ロリコン・ガウディ
結局のところ。
例え俺自身にトーナメントへの参加の意思がなかったとしても、「エントリーされている時点で標的にされる可能性が高い。」とピーチは(嬉しそうに)言っていた。
積極的に参加するつもりはなくても結局は巻き込まれてしまうのなら、とりあえず自分の身を守る方法を考えることにした。
ピーチは就活のために一時的に離脱しており、今は俺とアロハ・ガウディの2人だけである。
「そういえば、ガウディは他人に見えないって言ってたけど、昨日も今日のファミレスでも人数にカウントされていなかったか?」
「不可視機能を意図的にオンオフができるのです。」
「それって、マスターに対しても有効になったりしない?」
「対象はガウディのみです。」
などという話をしつつ、とりあえず自宅に向かうことにした。
(ガウディは常にマスターと一緒にいなければいけないため、必然的に俺の家に来るようだが、身の安全を考えるとそのほうがいいかもしれない。)
俺の自宅は、街の中心地から少し離れたところにある。
普段はバスを利用しているが、歩けない距離ではない。
大通りをはずれ、少し歩いたところにある小さな公園の前を通りすぎるところで、小学校低学年くらいの女の子、女の子と遊ぶおじいちゃん、それを見守る母親を見かけた。
普段なら気にすることもないような、よくある光景だが、そのおじいちゃんは見覚えがあった。上下ともグレーのジャージを着ているにも関わらず、シルクハットをかぶり、魔法使いのような髭を伸ばしている。
……ガウディだ。
どうすべきか悩んでいると、向こうのガウディ(ロリコン・ガウディと呼称する)がこちらに気づいたようだ。
それにつられて、母親と女の子もこっちを見る。
「ガウディがもう一人だーーーー!!」
「あの子は、ガウディさんのことを亡くなったお父さんと重ねているんです。お父さんにしては、少し年齢が高いですけどね。」
マーサと名乗る女性は、2人のガウディと遊ぶ娘を見て、優しく微笑みながらそう言った。
女手一つで娘を育てなければいけない責任感から、トーナメントに参加をしてしまったものの、初日に敵の襲撃を受け、戦意を喪失したらしい。
最初は俺たちを見て逃げようとしたが、敵意がないことに気づいて話をするつもりになったと言う。
「正直、トーナメントというものがこんなに危険なものだと理解できていなかったんです。あの時は、ただ目の前のチャンスにすがるしかないって。あれから2週間の間、誰とも遭遇しなかったことも、今日会ったのがあなたたちだったことも、ただ運が良かっただけなんですよ。」
本当は家で隠れていたほうがいいのかもしれないが、トーナメントがいつまで続くかもわからない以上、外出せざるを得なかったのだろう。
「改めて見ると、やっぱりガウディの見た目は一緒なんですね。でも、気のせいかもしれませんが、あなたのガウディは娘と遊んでて少し楽しそうに見えますね。」
俺には無表情にしか見えないが、母親にしかわからない何かがあるのだろうか。砂場で遊んでいる3人を見ながら、そんなことを考えていると、女の子(セーラという名前だそうだ)が何かを見つけたのか、「ママ―」と叫びながら、こちらに走ってくる。
そして、セーラが母親のもとに辿り着いた瞬間、ゴォッと二人を囲むように炎があがった。