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「じゃああいつには言いにくい話をしようか。」
裕は壱弥の右手首を指差す。
とたんに壱弥の表情が変わる。
「そのリストバンドの下、呪いの刻印があるだろ?しかも俺じゃ解けないほどかなり強烈なヤツ」
「よっよくわかったな。っていうか!なんで人間のお前が前世の記憶がしっかりあったり力があるんだよっ!」
稀に前世の記憶を人間でも持っているものはいる。
しかし、裕は記憶がしっかりし過ぎている。
「まあまあっ深衣菜がいるときに話す!で、誰がどんな呪い掛けたのかわかってるのか?それに、お前ほどの者ならどうにか出来るんじゃないのか?」
裕の言葉に壱弥は静かに笑う。
「呪いを掛けた奴は・・・予測ついてるけど、証拠がない。内容は、[俺が15歳になるまでに姫の心を手に入れられなければ死ぬ。]俺には解けないんだ。」
「解けないってどういうことだ?」
「呪いかけられたときに力ゴッソリ持ってかれたんだ。深衣菜と契約すれば力が解放されるだろ?だから元通りになると思ったけど無理だった。」
壱弥は悔しそうにいう。
裕は何か言いたそうな表情になるが、ため息をひとつつく。
「なんとか出来る手段は本当にないのか?」
「あるけど・・・・・俺が姫を諦めるってことだから絶対却下!」
「で・・・念のため聞くけど、今は14歳だよな?誕生日はいつだっけ?」
「ああ、いまは深衣菜と同じ14歳だ。9月1日生まれ。」
「おいおいっ今日は9月12日だぞ!もう一年もないじゃないか!!」
「それまでに深衣菜とラブラブになれればいーじゃん。」
「お前な・・・兄の俺が言うのもアレだが、あいつがそう簡単に落ちるわけないだろ。」
裕の言葉に壱弥は苦笑いをする。
「前世はあんなに仲が良かったけど?」
「けどなぁっ」
「結婚の約束してたもん。」
「ちょいまて、一応保護者の俺が知らない話だな?」
裕の目がわずかに鋭くなる。
「あ、言おうとしてた矢先姫が亡くなったんだ。」
「へー・・・・・それはともかく、色気のいの字もない男みたいなヤツだぞ?」
「そこも魅力的―――っっ」
「ガサツだぞ。」
「サッパリしてる!」
「正直に言ってみろっもうちょっとくらい胸があってもいいと思ってるだろ?」
「えっっえっと・・・」
戸惑う壱弥を見てニヤニヤとしている裕はし始める。
「あいつ顔は俺に似てなかなか悪くはないけどツルペタだもんなぁ。」
「中二に求めるとこ間違ってないか?」
呆れた目で裕を見る。
「おまけにバカだぞ?」
「・・・・・それは否定できないような」
「だろ?君にはもったいないと思わないか?」
(晴昿、おまえもしかして・・・・・)
ある疑問が浮かぶが、そんなはずないと壱弥は急いで思考を打ち消すが・・・
「あいつのことは諦めろ!そうれば呪いともおサラバだ!」
「やっぱりそうか!このシスコン!!」
(うわべでは俺のタメっぽいこと言ってるけど本音バレバレだろ!!)
「はぁ?なにわけわかんねぇこと言ってるんだ?」
「とにかく俺は諦めないぞ!!」
裕はため息をつくと、叫ぶ壱弥を憐れみの目で見る。
そのとき、2人の頭上に強い痛みが走った。
「「いっってぇぇぇぇぇぇぇぇっっ」」
「随分楽しそうじゃん?ん?」
振り向くと2人の後ろで深衣菜が仁王立ちをしている。
「夕ご飯できたよっ!」
一言だけ言うと、深衣菜は回れ右をし、部屋を出て行く。
その後姿に壱弥は慌てて追いつくと、背中から抱きつく。
「ぎゃっっ」
「深衣菜~機嫌直して~」
すると、壱弥は後ろからいきなり強く引っ張られ、思わず深衣菜を放してしまう。
首根っこを掴み、笑顔・・・しかし目は笑っていない裕である。
「誰の許可でイチャついてんだ?あ?」
(その態度でまだシスコンじゃないと言い張るか?)
「あっっ今俺のことシスコンとか思っただろ!?家族愛だ!」
言い訳がましい裕を呆れた目でみてしまう。
どうやら障害が多そうな生活になりそうだと、壱弥は心の中でため息をつく。
「兄貴も壱弥も早く降りてきなよ!!」
2階の階段の手前で睨みあっている二人に呆れるかのように深衣菜が言った。
「で、結局三人で片付けねぇ・・。」
「いやぁまさか父さんがあんなに早く夕食作り終えるだなんて思ってなかったからな。安心しろ。壱弥君エロ本とかないらしいからなっ」
「晴昿・・・人をからかうクセ治せ。ていうかいい加減それ話題に出すなよ。」
笑いながら言う裕を深衣菜と壱弥は揃って睨む。
さすがに3人で片付けたおかげか部屋はあっという間にきれいになった。
「まぁたいして荷物なんかなかったからなぁ。」
「で、壱弥も兄貴も!話して!」
床に座り、話を聞く姿勢になる深衣菜。
壱弥も床に腰を下ろし、胡坐をかく。
「あっ俺飲み物持ってくる。ウーロン茶でいいよなっ」
「兄貴っったく!マイペースなんだからっっ」
素早く部屋を出て行った裕の悪態をつく。
壱弥は苦笑いをしながらもうなづく。
「なぁ、深衣菜は本当に俺の、白虎のこと覚えてないか?」
「だからっ何度も同じこと聞かないでっ知らないってば!」
ムキになって言う深衣菜。
(人間は前世のことは普通忘れる、とはわかってるけど・・・)
「・・・・・・・だよなぁ・・・じゃあ、朱雀とか青龍とか玄武のこともわからないか?」
「知らないよ。それにそういうのってゲームとかマンガとかに出てくる空想上の生き物ってことしか言えない。」
「・・・・・・・そう、だよなぁ・・・」
強く好きになった相手だから少しくらいは、と期待を棄て切れていない自分に壱弥は苦笑いする。
「けど、壱弥はあの時確かに変身したし、あたしだって・・・あの錫杖を出したときの不思議な感覚・・・」
ため息を大きくつく。
「なるほど・・・記憶はなくても魂は覚えている・・・か。」
「壱弥が言うとエロい。」
「なっっなんだよそれ!!」
(前世の恋人に向かって酷いだろ!!)
心の中の叫びを口に出してしまわないように堪える。
前世は前世であって、今は今なのだと自分に言い聞かせる。
(そうだ、俺は白虎としてでなく、只瀬壱弥として伊那瀬深衣菜のまえにいるんだ。)
じっと深衣菜を見つめる。
(魂は同じなのに、外見は正反対なんだよな。)
「なっなに?」
いきなり黙り、自分を見つめてくる壱弥を、怪訝そうな目でみる。
「髪は姫と真逆で短いし、意外とバカ。」
「思い出さない腹いせに本人に悪口?いい性格してるじゃん。」
(なのに・・・・・愛しいと思ってしまう。最初に会ったときから気になってたけど・・・)
「深衣菜っ俺と結婚してくれ!」
「バカにすんなぁぁぁぁぁっっ!!
「どんな姿でも俺が愛した人なんだ!!」
「黙れ!生きる破廉恥爆弾!!」
怒りで真っ赤になった深衣菜は壱弥から距離をとるかのように部屋の隅へと瞬時に逃げる。
そのとき、ちょうどウーロン茶とグラスを手にした裕が戻ってきた。
「ん?もしかして俺がいない間に何かあった?」
「ないっ!!」
部屋の隅で壱弥を睨みつけ身構えている妹と、それを困った顔で見ている壱弥を見比べる。
「壱弥君、何か、した?」
突然怒りを含めたような裕の声に壱弥はビクリと一瞬身体を震わす。
「気持ちをストレートに言っただけだ。」
「へぇ~そうか。あっっ勘違いすんなよ!家族愛だからなっ!身内に目の前でイチャつかれたらムカつくから!」
「・・・・・必死で言わなくても・・」
いきおい良く、と言うよりもほぼ叫んでいる裕を呆れた顔で見る。
そういえば、晴昿は姫をとても可愛いがっていたことを思い出し、シスコンになっても納得がいくと、一人思ってしまう壱弥であった。
「姫は、ああ、お前と俺は前世はいわゆる親戚同士だったんだ。」
裕の説明によれば、姫とは正式には香耶御清姫という。
皇族に生を受けるが、霊力が生まれつき強く、見えないはずのものが見える・・・・・そんな彼女を両親は疎んでいた。
その為、なにかと理由をつけて、親戚の陰陽師である叔父の晴昿に預けられることが多かった。
そんな姫に叔父は陰陽師としての素質を見抜き、術等を教えた。
「そう、そんなある日俺は契約していた白虎殿を召喚して、共に月見酒を飲んでいたときにお前たちは出会ったんだ。」
「あのころの姫はちいさくてカワイかったなぁ。6歳くらいだったよなぁ。」
「へっ?月見酒!?」




