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あの日の誓いを忘れない  作者: 青空顎門
第五話 テレジア・フォン・ヴェルトラウムは見捨てない
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 目の前で突然四倍に膨れ上がった戦力を前に、火斂と那由多は戦いのペースを乱されていた。それは征示自身も同じだったが、理由は恐らく違う。

 征示のそれは真の初陣故の気負い。

 対して、二人は不慣れな戦いの流れの中にあるが故だ。


(繰り返した茶番。思えば死力を尽くすような戦いに持ち込んだことはなかったな)


 常にゲベットを操りつつ、命を賭す以前の段階で征示自身が戦いを治めてきた。

 全ての戦いで参謀として指示を出してきた。

 だからこそ、〈リントヴルム〉の面々は、地力や心構えはあっても、力のペース配分とでも言うべきものが少々甘い。何より、力を出し切るべき場面に鼻が効かないのだ。


(しかし――)


 地力は確かにあるのだ。それはこの二五年、テレジアとヴァールハイトが計画し、模糊や征示達が理詰めで実行してきた成果の一部。

 自ら火を点けられずとも、確かな爆発力はその身に宿しているはずなのだ。


(そうですよね? テレジア様)


 自分を見出し、導いてくれた彼女へと一瞬だけ視線を向ける。と、実の兄と対峙する最中、彼女もまたこちらに強い想いを込めた瞳を返してきた。

 そして、互いに頷き合い、視線を戻す。


土闇(二元)連関〈闇を纏い、(オーバー・クロス・)鎧と成す〉(ダークマター)


 テレジアとアンナの二人から受け取った魔力を用い、彼女達のゲベット(祈り)を宿す漆黒の甲冑を生み出す。と同時にヴァールハイトから学んだ構えを取って八体の魔造精霊に挑む。

 真淵流奥義、空の型。先手を取り続け、一方的に封殺するための構えだ。


「どうした、火斂! 那由多! その程度か!?」


 そうして己を一段階上のレベルに引き上げて八体を抑え込みつつ、それぞれ四体ずつを相手にして防戦一方となっている二人を鼓舞する。


「あ、あのなあ、俺達はペース配分をだな――」


 火斂が空気を読めと言わんばかりに反論してくる。

 確かに長期戦を想定するのであれば、この戦い方は正しい。如何に魔力の源は周囲に無尽蔵にあるとは言え、属性魔力にも生産能力というものがあるからだ。

 勿論、魔力のチャージ時間が不必要なレベルの者を隊員には選んでいるが、以前とは違い、圧縮魔力を扱い始めたことで配分を考える必要が出てきているのだ。しかし――。


「今は気にするな」

「だが、征示。さらに増援があったらどうする?」

「そうなったら、その時点でお手上げだ。ペース配分を気にしていても、そもそも意味がなくなる。なら、俺達を舐めている今しかチャンスはない。ここで一気に攻める!」


 異世界人を見下す傾向にあるシュタルクとは言え、さすがに初撃を堪えた相手に戦いの初っ端から油断し切る程愚かではない。いや、真っ当ではない、と言うべきか。

 何故なら、敵の戦力を一旦しっかり分析した上で、苦しみが最も長引く程度に抑えた力を以って相手を(なぶ)るのが彼の侵略の形だからだ。

 だが、それ故に、こちらの戦力を見切ったと思い込み、征示達を甚振(いたぶ)らんとしている今こそ彼は真に油断している。


(もう俺達に余力があるとは夢にも思っていないだろう)


 ここが力を振り絞るべき一点だ。

 そして、シュタルクの予想を超えて魔造精霊を倒せれば、彼は必ず動揺し隙を見せる。

 そこをテレジアに突いて貰う。


「ま、俺はさっきまでの戦いで不完全燃焼だったからな。お前がそう言うのなら、ここらでスカッと全力出させて貰うぜ」

「よし。私の力、私の全てを見ていてくれ! 征示! 〈神降(かみおろし)(あま)(てらす)〉!」

「全く……隊長ももう完全に立ち直ったな。〈啓示(アポカリプス)(・オブ・)熾天〉(セラフィム)


 二人同時に魔法を発現し、次の瞬間、那由多は光と化し、火斂はその身を炎に変じた。


「一気に行くぞ!」

「ああ!」「おう!」

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