第12話「勿忘祭」②(※あとがき必読※)
『勿忘祭』当日。
祭りの開会式は全員参加との事で、俺もマスターも開会式のステージを見ていた。
村長の話を聞いていると、意外にも真面目な話をしており、いつも見るあの村長とは別人のようにも思えた……と、そう感じていた矢先。
「まあー今日は折角のお祭りなのでね。憂鬱な事とかは全部『忘れなさい』! 『勿忘祭』だけにのぉ!」
そう言うと、村長はガッハッハと笑った。周囲からはちらほらと苦笑いが聞こえてくる。
……ああ、いつもの村長だったか。そう思いながら苦笑していると、隣から愛依が俺の肩を軽く叩いて小声で言った。
「今のは聞き流して良いですよ。村長が、このお祭りの開会式でいっつも言ってるギャグですから」
「そう、なんだ……」
「はい。私も去年初めて聞いてちょっとポカンとしましたもん」
流石の愛依も、あのギャグでは笑えないようだ。
しかも毎年言っているという事は、この島にもう何年もずっといる人は聞き飽きたのではないだろうか。
開会式が終わると、俺はすぐに出張版『喫茶 laurier』での接客に入った。
『ハロウィン祭』とは比べ物にならないくらい繁盛しており、愛依も春日井さんも手伝いに入っていた。
……そういえば、春日井さんって何気に毎回手伝いに来てくれている、ような。
そんな事を考えながら接客をしていると、ふと見た事のある顔が見えた。
「あっ御厨さん! お疲れ様です!」
俺がそう言って近づくと、御厨さんは「お疲れさん」と返した。
「今年はいつにも増して大繁盛してんな」
「はい、おかげさまで」
「去年の『勿忘祭』も来場者がすげえいたけどよ、今年は更に増えたみてえだな」
「えっ、そうなんですか?」
御厨さんの言葉に俺がそう返すと、御厨さんは「おう」と頷き、コーヒーを一口飲んだ。
「まあ、今年は去年より『勿忘草』の花がいっぱい咲いてて綺麗だからな。それもあって人が増えたんだろ」
「そうですか……。あっ、そういえばその事で一つ聞きたいことがあるんですけど」
俺がそう言うと、御厨さんは「なんだ?」と首を傾げた。
「ちょっと前に、おきくさんから聞いた話なんですが……、この村の『勿忘草』の花が『失った記憶を運んでくる能力』を持っているって本当ですか?」
俺がそう聞くと、御厨さんが「その事か」と返した。
「まあそういう話も確かにある。『勿忘祭』が終わった辺りから、急に記憶を取り戻して島を出る奴等が増えだしててな」
「そうなんですか!?」
「おう。……ただまあ、俺は単なる『偶然』だと思ってる。実際『勿忘祭』の前にも記憶を取り戻したり、『勿忘祭』が終わってもずっと記憶が戻らねえ奴もいるくらいだしな。『噂』ってのは、大抵そんなもんだろ」
御厨さんの言葉に、俺は「そう、ですね」と返した。
確かに、『噂』は所詮『噂』だ。確たる証拠は、正直無いに等しい。
「……すみません、変な質問して。ありがとうございます」
俺がそう頭を下げると、御厨さんは「構わねえよ」といつもの笑みで返した。
その後は、出来るだけ『噂』の事を考えずに接客に集中した。
流石に忙しすぎてステージの方を観に行けなかったのが心残りだが、出番が終わった『Memoria』の3人が手伝いに加わってくれて助かった。
流石に露店をまわる事も出来なかったが、途中で村長や、摩耶さん、宗次郎さん、おきくさんが差し入れを色々持ってきてくれた。
『勿忘祭』が終わると、「休憩してから片付けようか」とマスターがコーヒーを淹れてくれた。
コーヒーを飲み、皆が持ってきてくれた差し入れを食べながら、愛依達と色んな話をした。
他愛のない世間話や、今日の『勿忘祭』の事、明日からの事。本当に色んな事を話した。
『Memoria』の3人は、本番前に少し露店をまわる時間があったらしく、どんなお店があったのかを詳しく教えてくれた。
忙しくて、接客しかできなかったけど。それでも、楽しい時間だった。
いつの間にか村長達も会話に加わって、ちょっとした打ち上げみたいになったけれど。
それでも、色んな人と色んな話が出来て、楽しかった。
―きっとこんな楽しい時間が、ずっと続いてくれるだろう。
―この時までは、俺を含めてここにいる全員が、そう信じ切っていた。
この先に待つものに、誰も気づかずに。
【第13話へ続く】
皆様、此処まで「Forget-Me-Not」を読んで頂き誠にありがとうございます。
「Forget-Me-Not」作者の「おかつ」と申します。
さて、折り返しの第12話が終わりました。
次から第13話に入りますが、ここで「ほのぼのした話が好き」「逆に殺伐としたドス黒い話は苦手、もしくは嫌いだ」このどちらも当てはまるそこのあなた。
悪い事は言いません。『この第12話で読むのを止めておいてください』。
何故か。勘の良い方はこの時点で、もしくはもう少し前から察しておられるかもしれません。
第13話から、一気に、「ほのぼのした日常」から、「一変します」。
中には残酷な描写も含まれております。
もう一度言います。そういう類のものが苦手な方は、此処で『読むのを止めておいてください』。
ここから先を読まれる方。ここからは『自己責任でお願い致します』。
それでは、後半もよろしくお願い致します。
―『彼等』の『欠けた記憶』が戻った時、『彼等』はそれを受け入れる事が出来るだろうか。
2020/02/04 「Forget-Me-Not」作者 おかつ




