第11話「新年①」
―1月1日、元日。
この島に引っ越してから初めて年明けを迎えた。
前日の夜から日付が変わるまで一応起きてはいたのだが、何処かから微かに聞こえてきた除夜の鐘をぼんやり聞いている間にいつの間にか寝てしまっていたらしく、朝6時に設定していたスマホのアラーム音で目が覚めた。
今日は朝からマスター・久留実・愛依と一緒に初詣に行く約束をしているのだが、さて、何を着て行こうか。
家のクローゼットを開いて少しの間考えていたのだが、やはり普通の服装でいいかと考え、たまたま目に止まった服を手に取った。……いや、正しくは『手に取ろうとした』。
―ピーンポーン……。
インターホンの音が鳴り、俺は驚いてドアの方を見た。
こんな朝早くに訪問者? いや、元日だからだと思うがそれにしても早すぎないか? ……それとも俺が集合時間を間違えて覚えていたのだろうか? 確か朝8時に喫茶店前に集合だったはずだが。
色んな事を考えながら恐る恐るドアを開ける、と。
「……えっ?」
そこに立っていたのは、ローラだった。
ローラは「あっ、えっと」と何処かオドオドした様子だったが、暫くして再び口を開いた。
「あの、す、すみません、朝早くに……。……えっと、新年のご挨拶を、しようと、思って」
「ああ、なるほどね。あけましておめでとう、ローラ。……俺こそごめんね、こんな格好で」
パジャマのままそう頭を下げる俺に、ローラは慌てて「い、いえ!」と首を振った。
「えっと、あけましておめでとう、ございます。……えっと、今年も、よろしくお願いします」
そう言って、今度はローラが頭を下げた。続けて俺が「こちらこそよろしく」と返すと、ローラは少し安心したかのように微笑んだ。
それにつられて俺も微笑むと、ふとローラの後ろに人の気配を感じた。
「……えっ!?」
その人物を見た俺は、更に驚いてしまった。
そこにいたのは―春日井さんだった。
俺の驚いた声に一瞬ビクッとしたローラは、その後後ろを見て「ひゃあ!」と驚いた。
その一連の様子を見ていた春日井さんは、ハアと一つ溜息を吐いた。
「……なんや、2人してそない驚かんでええやろ」
「あ、えと、す、すみません! ……あっ、あけましておめでとうございます、春日井、さん」
春日井さんの言葉にローラがそう言って頭を下げると、春日井さんは「はいはい、おめっとさん」と少し面倒臭そうに返した。
「あけましておめでとうございます、春日井さん。……ところで、春日井さんも新年の挨拶に?」
俺がそう聞くと、春日井は「それもあるんやけど」と言いながら、俺に紙袋を渡してきた。
「……あの、春日井さん……それは?」
ローラがそう首を傾げながら聞くと、春日井さんが答えた。
「あんた、マスター達と初詣行くんやろ? で、マスターにそれ渡すよう言われたんや。ついでに着付け方が分からんようなら着付けてやれ、と」
「……『着付け』?」
春日井さんからの返答に俺はそう返しながら紙袋を中身を見た。
中に入っていたのは―おしゃれな『着物』だった。
その後少し話した後、ローラは俺と春日井さんに一礼して去って行った。
自分で着物を着る事が出来ない俺は、春日井さんに着付けてもらう事にした。
……しかし、まさかマスターが俺の分の着物を用意しているとは思わなかった。という事は、恐らくマスターも着物で来るのだろう。確かに着物が似合いそうだ。……そういえば、愛依と久留実は振袖で来るのだろうか?
そんな事を考えながら、ふと春日井さんの方を見る。春日井さんは真剣な表情で俺に着物を着せていく。……春日井さんって着付け出来るんだな。
そんな事を考えていると、春日井さんが「……そういや」と口を開いた。
「……この間は、迷惑かけて悪かった」
「この間?」
一瞬何の事かと思ったが、以前春日井さんが倒れた状態で喫茶店に運ばれてきた事を思い出して「……ああ」と再び口を開いた。
「いえ。春日井さんが無事で良かったです。……それにしても、なんであの雪の中グラウンドの真ん中に立ってたんですか?」
ついでだから理由を聞いてしまおうと思い、俺がそう聞くと、春日井さんは一瞬手を止めた。……返答に困る事を聞いてしまったのだろうか。慌てて質問を取り消そうとすると、春日井さんは再び手を動かし始めて一言、言った。
「……それが、よう分からんねん」
「……『分からない』?」
俺が驚いたようにそう聞くと、春日井さんはコクッと頷き、続けて言った。
「なんかを思い出しかけたような気がせんでもない。……せやけど、それがなんやったかも分からへん。……で、気づいたらあの喫茶店のソファーに寝かされとったんや」
「そう、だったんですか」
春日井さんからの返答に、俺はそう返すしかなかった。
なんとなくしんみりした空気になってしまったが、その後すぐに再び春日井さんが口を開いた。
「……ほら、出来たで」
その声にハッとした。いつの間にか着付けが終わっていたらしい。
この家に姿鏡というものが存在しない為、自分で自分の全身を確認する事は出来ないが、見える範囲で確認した感じだと、意外にもサイズはピッタリ合っていた。
「あの、ありがとうございます」
俺がそう言うと、春日井さんは「おん」と軽く返事をした後帰って行った。
春日井さんが帰る前に、俺は一応初詣に誘ってみたのだが、「……人が多い所は嫌いや」と断られた。
【「新年」②へ続く】
遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます。
昨年は当作品及び過去作品を読んで頂いた皆様本当にありがとうございました。
本年も、少しずつではありますが当作品を頑張って更新していきたいと思います。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
2020/01/03 おかつ




