第5話「ヒトミシリアイドル」②
駄菓子屋に到着すると、まず俺が店の中に入った。その後ろからローラがついてきている。
少し奥の方に入ると、店内の椅子に座っているらしいおきくばあちゃんの姿が見えた。
おきくばあちゃんもこちらに気づいたらしく、「おや」と口を開いた。
「洋輝さんにローラちゃんじゃないかい。いらっしゃい」
「おきくばあちゃん、こんにちは」
おきくばあちゃんの言葉に俺がそう会釈をしながら返す。
その後ろでローラも会釈をする。……おきくばあちゃんとはまだそんなに話す事ができないのだろうか。そう考えながら店内を見回す。懐かしい駄菓子が、所狭しと並んでいる。
「それにしても、凄い数の駄菓子ですね」
店内を見回しながら俺がそう言うと、おきくばあちゃんは「当たり前さ」と笑いながら言った。
「ここは駄菓子屋だからねえ。定期的に色んな駄菓子を仕入れとるよ」
「まあ、そうですよね……。おっ」
おきくばあちゃんと話しながら商品を見ていると、ある商品が目に留まった。
「おおー、ねりあめだ!」
俺がそう言うと、おきくばあちゃんが「おや」と返した。
「ねりあめ好きなのかい?」
「はい! 小さい頃よく近所に買いに行って食べてました。いやー、懐かしいなあ!」
おきくばあちゃんの言葉に俺がそう返すと、おきくばあちゃんは「そうかいそうかい」と微笑みながら言った。
なんだか、ここに来ると子どもの頃を思い出す。このねりあめも、大人になってからは食べなくなってしまった。久しぶりに買うのもいいかもしれない。
そんな事を考えていると。
「……ねりあめ?」
後ろから声が聞こえてきた。その声に少し驚きつつ振り向くと、いつの間にかローラがこちらを見ていた。
ローラは俺の方をじっと見つめた後、ねりあめが並んでいる棚の方に近づき言った。
「あの、ねりあめって……どうやって、食べるんですか?」
「……えっ、ローラ、もしかしてねりあめ食べた事ないのか?」
ローラからの突然の質問に、思わず俺がそう返すと、ローラはコクッと頷いた。
「前から、気になってはいたんですが……食べ方、よくわからなくて……結局、買えてなくて」
「そう、なのか……」
ローラの言葉に俺が戸惑いつつそう返すと、ローラは再び頷いた。
成程、これが俗にいう『ジェネレーションギャップ』というやつか。いや、名前からしてローラは多分どこかの国からこの島にやってきた子だ。そこではこういうねりあめというものは見たことがないのだろう。それか記憶喪失でねりあめの食べ方を忘れてしまったかだ。……そうだと思いたい。
と、ここまで考えた所でふとあることを思いついた。
「……?」
ローラが横で首を傾げている。俺はローラに「ちょっと待ってて」と言い、ねりあめを2つ手に取っておきくばあちゃんに持って行った。
「すみませんおきくばあちゃん、これ会計お願いします」
俺がそういうと、おきくばあちゃんは「はい、ねりあめね」と返し電卓で金額を計算し始めた。
会計を済ませてお店を出た後、すぐ近くに設置してあったベンチにローラと2人で座った。
購入したねりあめは棒付きだ。俺はローラの方を見て言った。
「ローラ、メロン味とソーダ味、どっちがいい?」
ローラは少し考えてから「……メロン味」と答えた。俺は「はい」とメロン味のねりあめをローラに渡すと、残ったソーダ味のねりあめの包み紙をはがした。ローラも同様に包み紙をはがしたのを確認すると、俺は再びローラに言った。
「このあめ、2本の棒がついてるだろ? この2本の棒を1本ずつ持って、こうやって飴を練っていくんだ」
そう説明しながら、俺は棒を小さい円を描くようにくるくる回してあめを練っていった。ローラも、俺の動作を見ながら同じようにあめを練っている。慣れないようでちょっと動きがぎこちない様子が少し可愛い。
しばらくすると慣れてきたようでぎこちなさがなくなり、代わりにローラの楽しそうな表情が見え始めた。
「これ、結構楽しい、ですね……!」
あめを練りながら、ローラが明るい表情でそう言った。そんな表情もできるのか。流石アイドル。
そんな事を考えていると、あめが白っぽくなっているのに気づき、「おっ」と再び声を発した。
「そろそろ食べごろだな。そのままパクッと食べちゃって良いよ」
俺がそう言うと、ローラは手をとめコクッと頷き、先端のあめを口に含んだ。その後、ローラは驚いたような表情を見せ、俺の方を見た。
「……美味しい?」
俺がそう聞くと、ローラは数回コクコクッと頷いた。どうやら気に入ったらしい。そう思いながら俺も練っていたあめを口に含む。子どもの頃に食べたねりあめと同じ味がして、懐かしい気持ちになった。
ねりあめを食べ終えると、しばらくローラと色んな話をした。
大分俺とも話せるようになったらしく、まだ少したどたどしいがたくさん話してくれるようになった。それが何より嬉しかった。
そんな事を考えながら、ローラと話していたその時だった。
「誰かー! そいつ足止めしてくれー!!」
何処かから聞き覚えのある声が聞こえた。
【「ヒトミシリアイドル」③へ続く】