第5話「ヒトミシリアイドル」①
俺がこの島に移住してきてから1週間が過ぎた。
この島の大体の場所は把握できたし、この島の住民達とも大分仲良くなれたと思う。……まあ、一部例外はいるが。
そんな今日は、マスターの用事の為バイトは休み。だがいつもの癖なのか早く起きてしまった。早く起きたところでやる事などないのだけど。
とりあえず朝飯等々を済ませ、着替えて外に出てみる。……と。
「……あれ?」
一人の少女と目が合った。少女は俺の方をじっと見ると恐る恐る会釈をした。
彼女は確か、るみかや久留実と一緒にローカルアイドルユニットをやっているローラだ。どこかに向かう所なのだろうか?
彼女とはあまり親しくない。もしかしたらこれが仲良くなれるチャンスなのかもしれない。そう思った俺は、未だにこちらをじっと見つめたままのローラにとりあえず声をかけてみる事にした。
「えっと、おはようローラ。今日はどこかお出かけか?」
ローラは一瞬ビクッと驚き目を逸らす。……まあ、そうなるな。
ローラはとても人見知りするタイプだ。俺も驚いて逃げられるかもしれないと思いつつ声をかけたのだから。
……と思っていたら。
「え、えっと……。だ、駄菓子屋、に」
……ローラから返事が来た。これは予想外だった。
駄菓子屋、というとおきくばあちゃんがいる所だ。おきくばあちゃんはよく喫茶店に来てくれる為そこである程度仲良くなっている。
ローラから返事が来た事に驚きつつ、俺は再び口を開いた。
「……駄菓子屋?」
俺からの問いに、ローラはコクッと頷き、続けてこう言った。
「……えっと、私、駄菓子好きで……その、よく、おきくおばあさんの所に、買いに、行ってるんです」
緊張しているのか少したどたどしいが、なんだ、意外とちゃんと話してくれるのか。
そんな事を考えていると、ローラはこう続けた。
「……あ、あの。もし、ご迷惑じゃなければ、その……い、一緒に、行きますか?」
「……えっ」
驚いた。一瞬思考が固まった。まさかローラから「一緒に行かないか」との誘いが来るなんて。
「えっ、俺でいいのか……?」
俺が恐る恐るそう聞き返すと、ローラはコクッと頷き、続けて言った。
「えっと、今日、るみかも、久留実も、愛依も、忙しいらしくて……。その、私、まだ、駄菓子屋、一人で行く勇気が、なくって……。も、もしかしたら、貴方なら、一緒に行ってくれるんじゃないかって、思って……。……えっと、駄目、でしたか……?」
ローラの言葉に、俺は納得した。
そうか、まだ駄菓子屋に一人で行く勇気がなかっただけか。そういうことなら。
「……そっか。分かった。じゃあ一緒に行こうか」
「えっ、いいん、ですか……!?」
「うん。どうせバイトも休みだし、これから何しよっかなーって考えてたとこだったから」
ローラの言葉に俺がそう返すと、ローラは「あ、ありがとうございます……!」と深くお辞儀をした。
駄菓子屋までの道中。……ローラはやはり話さなかった。
恐らく『自分から誘ったはいいものの、道中何を話そうか悩んでいる』といったところか。
そう思い、俺は自分から声をかけた。
「なあ、ローラ。ローラってさ、ローカルアイドルやってるんだよな?」
俺からの質問に、ローラは少し驚きつつ「えっと、はい」と返した。
その返事を確認すると、俺は続けてローラに質問した。
「なんで、ローカルアイドルをやろうと思ったんだ?」
ローラは「えっと……」としばらく考えた後、再び口を開いた。
「……自分を、変えたいと、思ったから」
「自分を?」
ローラの言葉に俺がそう聞き返すと、ローラはコクッと頷いた。
「えっと……、私、人見知りだから、この島に初めて来た時も、なかなか馴染めなくって。……そんな時、村長さんが、ローカルアイドルをやってくれる人を、募集し始めて。……それで、あ、アイドルになったら、内気で、臆病で、人見知りな自分を、変える事ができるかなって。……だから」
「……そっか」
ローラの言葉に俺がそう返すと、ローラは再びコクッと頷いた。
成程、ローラはローラで、ちゃんと自分を変えたいと思っていたのか。そう考えると、なんだかローラの事を応援したくなってきた。
そう思いながら、俺はローラと一緒に歩いていた。
―いつの間にか、目の前には目的地が見えていた。
【「ヒトミシリアイドル」②へ続く】




