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Forget-Me-Not  作者: おかつ
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第9話「記憶淵村のハロウィン③」

こうして屋台を周っていると、改めて人の多さに驚く。

それもそうだ。このイベントはこの島の住民だけでなく、観光客や恐らく元々この島に住んでたであろう人達も集まってきているのだから。

愛依と一緒に周るのは正解だったかもしれない。でなければ俺でも多分迷子になる。

「洋輝さん! 次はあの屋台に行きましょう! 美味しそうなパンが売ってるみたいですよ!」

愛依がある屋台を指差しながら、俺の方を見てそう言った。その様子に少し微笑ましく思いながら、俺は「そうだな」と返した。


暫く周っていると、愛依がある屋台の前で立ち止まった。

「あの、洋輝さん! これやってもいいですか?」

愛依がそう言いながら指差す。指差した先を見ると、見覚えのある青く四角い水槽の中で金魚がたくさん泳いでいた。どうやら愛依は『金魚すくい』がやりたいらしい。

「ああ、いいよ。待っとくから」

「わーい! ありがとうございます! 実は私、こういうの得意なんですよー!」

俺が返事をすると、愛依はそう返してから、店の人にお金を渡して『金魚すくい』を始めた。

……正直、凄い集中力だ。以前聞いた『愛依は競技かるたが強い』というのも伊達ではないのかもしれない。

気づけば、1匹、また1匹と金魚がすくわれていく。その様子に俺も店の人も唯々驚いていた。

やがて、6匹までとった後再びポイを水につけたところで、そのポイは破けてしまった。

「あっ……破けちゃいましたねー」

愛依はそう笑いながら言った。その言葉に、店の人が「いやいや」と返す。

「嬢ちゃん6匹もとれたんだから大したもんだよ! 流石に6匹とも同じ袋には入れられねぇから、3匹ずつ分けて入れとくけど良いかい?」

「あっはい! それでお願いします!」

店の人からの問いに愛依がそう返すと、店の人は「あいよー!」と手際よく金魚を袋の中に入れていった。流石だ。大分手慣れている。


愛依が2つの袋を受け取ったのを確認した後、その場を離れた。

少し離れたところで、愛依が俺の方を向いた。

「それじゃあ、はい! これは洋輝さんの分です!」

そう言いながら、愛依は先程の金魚が入った袋の片方を俺に渡してきた。

俺は「えっ」と驚きながら、その袋と愛依を交互に見る。

「あれ? もしかして、お魚がお嫌いでしたか?」

「いや、そうじゃないんだけど……いいのか? 俺が貰っても。頑張ってとったんだろ?」

「いいんです! ほら、こうしてお祭り一緒に周ってくださったお礼もしたかったですし!」

愛依のその言葉に、俺は「そっか、ありがとう」と返した後、その袋を受け取った。


その後またしばらく周っていると、愛依が「あっそうだ!」と再び立ち止まった。

「洋輝さん! ちょっとステージの方観に行っても大丈夫ですか?」

「いいけど……誰か出るのか?」

愛依の言葉に俺がそう返すと、愛依は「はい!」と返した。

「チラシに載ってたステージプログラムによると、確かもうすぐ『Memoria』の皆さんのライブが始まる予定なんです!」

「あー成程、『Memoria』か」

「はい! きっと洋輝さんにも楽しんでいただけるんじゃないかと!」

「そうか。それは楽しみだな」

愛依の言葉に俺がそう返すと、愛依は「はい!」と返事をした。


―ステージの方に着くと、既に人が集まっているようだった。

幸い最前列に少しスペースがあった為、俺と愛依はそこに座る事にした。

席に着いた後、愛依は事前に持ってきていたらしいチラシの裏に書いてあったステージプログラムを確かめた後、「あっ」と口を開いた。

「丁度次が『Memoria』の皆さんのステージみたいですね!」

愛依のその言葉に、俺は「そっか」と返した後ステージの方を見た。

前のグループのバンド演奏が終わり、司会の男性が「ありがとうございましたー!」とステージを進行させる。……そういえば、こうしてお祭りのステージを座って見たのはいつ以来だろうか。

そんな事を考えていると、司会は「さて!」と続けた。

「皆様、お待たせ致しました! 続いては『記憶淵村』が誇るローカルアイドルユニット―『Memoria』の皆さんのライブをお楽しみください! それでは、どうぞー!」

司会のその言葉の後、会場から歓声や拍手が聞こえてきた。いつの間にか先程より人が集まってきていたようだ。

司会の男性がステージ上から去った後、音楽が流れ始め―『Memoria』のステージが始まった。

(……おおっ……!?)

そのステージに、俺は唯々圧倒された。

ステージ上に立っているのは、歌って踊っているのは、俺の知っている3人。そんな3人が、ステージ上では輝いて見えた。

事前に聞いていた通り、3人とも歌唱力が凄い。だが当然それだけではなく、ダンスも3人とも揃うべき所はキチッと揃っている。……正直、ここまでとは思っていなかった。

そして何より―3人とも楽しそうだった。

久留実やるみかは勿論だが、俺が何より驚いたのはローラだ。いつものローラの姿からは想像できない程楽しそうだったのだ。

そんな楽しそうな様子に、俺は自然とリズムにのるように体を動かしていた。



やがて楽しかったお祭りも終わり、屋台の片づけを手伝った後、俺は帰路についた。

帰った後、俺は引っ越し荷物に(何故かは分からないが)入っていた水槽を取り出し、セットをしてから、その中に愛依から貰った金魚を移した。

何故か都合よく金魚を育てる為の一式が全て揃っており、俺は少し疑問を覚えながら、とりあえず金魚にエサをあげてみた。

そのエサを食べている金魚の様子を見ながら、俺は今日1日の出来事を思い出し、思わず「フフッ」と笑ってしまった。


楽しかった『ハロウィン』も終わり、季節はもうすぐ『冬』を迎えようとしていた。


【第10話へ続く】

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