第10話「不穏な空気は冬に漂う①」
―12月。
周囲では「もう今年も終わりかー」「早いなー」なんて言葉が聞こえはじめる。
12月はクリスマスに年末に色々と忙しい時期だ。流石『師走』、といったところだろうか。
そんな中、喫茶店ではクリスマスまでのイベントが開催されており、その影響かお客様もいつもより少々多くなっていた。『ドリンクと一緒にケーキを注文すると、20%割引』などというよくあるようなキャンペーンだが、人間というのは『割引』という言葉に弱い。かくいう俺もその1人ではあるのだが。
「洋輝さん、大丈夫? 疲れてないかい?」
あまりの忙しさに気を遣ってくれたのか、マスターがそう言った。
俺が「大丈夫です!」と返すと、マスターは「そうかい。無理はしないでね」と微笑んだ。
土日は愛依がアルバイトとして入ってくれるし、久留実も『お手伝い』として入ってくれる。それにスタミナには多少自信があった為、正直に言うと本当にあまり疲れていないのだ。とはいえ、マスターが気を遣ってくれるのは嬉しかった。
……と、なんだかんだあって、この日も閉店まで仕事をした。
色々と片づけを終え、久留実は外の看板を『CLOCE』に変える為に外に出て―「……あ」と空を見上げた。
「? 久留実? どうしたんだ?」
俺はそう声をかけながら久留実に近づき、同じように空を見上げた。
「……ああ、雪か」
いつの間にか、外は雪が降っていたらしい。俺は暫く空を眺めていた、のだが。
「……ん?」
久留実は、いつの間にか店内に戻っていた。雪に気づいてからそんなに時間は経っていないはずだが。
俺が同じように店内に戻ると、久留実はドアや窓から少し離れた所にいた。暫く見ていると、久留実が外を見ないようにしている事が分かった。
「……久留実?」
俺が声をかけると、久留実は「はい!」といつもの元気な笑顔で返事をした。
「どうかしましたか、洋輝さん?」
「ああ、いや……。ただ、久留実がさっきから外を見ないようにしてたからそれが気になって」
久留実の言葉に俺がそう返すと、久留実は「……あー……」と苦笑しながら言った。
「……えっと、お恥ずかしい話なのですが……。私、実は『雪が苦手』なんです」
「……『雪が苦手』……?」
俺がそう聞き返すと、久留実はコクッと頷き、続けてこう言った。
「ああ、いや……『苦手』というか……、『怖い』っていう感覚に近い、ですね。理由はわからないんですけど、この島に来てから……いや、その前からだったかもしれないんですが、何故か『雪が怖い』んです」
「……そっか」
久留実の言葉に、俺はそう返すしかなかった。
『雪が怖い』。そんな人がいるのか。知らなかった。しかも、まさか久留実が。
そんな事を考えていると、「多分だけど」とマスターが補足するように口を開いた。
「広い場所に一面に雪が積もっているのを見ると、なんだか自分が雪の中に消えてしまうような感覚があるんじゃないかなと思うんだ。かくいう僕も、幼い頃にそんな事を思っていたんだ」
「そう、なんですかね……?」
マスターの言葉に久留実がそう返すと、マスターは「あくまで仮説だけどね」と返した。
だが、マスターの仮説は間違いだとは思わなかった。言われてみれば、確かに一面に雪が積もっている様子を思い浮かべると、ちょっとだけ怖いと感じるかもしれない。
そう思いながら、俺は窓の外を眺めた。
……すると。
「……ぃへんだ!!」
遠くからそういう声とともに、誰かが走ってくる様子が見えた。
よく見ると、それは何かを抱えた御厨さんだった。彼は徐々に近づいて来て、慌てた様子で喫茶店の扉を開けた。
「悪い! ちょっと助けてくれ!!」
そう言いながら入ってきた御厨さんが抱えていたのは、その場にいた全員がよく知っている人物だった。
「……って、え!? 春日井さん!?」
【「不穏な空気は冬に漂う」②へ続く】




