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そういえば・・・あたしたち以外誰も慶隆に話しかけてこないな・・・)
休み時間といえば必ず友達と言葉を交わす深衣菜にとってその距離感は居心地の悪さを感じてしまう。
それは壱弥も感じているようで、退屈そうな表情をしている。
しかし、慶隆とぶつからない方が良いと判断したのか大人しくしている。
(壱弥・・・借りてきた猫みたいだよね。あ、でも白虎だから借りてきた虎かな?)
「伊那瀬先輩、何笑っているんですか?」
「ごめん、顔にでてたみたいだね。壱弥が随分大人しいから可笑しくてね。」
「ふーん、只瀬先輩っていつも騒がしいんですか。」
(トゲのある言い方だなぁ・・・・)
壱弥は慶隆を睨みながらも言葉を発しようとはしてこない。
「いい番犬ですね。」
「ああ見えて意外と頼りになるよ。」
(なんであたしが壱弥のフォローをっっあ、ニヤついた。)
深衣菜の言葉が嬉しかったのか顔の表情が緩む。
(義隆って・・・・・・近寄りがたいんだろうな。)
教室を見渡す。
「あっっあのっ伊那瀬先輩っっ」
「へ?」
突然女子生徒に呼ばれ、声をがする方を見る。
「こっこの間のバレーの試合カッコよかったです!」
「いつも応援してますっっ」
その言葉が合図であるかのように深衣菜の周りには女子が集まってきた。
が、
「君たち!伊那瀬先輩は今日一日僕の護衛だから近寄らないでくれますか!」
慶隆の声に静まり返り、深衣菜から離れていく。
「そんな言い方しなくても「いいんじゃねぇ?今はそいつに賛成だ。」
壱弥がそう深衣菜の言葉を遮る。
そして深衣菜にちかづき耳打ちをする。
「さっきの集団の中に鬼の気配があった。気をつけろ。」
(えっそんなっ。全然気付かなかった!じゃあ・・・人に化けられる奴がいるってこと?)
「珍しいですね。只瀬先輩と意見が合うなんて。」
「今は依頼中だからな。護衛してるだけだ。」
もし義隆が玄武であれば鬼の気配に気付いたかもしれないと深衣菜は思った。
「次の授業が終わったら食堂の横にある特別室に駆け込みますよっ急いでくださいっ。」
「特別室ぅ?ああそこ使ってんのかよ。」
そういえばと、食堂の出入り口の横に謎の扉があることを思い出す。
あそこは鍵がかかっているため誰も開けたことがないと、開かずの扉と呼ばれている。
(それにしても・・・昼休みをそうとう脅えているみたいね・・・)
キーンコーンカーンコーン・・・
授業が終了し、昼休みを告げるチャイムが鳴り響く。
ざわつきだし、それぞれ席を立つ生徒たち。
その中で義隆は勢いよく席を立つ。
「行きますよっっ!!」
(スゴイ気合いだなぁ)
出入り口に向かってダッシュする慶隆に続く壱弥と深衣菜。
戸を勢いよく開ける。
「義隆きゅ~んっっ!!」
「でたぁぁぁぁぁぁぁッッ」
突然乱入してきた男からとっさに義隆を壱弥がガード。
「じゃっ先輩頼みますっっ!!」
男の相手は壱弥に任せて素早く廊下に飛び出す。
「よっよくわからないけど壱弥後で!!」
「ああっ」
2人の後を追おうとする男をしっかりと掴んで壱弥は返事をする。
深衣菜たちはひたすら走って走って1階の渡り廊下を駆け抜けた先にある食堂の出入り口の隣の戸の前にたどり着く。
慶隆は素早く鍵を取り出すと、戸を開け、部屋に駆け込んだ。
深衣菜は戸を素早く閉め、鍵をかける。
「ねえっなんなのあの人!?」
「あ、あれはっ・・・僕の・・ねっきょう的なファンの・・・田向井武。
三年生・・・・・。」
ぜいぜいと息をきらしながら慶隆は答える。
「もしかして毎日?」
無言でうなづく。
(それは大変ね・・・・・)
慶隆は椅子に座るとため息をつく。
そして、テーブルに置かれているメニューを深衣菜に渡す。
どうやら学食と同じ内容らしい。
(もう少し豪華だと思ったけど意外だなぁ・・・)
「ここの学食は美味しいですから。」
深衣菜の心を読んだかのように義隆が言う。
「じゃあみんなと一緒に食べればいいのに。」
「さっきの見たじゃないですか。ここの方が安全です。」
「あっ・・・うん、そうだね。」
(確かにああいうのがあるんじゃぁ・・・でもなぁ・・・)
あえて人と隔離しようとする慶隆に納得できない深衣菜である。
慶隆は壁に取り付けられている電話で自分と深衣菜の分と勝手に決めた壱弥の分の食事を注文する。
どうやら厨房に繋がっているようだ。
「じゃあ連絡がきたら取りに行けばいいんだ。」
「いえ、そこの窓を開けて受け取って下さい。」
出入り口との向かい側に壁と同色の窓が取り付けられている。
「この向こうが厨房なの?随分警戒してるね。」
「当然です。」
ここまでやることないのではないかと深衣菜は疑問おもったとき、出入り口が乱暴にノックされる。
「誰?」
「俺だ!」
「俺なんて知りません。本名キッチリ言って下さいよ先輩。」
「てめぇっっ人をオレオレ詐欺の犯人みたいに言うな!」
「本名」
「只瀬壱弥だ!」
「本人ですか?」
「本人以外いるかぁ!!」
「伊那瀬先輩開けていいですよ。」
笑いを堪えながら深衣菜は鍵を開け、戸を開く。
怒りをあらわにした壱弥が立っている。
壱弥は部屋に入ると乱暴に戸を閉じて椅子に座る。
「てめぇ先に説明しやがれ!!こっちは酷い目にあったぜ!!」
「ご苦労様。僕が魅力的すぎるおかげで悪かったですね。」
壱弥は拳を握り締めて義隆を殴りに行こうとするが深衣菜に制止される。
「ダメーーッ堪えてっっ!」
「あと先輩の分の食事頼んでおきました。今回は僕の奢りなのでお2人とも支払いはしないで下さい。」
「お、おう、食事で許せってことかよっ。わかった。」
「僕の依頼ですから当然のことです。」
「ありがとう。」
深衣菜は改めて右京・左京に感心してしまう。
(あの2人は護衛だけじゃなくて身の回りのこともちゃんとやってるんだよね。すごいなぁ・・・・・)
特別室にいる昼休みは恐怖に脅かされることなく平穏に過ごした。
慶隆は備え付けられているテレビを見ている。
(いつもこんな・・・なんだよね・・・・・)
壱弥も深衣菜同様に、不満は持っているようだが、散々な目に会ったためか黙っている。
(それにしても・・・休み時間に鬼が生徒に紛れて来たって事は、本当にすぐ近くにいるんだ。)
「僕、購買に寄ります。」
特別室を出て、購買に向かう。
どうやら、田向井は諦めたようで、姿は見えない。
買い物を無事に済ませ、そろそろ昼休みが終わる頃に教室に進もうとしたとき、慶隆が立ち止まる。
「只瀬先輩、ミルクティー買い忘れたから買ってきて下さい。」
「あぁ?」
「今は僕の言うことを聞くという執事ですよね?」
「ぐぅっこっこのっ・・・わかった!すぐ戻るからな!!」
不満を表情に浮かべ、仕方なく回れ右をして壱弥は駆け出した。
(壱弥が居ない隙に鬼が来なきゃいいけどなぁ・・・)
そう思いながら壱弥の後姿を見送る。
「僕たちは先に戻りましょう。」
歩きだそうとしたとき、一人の女子生徒が二人の前に出てきた。
「伊那瀬先輩っっ!やっぱり少しでいいからお話がしたいですっっ!!」
熱心に言う生徒を慶隆は睨む。




