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壱弥の肩を笑顔でつねっている裕がいる。
「イチャつくなって言っただろ?」
(このシスコンが!!)
思っていても裕の仕返しが怖くて、深衣菜から離れたあと、無言で裕を睨む壱弥である。
その様子に苦笑いをしてしまう深衣菜であった。
そんな2人を気にせずに裕は言葉を続ける。
「俺に考えがある。明日の部活が終わったら迎えにいく。」
「えっ学校来るの?」
「どうせお前も部活だろ?というわけで深衣菜を頼んだよ壱弥君。」
すると壱弥はうなづく。
「任せろ。深衣菜は守る!」
(もう怖い思いはさせたくない!)
「そうだ、お前らもう契約はしたんだろ?」
「ああ、緊急事態だったから説明は後だけどな。」
「じゃあ深衣菜は錫杖を出せるんだな。あれ?じゃあどうして記憶が全く戻ってないんだ?」
(そうなんだよなぁ・・・なんでだ?)
裕の説明によれば、深衣菜の錫杖には持ち主の過去の記憶が刻み込まれているとのこと。
「だから全く思い出せないはずないけどなぁ・・・ちょっと錫杖出してみろ。」
「えっと、錫杖ぉ~~~出てこーいっ」
叫ぶとその両手に錫杖が現れる。
深衣菜は怪訝な表情の裕、苦笑いをしている壱弥に気づく。
「なにその顔!」
「そんな間抜けな掛け声必要か?」
「うまく伝えられなかったんだ。」
「あのな、今度から心のなかで叫べ。それで十分だ。」
深衣菜は壱弥を睨む。
「余裕なかったんだよっ」
「ちなみに、白虎殿の召喚の方法わかるか?」
とたんに壱弥とキスしたことを思いだし、真っ赤になっていく。
「えっあっそっそれはっっ!!」
(今姫が契約のときのこと話したら俺殺される!)
しかし、今度は青くなっていく深衣菜。
そして裕と壱弥を怪訝な表情で見る。
「姫、おぞましいこと考えてない?あの契約は姫専用だよ。それに、一度契約しているなら契約しているものの名前と召喚と呼べばいいんだ。あ、そのとき錫杖を掲げるんだ。」
深衣菜は立ち上がり、錫杖を掲げる。
「白虎召喚!」
とたんに壱弥の身体は獣の姿へと変化していく。
「なるほど。その錫杖は偽物じゃないんだな。見せてみろ。」
裕は壱弥をじっとみると、今度は深衣菜に錫杖を渡すように請求してきた。
深衣菜が渡すと、錫杖を隅から隅までじっくりと見つめる。
「兄貴?なにしてるの?」
「お前の記憶が戻らない原因がここにあるかと思ったけど・・・なさそうだな。」
「じゃあどうして?」
「さあな。」
裕は深衣菜に錫杖を返す。
壱弥も人間の姿へと戻る。
「そうだ、お前らに紹介しとくぞ。太郎、次郎来い。」
両手を組み、印を結ぶと裕の両隣に腰の高さほどの背丈の赤鬼と青鬼が現れた。
「うわっっ!!」
「式神か!!」
二人の叫び声にビクリと身体を震わせて、裕の後ろに隠れる鬼たち。
「お前ら、こいつらは危害加えないぞ。そう、こいつらは俺の式神だ。赤いほうが太郎、青いほうが次郎だ。」
二匹は恐る恐るというふうに再び裕の横に並び、お辞儀をする。
「よろしくな。」
「かなりしっかりした式神も使えるんだな。よろしく。」
「ちなみに太郎は料理が得意で次郎は掃除が得意だぞ。」
「ん?もしかして兄貴の当番のときこいつらが働いてたの?」
「さすが我が妹だ。勘がいいじゃないか。」
「ずるい!!」
深衣菜の容赦ない拳を避けきれずに頬で受け、悶絶の表情を浮かべる裕。
そんな主人を守るかのように素早く裕の前に立ち、深衣菜を睨む太郎と次郎。
「お前らごときが姫に刃向かうのかっっ!」
壱弥が二匹の鬼を睨みつける。
二匹は震え上がり、「ぎゃっ」と悲鳴を上げて消えてしまった。
「こらこらっ四神が格下の鬼をいじめてどうする。」
「だってあいつら姫を睨んだんだぞ?」
「いまごろ泣いてるなぁ。まあ、あいつらがときどき現れてもいじめないでくれよ。じゃ、明日迎えにいくからなっ」
そういうと、裕は部屋を出て行った。
「じゃ、あたしも。」
出て行こうとする深衣菜の腕を壱弥は掴む。
「なっなにっ?」
「これからよろしくなっ」
深衣菜の頭を優しく撫でる。
(絶対に守る!)
「う、うん」
戸惑った表情をするが、離れ、ドアを閉める。
ドアを見つめて壱弥はつぶやく。
「姫・・・・・はやく思い出して・・・・・」
そして、彼は翌日衝撃的な出会いがあるとはこのときは思っていなかった。




