第一幕 白虎現る
・・・・・め・・・ひめ・・・・・。
(ああ・・・また・・・あたしを呼んでる・・・・・?)
霧の中みたいにぼやけた視界。
1人の男が近づいてくるのがわかる。
(顔はよくわからないのに懐かしいような・・・ってっっ近い近いっ顔近い!)
「わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
思いっきりベットからとび起きる。
(またあの夢かぁ・・・・・それにしても今回はやけにリアルで・・・。知らない相手にキスされそうになるって欲求不満!?)
ときどき同じ夢を見る。しかし、今回は少し違うようだ。
ため息をひとつつき、時計を見る。
いつもよりだいぶ早い。
(なんもうひと眠りできそう。)
しかし、先ほどの夢の光景が頭をよぎり、ベットから離れた。
彼女の名前は伊那瀬深衣菜。
運動神経は良く、ショートカットで動きやすさ重視の格好をしているせいか、ときどき男の子に間違われることもある元気な14歳である。
パジャマ姿のまま二階の自室から一階の洗面所に行くと、兄の裕が既にいた。
「あれ?兄貴早いね。」
「お前こそ。珍しいな。」
「別にいいじゃん。」
兄と言葉を交わしながら歯ブラシを手にする。
「で、なんで早いの?」
「部活の朝練」
(そういえば剣道部の大会が近い・・・って!)
「兄貴受験生じゃん!なんでまだ部活やってるの!?」
「バカ、就職先決まってるから大丈夫だ。」
「えっっ聞いてないよ!」
裕は洗顔を済ませ、深衣菜を見る。
「で、お前は?」
「それより決まったってどこ!?」
裕は妹の言葉を無視するかのように欠伸をする。
「そんなの今にわかる。そういえば今日来るんだよなぁ。」
「へ?誰が?」
「この間父さん言ってただろ?壱弥君が家に来るって。また泣かすなよ。」
(壱弥?いちや・・・?あ・・・・・そういや昔あったことあるなぁ・・・)
深衣菜は8歳の頃にあった親戚を思い出した。
(天然パーマの超マジメな奴だったよなぁ。確か北海道に住んでて家に一度家族で遊びに来たよね。でもアイツずっと本読んでてあたしたちのことなんて全然見なかったし。)
そして、彼女はそんな様子が気に入らなくて、本を取り上げてしまった。
その瞬間、壱弥と目があった。
目を大きく見開いて、直後、涙を流しだしたのだ。
泣かれるとは思ってなかった深衣菜は驚き、双方の家族が焦った。
「あ、あれは・・その・・・」
困惑顔の妹を裕は呆れた顔で見る。
「そういえばっそのあと家族でアメリカに引越したんだよなっ?なんであいつだけ家に来るの?」
「日本でやらなきゃならないことがあるんだってさ。」
(でもどうして家なんだろう?他に親戚はいるし・・・多分、いい思い出なんてないはずなのに。)
「案外お前をボッコボコにする為に来るかもなぁ~」
深衣菜の考えを見透かしたかのように裕は言い、クックッと笑いながら洗面所を出て行った。
(そこまで怨み買ってない!・・・・・・はず・・・?)
過去が過去なだけに、兄の言葉を否定はできない。
部屋に戻り、紺のTシャツ、黒のジーパンに着替え、緋色の後ろだけが長いボレロを羽織り、1階に降りた頃には裕は家にはいなかった。
深衣菜たちの母親は病気の為、先々週から入院中。
その為、父親と兄と深衣菜は家事を交代で行っている。
「父さんおはよう。」
「おはよう、今日は早いな。」
台所で目玉焼きを焼いている父親のそばに来ると、パンをトースターにかけ、自分の分の朝食の準備を始める。
「父さん、壱弥君の荷物とか今日届くの?」
「ああ、父さん今日は休み取ったからずっと家にいるけど早く帰って来なさい。壱弥君は直接学校に行くらしいから連れて来るんだよ。」
「はーい。」
「そうだ、お前に大切なことを伝えておく。」
「な、なに?」
真剣な顔を向けてきた父親に表情を引き締める深衣菜。
「壱弥君のこと、泣かすなよ。」
「わかってる!兄貴とおなじこと言わないでよっ」
父親に文句を言うと朝食の分を手にして素早くテーブルのあるリビングへ運ぶ。
(そうだ、今日は部活は休みって伝えてあったかな?遥先輩に確認しとこ。)
彼女の部活動は少し変わっている。
部活動といっても、部長と彼女の2人しかいないため、同好会でしかない状態だが、活動はしっかりとおこなっている。
その活動は他の部活の助っ人だったり、物探しだったりと、出来ることならたいていのことは学校の食堂で使用できる食券と引き換えに行う。
そういう金銭が直接ではないとはいえ、報酬があることはいいのか深衣菜は部長である遥に尋ねると、彼は爽やかな笑顔で問題ないと答えた。
依頼は意外と多く、深衣菜は運動部にかり出されることが多い。
食事を終えると、台所に戻り、食器を片付ける。
「行ってきまーすっ」
いつもより少し早い時間に家を出る。
歩きながら、昔会った親戚のことを改めて考える。
(ただせ・・いちや・・・いくらなんでもまた泣かれることはないよな?けどあいつ・・・気弱そうだし・・・)
「みーいーなっっおはよっっ」
後ろから聞きなれた声が聞え、思考を止めて振り返る。
クラスメートの洋子である。
肩に付くか付かないかのボブヘアーに元気そうな明るい表情の彼女は紺色のワンピースをはためかせて駆け寄って来た。
「おはよっ」
「深衣菜早いねっ今日転校生来るでしょ!」
「うん、あたしの親戚。」
「男だよねっっ!ねっカッコいい?」
「うーん・・・しばらく会ってないからなぁ・・・ひ弱?」
そういうとため息をつかれる。
「深衣菜からみれば大抵の人はひ弱じゃん!!」
「えっそんなことないよっ」
深衣菜は改めて記憶の中にある壱弥を思い浮かべ、考える。
「・・・普通・・?」
「えー・・・あっでも深衣菜の親戚ってことはイケメンの可能性高いよねっ!深衣菜って女の子にモテるじゃないっ。」
その言葉に苦笑いをする。
私服での登校のためか、彼女はときどき男に間違われる。
特にあらゆる運動部で活動しているときはラブコールが女子限定だがとんで来る。
「うーん・・・でも本当に普通だよ。人よりも本の方が好きな真面目な奴だよ。」
「ふーん。でも深衣菜のお兄さんもけっこうカッコいいからちょっとだけ期待しちゃうっ」
「えっっ兄貴がカッコいい!?普通じゃんっっ」
「やっぱ深衣菜の普通は信用できないわ。」
教室についてからも生徒たちは転校生のことで話はもちきりだった。
(いろいろ言われてるなぁ・・・。アメリカからの帰国子女だから余計すごいっていうか・・・・・そうだ、そんなことよりも遥先輩のとこ行かなきゃ。)
深衣菜はひとり三年生の教室に向かう。




