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Forget-Me-Not  作者: おかつ
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第9話「記憶淵村のハロウィン①」

10月。この月はこの島が2番目に盛り上がる月らしい。

『記憶淵村 ハロウィン祭』。この月は、島の住民は勿論のこと、この島に訪れる観光客も『仮装』して島を歩く事が出来る。

特にハロウィン当日である10月31日には大々的なイベントも行われ、そのステージには島のローカルアイドル『Memoria』も出演するという。


この時期になると、村中のお店が繁盛するという。それはここ『喫茶 laurier』も例外ではなかった。

お客様は皆何かしらの仮装をして料理やコーヒーを味わいながら楽しんでいる。

仮想しているのはお客様だけではなく、俺やマスターも、またこの時期だけ店の手伝いをしているらしい愛依や春日井さんも同様に仮装をしていた。

この島にそういう催し物もあるのかと驚いたが、何より一番驚いたのは。

(春日井さんって……女装とかするんだな……)

そう。春日井さんの仮装だった。春日井さんは所謂『ゴシックロリータ』と言われる服装をしており、しかもそれがなかなか似合っていたのだ。

そう思いながら自分の仕事を続けていると、「お兄さーん!」と声が聞こえてきた。どうやらお客様の1人が俺に話しかけてきたらしい。

「はい、なんでしょうか?」

俺がそのお客様が座っているテーブルの方に近づいて答えると、そこには3人の男性が座っていた。

「お兄さんは何の仮装をしてるの?」

「あっ、俺は『死神』の仮装をしております。ちなみにマスターは『亡霊』、あとの2人はそれぞれ『天使』と『人形』だそうです」

1人の質問に俺がそう答えると、3人は「へえー」と返した。

その後、別の人が違う質問をしてきた。

「……そういやもしかして、お兄さんこの島に最近引っ越してきたばっかりだったりする?」

「えっ、そうですが……何故それを?」

その人の質問に、俺が驚きながらそう聞き返すと、その人は「やっぱそっかー」と返した。

「いやね。実は俺達、ちょっと前までこの村の住民だったんだよ」

「えっ!? そうだったんですか!?」

男性のその言葉に驚きながらそう返すと、3人とも「そうそう」と頷いた。

「その時にはいなかったからねー君。マスターと愛依ちゃん、それから……龍之介君……だったかな? その3人は知ってるんだけど」

「春日井が来て少し後に出て行ったもんなーたすくは。俺は祐が出て行った1週間くらい後に島を出た! ……お前はいつだっけ?」

「俺? 俺は祐が出て行った1ヶ月前に出た。だからその『春日井龍之介君』っていう人とは関わってないよ」

「そっかー……。……あっ! ごめんねーお兄さん! 仕事の邪魔しちゃって!」

3人のうちの1人が、そう言って軽く頭を下げた。その言葉に、俺は「いえ」と返した。

そうか。こういうイベントがあると、元々この島に住んでいた人達も来る事があるのか。

そういえば、たまにマスターや愛依が「久しぶり」と声をかけている人が何人かいたような気がする。

そう考えると、その人達と俺は直接の関わりがないとはいえ少し嬉しくなった。この島の住民じゃなくなった後も、こうして島に『観光客』として遊びに来る事もあるのだ。

「なんか、嬉しいです。一度島を出た方がこうしてまた遊びに来てくださるの」

つい嬉しくなって俺がそう言うと、3人は「そりゃあーねー」と返した。

「この島には結構お世話になったし、遊びにも来るさー」

「そうそう。実際イベント事がなくても何回か来てるしね」

「落ち着くんだよなーこの島に来ると。なんかこう、『第2の故郷に帰ってきた』感じがしてさ」

3人の内の1人がそういうと、他の2人が「わかるー!」と返した。

その後別のお客様に呼ばれて、俺はその方に返事をした後、3人に「では」と会釈をしてその場を立ち去った。


「ああーあの3人ね」

その日の業務終了後、俺はあの男性3人組のお客様についてマスターに聞いてみた。マスターはすぐにそう言って話し始めた。

「あの3人が初めて来たのは数年前だよ。最初に祐君が来て、その後続けて三千春みちはる君と雄二ゆうじ君が来たんだ。ああちなみに、それぞれ『キョンシー』の仮装をしていた一番背の低かった子が祐君、『海賊』の仮装をしていて本を読んでいたのが三千春君、『マッドハッター』の仮装をしていて眼鏡をかけていたのが雄二君だよ。3人ともこの店にはよく来てくれていたからよく覚えてるんだ」

「そうなんですか。その時から3人はあんな感じで仲良さげだったんですか?」

「そうだね。3人ともそれぞれこの島で初めて会ったらしいんだけど、数週間後には既に仲良しだったよ。なにか共通の趣味でもあったのかもしれないね」

マスターのその言葉に、俺は「そうなんですか」と返した。

そんな3人が、島を出た後でも揃ってこの島に来ている。ということは、今でも相当仲が良い関係なのだろう。

……そういう人が、俺にもいつかできるといいな。

そんな事を薄ら考えながら、俺は帰宅の準備を始めた。


【「記憶淵村のハロウィン」②へ続く】

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