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あの日の誓いを忘れない  作者: 青空顎門
幕間2 ヘルシャフト・フォン・ヴェルトラウムは揺るがない
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〈魔導界ヴェルタール〉〈帝都ユスティーツ〉にそびえる〈首城ヴァイクラフト〉。その謁見の間は静けさに満たされていた。

 直前に響いた断末魔の叫びなどなかったかのように。


 ヘルシャフトはその玉座より、眼下の血溜まりを何の感慨もなく見下ろしていた。

 部屋の中心には黒ずんだ拳程の球体が一つ無造作に転がっている。

 それはシュタルクだったものの成れの果て。この帝都において宰相のような役割を担っていたがために、自分自身は例外だと勘違いしていた愚か者の末路だった。


「戦いに次などない。一度でも敗北した者は、永劫奪われ続けるだけだ」


 ヘルシャフトはそれを前に冷淡に、ただ事実を告げるように簡潔に呟いた。


「……目障りな塵め」


 そして、もはやそれが己の子供だったことも忘れ、虫の死骸でも目にしたかのように僅かに眉をひそめ、ゆったりと掌をその肉塊に向ける。

 戯れに緩やかに押し潰したが故にある程度の大きさを残していたその球体は、彼が手を握り締めるのを合図にさらに圧縮を始め、そのまま蒸発したように消え去ってしまった。


「どのような形であれ、勝ち続けられぬ者に未来はない。しかし、勝ち続ける者には全てを奪う権利がある。余は勝ち続けたからこそ、今こうあるのだ」


 そう告げると、ヘルシャフトは玉座から緩やかに立ち上がった。


「弱肉強食。力こそは全て」


 そして、右手を前方に伸ばすと彼の目の前の空間がひび割れ始め、やがて人一人が行き来できる程の穴が生じた。


 それは余人では〈グレンツェン〉(境界)の名を冠する剣なくば、引き起こすことなど不可能な現象。だが、彼にとっては世界を繋ぐことなど造作もないことだ。


「力を以って、世界の全てを奪い尽くす。己の目に映らぬものが一つとして存在しなくなるまで。それこそが――」


 異世界への扉が安定するのを確認したヘルシャフトは、血溜まりを踏み締めて歩みを進めた。行くべき先が己の子の中で最も優秀だったシュタルクが敗北を喫した世界であろうと、何の気負いも感慨も抱いていないかのように。

 彼にとって、己の強さに並び立つ者がいないことも、ただ一人超然と己の信念を貫くことも、常と何ら変らないことでしかない。


「それこそが人間の征くべき道だ」


 そう。彼にとって生きるとは正に奪うことに他ならないのだから。

 それは己の世界とて例外ではない。

 未だ〈魔導界ヴェルタール〉がその理の下に蹂躙されていないのは、単純に都合のいい拠点と駒があった方が効率的だからに過ぎないのだ。

 そして、ヘルシャフトは行く。

 己への叛意を明確に示した愚かな娘を踏み潰すために。

 己の信じる「人間の道」に反した歪んだ世界を消し去るために。


「それを覆そうと言うのなら、力を以って示して見せよ。テレジア」

幕間2 了

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