もなかった俺は、とりあえず島を散歩する事にした。もはや散歩が趣味になってきているような気がする。……まあ、それはそれでいいか。
そんな事を考えながら暫く歩いていると。
「……ん?」
港に、男女2人組が立っているのが見えた。何やらきょろきょろしている。新しい住民だろうか? ……いや、それなら村長も港に来ているはず。
……だとしたら観光客か?
俺はその2人に近づき、声をかけてみることにした。
「あの、何かお困りでしょうか?」
そう声をかけると、2人は俺の方を見た。
……あれ、この2人何処かで見たような? そう首を傾げていると、男性の方が「ああ」と口を開いた。
「良い所に来てくださいました。実は人を探しておりまして」
「人? この島の住民の中にいるんですか?」
男性の言葉に俺がそう聞くと、男性は「そう聞いております」と頷いた。
「あの……『荒若るみか』という女の子がここに来ていると思うのですが、ご存知ありませんか?」
「るみか……?」
「ええ、こういう子なのですが」
男性はそう言って、1枚の写真を俺に見せてきた。
そこに写っていたのは、今目の前にいる2人と―少し暗い顔をした、だが確かに俺の知っている『荒若るみか』だった。
「……あの、失礼ですが貴方達はるみかとどう言った関係なのでしょうか?」
渡された写真を男性に返しながら俺がそう聞くと、今度は女性の方が口を開いた。
「実は私達、その子の『親』なんです」
「……『親』!?」
女性の言葉に俺がそう驚いたように返すと、2人とも「はい」と頷いた。
「ですから、お願いします。少し話せるだけで……いいえ、一目見れるだけで良いんです。居場所を知ってるなら教えて頂けませんか?」
女性の言葉に俺は肯定の返事をしようとしたが、ふと考えた。
……今、るみかがこの両親に会ったらどう思うんだろうか? 恐らくるみかはまだ失った記憶を取り戻せていない。もしその失った記憶がこの両親の事だとしたら? ……そしてそれが、もし、るみかにとって『良くない記憶』だったら……?
……だとしたら、何かもっともらしい理由をつけてお帰り頂かなくては。
「あの、申し訳ないのですが今るみかは……」
俺は頭の中で理由を考えながら言葉を返そうとした。……が。
「……るみか!!」
その言葉は、男性の声にかき消された。
俺がハッとして振り返ると、そこには―こちらをじっと見るるみかの姿があった。
……ああ、なんという最悪なタイミングで。
2人は「るみか!」と名前を呼びながらるみかに近づこうとする。
「るみか! 僕だ! お父さんだ!」
「るみか! お母さんよ、分かる? 分かるわよね!?」
そう言いながら2人が更にるみかに近づいていこうとする。……ダメだ。止めなければ。そう思い、俺が慌てて2人を止めようとした、その時だった。
「来ないで!!!!!!!!」
――これまで聞いた事のないるみかの叫び声が、響いた。
その声に驚いたのか、2人はその場に立ち止まった。俺も驚いて動けずにいたが、暫くして我に帰り、2人の前に立って説明した。
「……すみません。実はるみかは今一部の記憶を失っているようでして。その記憶が戻るまで2人の元には帰る事が出来ないんです。……すみませんが、今日のところはお引き取り頂いて宜しいでしょうか?」
俺のその説明に、2人は「……そうですか」と納得したかのように返事をした。
「分かりました。それなら仕方ありませんね。……ですが、またいずれ来ます。……また来るからね、るみか」
女性がそう言って、るみかの方に手を振る。その仕草にるみかが反応する事は当然なかった。
2人が帰った後、俺は一つため息を吐いてるみかの方を見た。
「るみか、その……」
何か声をかけようとして近づこうとした俺は、るみかの様子をみて驚いた。
――あのるみかが、何かに怯えるような表情をしていた。
やはり、あの両親との間に何かあったんだろうか? そうでなければ、両親が近づいてきた時にあんな言葉を叫ぶわけがない。……多分。
そんな事を考え、なんて声をかければいいか分からず戸惑っていると。
「弓本ー!」
遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
声が聞こえる方を向くと、御厨さんが走って近づいて来ていた。
御厨さんは俺の方に近づくと、俺とるみかを交互に見ながら再び口を開いた。
「パトロール中に凄い声が聞こえてきたから来てみたら……、何があった?」
俺は、さっき起こった出来事を全て御厨さんに話す事にした。
【「縛られた記憶~荒若るみか~」②へ続く】




