第5話「ヒトミシリアイドル」③
俺とローラが声の聞こえた方を向くと、何やら人が2人こちらに走って向かってきていた。
しばらくするとその姿が鮮明に見えてきた。後ろの方に見える1人は声の主―御厨さんだ。前の方に見えるのは黒い服を身にまとった男性。手には女性が持つようなピンクのバッグを持っている。
そんな事を考えていると、再び御厨さんの声が聞こえてきた。
「いい加減止まれっつってんだろ、この『ひったくり犯』がー!」
「……『ひったくり』!?」
御厨さんの言葉に俺がそう言いながら驚く。成程、男性が手に持っていたバッグは誰かから盗んできた物か。そんな事を考えている、と。
「……!?」
いつの間にか、ローラが道の方に移動していた。男性が近づいてくる。
まずい、このままではローラが怪我をしてしまうかもしれない。
「チッ、どけガキ!」
ひったくり犯が、ローラに向かってそう叫ぶ。
「ローラ!!」
ローラが危ない。そう思い慌てて俺がローラの名前を叫んだ、その直後だった。
―ドゴッ!
物凄く鈍い音がした。一瞬何が起こったか分からなくて、俺は思わずそのまま固まってしまった。その間に、男性はその場にうずくまり、御厨さんが男性に追いついて確保していた。
ひったくり犯が捕まったところで、俺はようやく思考が追いついた。
先程の鈍い音は―ローラが放った一蹴が、ひったくり犯の腹部に直撃した音だったのだ。
「……ローラ……?」
俺がローラの名前を呼ぶと、ローラはハッと気がついた様子で、慌ててあげたままだった右足を降ろし俺の方を見た。
「えっと、あの、私……えっと」
ローラが慌てた様子でそう言いながら、俺の方に近づいてきた。だがその後、すぐに御厨さんの声が聞こえてきた。
「よう、お前等だったか」
「あっ、御厨さん。お疲れ様です」
御厨さんの言葉に俺が会釈をしながらそう返すと、御厨さんは「おう、お疲れさん」と返し、続けてローラに言った。
「ローラちゃん、さっきはありがとな。助かったぜ」
その言葉に、ローラは「あ、いえ……」と俺の後ろに隠れながら言った。その姿は、先程ひったくり犯に見事な蹴りをくらわせた女性とは別人のようだ。だが、一応同一人物って事で良いんだろう。
そんな事を考えていると、御厨さんが再び口を開いた。
「そういや弓本は初めて見たんだよな、さっきのローラちゃんの一撃」
「あ、はい。凄い蹴りでしたよね。武術でもやってなければできないくらいの……」
御厨さんの言葉に俺がそう返すと、御厨さんは「だろ?」と返した。
「俺も何度も助けられてんだよ、あの蹴りには。ローラちゃん、一見大人しい女の子に見えっけど身体能力が人一倍高いらしくてよ。周りじゃ、どこか『軍隊』にでも入ってたんじゃねえかって噂だ」
「そ、そうなんですか!?」
「おう。まっ、ローラちゃん本人は記憶にないって言ってっけどな」
御厨さんのその言葉に、俺は「そうなんですか……」と返しながら、未だに俺の後ろに隠れているローラの方を見た。ローラは一瞬チラッと俺の方を見て、その後何処か恥ずかしそうに目を逸らす。
―俺がこの島で暮らし始めてから1週間過ぎ。
だが、それでも俺が知らないことが、まだまだ色々ありそうだ。
【第6話に続く】




