3
「なに!!?」
明らかにただ事ではない様子に深衣菜は動揺する。
「まさかっ封印が解けたのか!?」
「え?」
壱弥の口から深衣菜とは違う緊張の声がでてきた。
そして、獣のような咆哮が聞こえる。
再び生徒たちが逃げてきた先を見る。
そこには、この世界ではありえないものがいた。
二メートルほどの背丈に、ずっしりとした体格。
皮膚は赤茶色く、頭には一本の角、ざんばら髪にひとつの大きい目。
口からは牙を生やした異形の姿。
(あれってゲームに出てくるサイクロプスだっけ?なんで??)
「くっそ~目一つ鬼が蘇ったか!!」
「鬼!?」
壱弥は鬼を睨みながら言葉を返す。
「あれは姫が、あ、前世の姫が封印したんだ!けど・・・今の姿じゃあ・・・契約すれば力の解放出来るのに・・・」
壱弥はブツブツと言うが言葉を止め、深衣菜を見る。
「鬼との戦い方とか・・・わかるわけないよな?」
「えっ!?知らないよ!?」
壱弥は困った表情になる。
そうしている間にも、鬼は生徒たちに襲いかかろうとしているが、図体が大きいせいか、素早い動きはできないらしい。
「ひとつあいつをどうにか出来る方法があるんだ。」
「どうにかって・・・」
「俺と契約しろ。四神としての力が開放されてあいつと戦える。」
「戦うって!?あんなのと!!?無理じゃんっっ!!」
「俺は人間だけど人間じゃない!だから大丈夫だっ!!」
「けどっっ!!」
「俺を信じて。」
深衣菜の目をしっかりと見て壱弥はいう。
その瞳に偽りは感じられない。
事態はよくわからないが、このまま鬼を放っておくわけにはいかないらしい。
「・・・わかった。壱弥を信じる。で、どうするの?」
「目閉じて。」
「こう?」
目を閉じたとたん、いきなり昨夜の夢を思いだし、嫌な予感がして目を開ける。
すると、ゆっくりと顔を近づけてくる壱弥が目に映る。
慌てて壱弥の顔を押さえ、動きを止める。
「ちょっとまて、なにするつもり?」
「え、だから契約。」
「そうじゃなくてっっその、まさか、きっキス、じゃぁ・・・」
「うん。そうだけど?」
真っ赤になりながら言う深衣菜にきょとんとした表情でかえす壱弥。
「えっと、その、きっきすじゃなきゃダメ?」
「うん。」
深衣菜の手をどかし、近づこうとする。
「なんでっっ」
「そういう決まり」
「うそっっまっっまって!」
赤面のまま叫んで後退し、壱弥と距離を置く。
「いきなりはないでしょ!心のじゅん「姫黙ろうね」
強引に引き寄せられて唇を塞がれる。
目の前はどアップの壱弥の顔。
「んーー・・」
唸ってみるが離してはくれない。
「いっっ」
唇に痛みが走る。
壱弥は深衣菜の唇から流れ出る血を舐める。
「契約完了っ」
「おまっっひゃあっっっ」
笑顔で返す壱弥の身体が変化していく。
服から出ている皮膚はだんだん白い毛に覆われ、ところどころに黒い縞模様が表れてきた。
「い・・・いちや・・・?」
耳は人にはありえないほど広がり、獣のようになっていく。
パーマのかかった毛の先から長い毛が生え、瞳は赤く、鋭く変化していく。
「あ・・・・・・・・」
深衣菜にはこのごろ良く見る夢の人物と獣のような姿となった壱弥の姿が重なって見えた。
「姫、この姿で会うのは久しぶりだな。」
食い入るように壱弥を見上げ、無意識のうちに涙が零れ落ちる。
(あれ、なんであたし泣いてるの?)
自分の涙に驚いている深衣菜の涙を獣の手が拭おうと、頬に触れるとビクリと震える。
「その様子じゃあ本当に思い出せないみたいだな・・・。」
悲しそうな顔になるが、すぐに優しい笑顔を向ける。
「俺は壱弥として人間に転生した白虎だ。」
「びゃっ・・・こ・・・?」
(なんで・・・なんだか胸が締め付けられるように痛い)
「しらない・・・・・そんなの・・しらない・・・・・」
「・・・・・今はわからなくていい・・・」
泣きそうな笑顔を向けるが、鬼の咆哮で表情を引き締める。
「あいつ倒してくるから待ってろ!」
そういうと壱弥は鬼に向かっていった。
(こんなことが現実・・・・・?壱弥が白虎の生まれ変わりで、あたしがお姫様ってなんなの!!)
異形の姿に変わった壱弥は生徒を捕まえようと腕を伸ばしている鬼に飛び掛り、その腕をけり上げる。
突然の襲撃に鬼はよろめく。
そして、壱弥を見つけると唸り声を上げる。
「言葉を発せられないのは相変わらずだな!何故蘇ったかしらねぇけど闇に戻れ!!」
「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」
壱弥の言葉を拒絶かのように咆哮し、攻撃を仕掛けてきた。
飛びのいて攻撃を避け、伸ばしてきた腕に鋭い爪をたて、勢い良く引き裂く。
とたん、返り血を浴び赤く染まる黄色いシャツ。
舌打ちをし、鬼から間をとる。
そして、地面に両手を着くと、引っ張り上げる。
するとそれは鉄の棒となり、それを手にした壱弥は身構える。
(あれが壱弥だって・・・?獣みたいな姿で戦っているのが壱弥なの・・・?)
鉄棒を振り回し、雄たけびをあげて鬼に向かっていく。
傷だらけとなり、痛みで苦しいのか鬼は手当たり次第の物を壱弥に投げるが、かわされる。
そのとき、鬼と深衣菜の目が合った。
(鬼が笑った!?)
確かに鬼は深衣菜を見ると一瞬だが不気味に目を細ませた。
ゾッとするような不気味な微笑みにからだが凍りつくような恐怖を感じる。
そして・・・・・・・
「わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
「姫っっ!!」
鬼が投げた校長の銅像が深衣菜に容赦なく飛んできた。
思わず身を屈めて目を閉じる。
しかし、一向に銅像はぶつかってこない。
「え?」
目をそっと開けると深衣菜を守るかのように土の壁が出来ている。
さらに水に自分が包まれていることに気づく。
どうやらこの二つが銅像を弾いたらしい。
「壱弥!?」
「これは玄武の力!?」
戸惑う深衣菜と壱弥の姿を、校舎の物陰からボブヘアーの1人の少年が見つめる。
「白虎の力はあの程度ですか。情けない。四神のツラ汚しですね。」
呟く少年の後方に2人の少年が現れる。
2人とも同じ顔をしている。
どうやら双子のようである。
「義隆様、よろしいのですか?」
「あまりにもブザマだったからつい手を出してしまいましたよ。」
「こちらの存在に気づかれましたよ。」
「構わない。しばらくあいつらがどうやって鬼を倒すか見てましょうか。
それとも、元同胞が消されるのは嫌?」
振り向き、後方に立っている少年2人を見る。
「「いいえっ我らの主は義隆様だけです!義隆様の敵は我らの敵でございます!!」」
「静かに。気づかれるじゃないですか。」
「「申し訳ございませんっ」」
見事なまでに一語一句間違えずに話す2人に少年が一喝すると、同時に頭を下げて謝罪の言葉を口にする。
そんな2人から、戸惑っている深衣菜に目線をうつし、呟く。
「記憶も知識も全くない人間なんかに・・・」
呆然と深衣菜を包む水を見ていた壱弥だが、水が消えると我に返り、鬼を睨む。
「てめぇっっ俺の姫に手ぇだしてんじゃねぇっ!!」
壱弥が叫びながら鬼の頭に飛び乗り、力強く押す。
「沈め!!!」
叫び声と共にズブズブと地面に身体を沈めていく。
どうやら壱弥は大地の力によって鬼の身体を沈めているらしい。
身動きが取れなくなり、咆哮する鬼。
「姫!こいつの封印を!!」
「だから知らないってば!!」
「念じるんだっっ!姫の錫杖が出てくるように思って!!」
「えっっなにそれ。」
「だぁぁ~~っっ!じゃあ杖でいいっ!!」
(じゃあって適当だなぁ。もしかしてその杖持つとあたしも何かできる?)
「杖よ~~っ出て来いーーーっっ」
必死に叫ぶ深衣菜を見ながら、少年は吹き出す。
「杖だってぇぇぇっ。ききましたかっ?しかも真面目にやっててバッカみたいですねっ!」
笑う少年に同意するかのように双子はうなづく。
そして、深衣菜を指差す。
「それなりになんとかなってますよ。」
「ホントですね。けど使い方わからないよ。記憶封印されてますからね。」
そんな裏の会話も知らず、光の束となって姿を現した錫杖を深衣菜は手にする。
「姫っそれを持てば使い方を思い出せるはず!鬼を封印するんだ!!」
「無理!!何もわからないよっっ!!」
「えっっ!!んなバカなっっうわっっ!!」
暴れる鬼の腕を白虎はスレスレでかわす。
深衣菜は錫杖を振り回してみるが何も起こらない。
「くっそ!こうなったらこいつが粉々になるまで攻撃するしかねぇのかっ!!」
(粉々って・・・今でも返り血浴びてるのにもっと血まみれに?それじゃあ殺人鬼みたいじゃん!)
「そんな・・・・・」
泣きそうな表情になっていく深衣菜。
その様子をみて少年はため息をひとつつく。
「仕方ないですねぇ。僕だって惨劇ショーを見たいわけじゃないからね。」
少年は小さく呪文を唱えて深衣菜を指差す。
「あれ・・・・・なんか使い方が頭に浮かんできた!!」
錫杖を地面に突き刺すように立て、頭に浮かぶ言葉を並べる。
「汝の力を鎮め、闇に帰せよ!」
錫杖は眩い光を放ち、身動きできない鬼を包み込む。
「在るべき場所へ帰せ!封印!!」
光は徐々にグランドへと吸い込まれていき、消えた。
「姫やったじゃん!!」
「ああ!思い出したっていうか、頭に急に浮かんだ!!」
「そうかっっ!じゃあ俺のことは?」
「ごめん、それは無理みたい。」
「そ、そうか・・・・・鬼倒せただけでも良かったんだよな。」
壱弥は残念そうに言うと、元の姿に戻った。
「まさかあの鬼のことでここに来たの?」
「そういうわけじゃないけど、詳しい話は家に行ってからでいい?」
壱弥はそう言うと、血で汚れたシャツを見る。
「いくらなんでもこの格好で歩けねぇか・・・」
「着替えたら?今日使った体操服あるじゃん。」
「汗くさいけど?」
「今の格好よりはマシ!」
壱弥はバックから体操服とジャージを取り出すと着る。
そして、Gパンに微かに血がついている事に気づく。
ズボンも着替えなきゃと呟いた。
「ここで脱いだらぶっ飛ばす!」
「そこまで露出狂じゃねぇよ。それより、錫杖しまえば?」
「どうやって?」
困惑顔の深衣菜を、壱弥は一瞬怪しく目を光らせてみると、微笑む。
そして、錫杖ごと深衣菜を抱きしめる。
「昔、姫はこうやって錫杖を抱きしめて身体にしまってたぞ。」
すると、錫杖は一瞬光の束となり、跡形もなく消えた。
「たっ確かに消えたけどっっ壱弥が抱きつくこと関係あるのっっ?」
「全然ないっただ困ってる姫が可愛いなぁって」
「離れろエロ虎ぁぁぁぁぁぁ!!」
殴られる直前で深衣菜から離れる。
そして、ジャージのズボンを持って、駆け出していった。
「ったく。何がなんだかわからないよ・・・」
その様子を少年はため息をつきながら見ていた。
「全く、記憶がないのをいいことにやりたい放題やって。あのバカ虎。
弱いくせに現世でも調子に乗って。だから嫌いなんですよ。」
「義隆様・・・・・」
「あいつらのことはじっくり観察していきましょう。僕たちも帰りましょうか。」
「「はっっ」」
本人の知らないところで、ことが大きくなっていく。
そして、身内が関わっていくことになろうとは思ってもいない深衣菜であった。




