第四幕 特別依頼
放課後のよろず部の部室、は・・・いつもと違う雰囲気が漂っている。
壱弥は黙ったまま不機嫌そうな表情、深衣菜はハラハラとした表情。
いつもと変わらずに穏やかな遥が依頼人たちの話し相手となって向かい合って座っている。
どうやら壱弥が落ち着かないのは依頼の中心人物のせいらしい。
(壱弥の様子って・・・依頼の子は過去の知り合いかな?)
深衣菜は落ち着いて話を聞いている遥を見る。
(あれから数日たったけど先輩は変わらないよね。)
「ぁぁ~あのガキィィィ~~」
唸る壱弥の手の甲をつねる。
「いっっっ」
「うるさい」
依頼人の名は籐洞路義隆。
その右側にいるのが籐洞路右京、左側にいるのが籐洞路左京。
この2人は双子で、義隆の執事兼護衛である。
三人とも一年生。
籐洞路といえば知らない者はほぼいないと言っても良い程有名な財閥のひとつ。
義隆の髪は薄めのブラウンのボブヘアー。
淡いクリーム色のベストに水色のブラウス、膝が隠れるほどのこげ茶色の丈のハーフパンツを身に着けている。
右京・左京の髪は紫がかった黒。
耳が隠れるほどのショートは左京、少し長めが右京。
紺色のスーツを身に着けている。
「それで、右京君と左京君が用事の為に明日は登校できないから、俺たちに護衛を頼みたいと?」
「はい。もちろん執事なんて器用なことは期待してませんけど護衛なら出来ますよね?」
「なーにが出来うぐっっ」
義隆にくってかかろうとする壱弥の口を深衣菜が両手で塞ぐ。
(護衛って・・・誘拐の予告されたわけじゃないのに。)
「君はいままで命を狙われそうになったこととかあるのかい?」
遥も同じことを考えたらしく質問をする。
「ええ、しょっちゅうですよ。僕はあの籐洞路財閥の末っ子ですよ?最も誘拐に適してますから。それにこの容姿ですからそういう意味でも狙われやすいんです。」
自慢気に言う慶隆に壱弥の拳が強く握られていく。
[深衣菜っあいつ殴らせろっっ]
[ダメだってばっっ]
「「そこのバカップル!義隆様がお話しされてるのに何してる!!」」
「「誰がバカップルだ!!」」
見事にハモる右京・左京にハモりでかえす壱弥・深衣菜。
「・・・で、依頼は誰を指名するのかな?」
なにごともなかったかのように話しを続ける遥。
深衣菜たちは不満をやや顔に残したまま再び慶隆をみる。
「そうですね・・・伊那瀬先輩とそちらのバ・・いえ、バスケの試合で随分と話題になった只瀬先輩でお願いします。」
「てめっっ絶対バカって言おうとしただろ!!」
「壱弥!そういう思い込みで食って掛かるからバカって言われるの!!」
「深衣菜ちゃん、そう思ってたとしても口に出しちゃダメだよ。」
そう返す遥を壱弥は睨みつける。
「青龍てめぇっっ!!」
「遥先輩って言いなよ!!」
騒ぐ壱弥と深衣菜を依頼人たちは呆れ顔で見てる。
[義隆様、本当に大丈夫ですか?]
[大丈夫じゃないか?校内で有名だし、お手並み拝見だよ。]
まだ続きそうな騒ぎを手の叩く音が制止させる。
「ほらほら依頼人の前。」
遥の声に静まる部室。
「では明日の朝七時半時に籐洞路家に来て下さい。お待ちしてます。」
3人が出て行くと壱弥は扉に向けて舌を出す。
(何やってるのかなぁ。でも・・・あんなにイヤがるなんて。)
「壱弥君、義隆君を特に嫌ってたみたいだけどどうしたんだい?」
「なっっお前何も気づかなかったのかよ!!」
遥をきつく睨むが、深衣菜に睨まれていることに気付き、視線をそらす。
ため息を大きくつく。
「ったく。あいつは玄武だ!間違いねぇ!」
「え、昔の仲間ってことかい?だったらどうして?」
「どうしてってあのガキはなぁっっ・・・・・とにかく大っ嫌いだ!!」
(いくら仲が悪くてもそんなに?)
「そんなにイヤなら俺と変わるかい?体調崩したって言えばどうにかなるさ。」
(あたしもその方がいいと思うな。壱弥モメごと起こしそうだし。)
「ダメ!あいつが深衣菜に手ぇださないように見張るんだ!!」
「ありえないし目的違う!!」
「だったら依頼人と喧嘩しないように頼むよ。」
「任せろっっそれくらい朝飯前だぜ!!」
(不安の方が大きいなぁ・・・あたしがしっかりしなくちゃっ!)
翌朝、深衣菜たちは洋風の大きな門の前で立ちつくしていた。
「・・・・・・でかいな・・・」
「・・・・・うん」
燎の家も大きいと思ったが、それとは比べ物にならないほどだと感じる。
インターホンを押すと、門が開けられ、左京が2人を出迎える。
「あれ?用事はいいのか?」
「義隆様をお見送りしてからで大丈夫です。」
そう言ったあと、左京は真剣な表情になる。
「では内容を詳しく伝えるので着いて来て下さい。いいですかっくれぐれも義隆様に失礼なことをしないようにお願いします!!」
迫力に気圧され、黙って頷く壱弥と深衣菜。
籐洞路家の敷地――
それは5人兄弟がそれぞれ一つの家を持って各々生活しているらしい。
兄弟は8人だが、他の3人は離れたところで暮らしているらしい。
そして、末っ子の慶隆だけが両親と同じ家で生活している。
「へーどうでもいい情報だな。」
投げやりに言う壱弥を左京は睨む。
「あっあたしたちとはだいぶかけ離れた生活だから驚いただけだよっっ!」
深衣菜があわててフォローする。
依頼の説明をされながら2人は使用人の部屋に案内される。
そして、執事として着るスーツを渡される。
「なに?これ着なきゃダメなの?」
「当然です。身だしなみは基本です」
深衣菜は着替えの為、別の部屋へと移動する。
(それにしても・・・依頼のために一年の授業にまで出るなんてね・・・)
どうやら、籐洞路家から学校に壱弥・深衣菜を護衛のために義隆と常に行動を共にするようにと連絡がされてあり、許可がでたようだ。
(むちゃくちゃだなぁ・・・金の力ってやつね。)
ため息をつきつつも、スーツ姿になる。
紺色の絨毯が敷かれた長い廊下に出ると、既にスーツ姿の壱弥と左京がいる。
(壱弥って、普段の恰好が自由すぎて似合わない・・・)
「深衣菜、スーツ姿も似合うよ」
「男の恰好を似合うと言われてもね・・・」
左京の後をついて一室にはいる。
どうやらリビングのようだ。
義隆が一人で食事をしている。
その斜め後ろに右京が立っている。
(え、一人って・・・)
食事をしているテーブルは本来なら大人数で使用されるものらしく長い。
しかし、椅子は三つしか置かれていない。
「お前、いつも一人で食べてるのかよ。」
「「義隆様と呼んで下さい!」」
壱弥に右京・左京が声を荒げる。
「別にいいよ。言っても呼ぶ気ないですよね?只瀬先輩。」
「当然だ!お前で充ぶぎゃっっ」
「ごめんねこいつが失礼なこと言って!」
壱弥は拳を落とした深衣菜を睨むが睨み返される。
その様子を食べ終わったばかりの義隆が冷笑。
「先輩方は朝から元気ですね。僕の両親は仕事が忙しくて帰ってこないことも朝が早いことはいつもですがなにか?」
「へぇ~随分と寂しいな。」
「壱弥っっ!!」
「僕は構いませんよ?」
義隆の言葉に不満顔の壱弥。
「そんなことより学校に行きましょう。」
椅子から立ち上がる慶隆のあとについて行く深衣菜たち。
依頼内容は、時間は長いもののさほど大変ではない。
常に慶隆と一緒に過ごす。
危険な目に会わないように守る。
それだけ。
行き帰りは車、集団生活の学校。
よほどのことがない限り危険な目に会う確率は低い。
(っていうかあたしたちといることで鬼と遭遇しないかって事の方が心配なんだけどなぁ。)
壱弥も同じように考えてるのではないかと思い、見る。
「・・・・・・・」
(こいつ何か企んでない!?)
壱弥は義隆を睨んでいるが、口元は微かに緩んでいるように思える。
3人は黒い高級車に乗り込む。
義隆、深衣菜と壱弥、向かい合うように座ると、車は発進し始める。
「さてと、玄武。いいかげんに本性出しやがれ!」
「何のことですか先輩?」
「とぼけんな!そのクソ生意気な顔に独特のオーラ!どう考えても玄武だ!!」
「ひっ人違いですっっ失礼な人ですねっっ!!」
(あれ、遥先輩のときと同じふうになってる?)
「壱弥!ごめんねこいつバカだから!!」
深衣菜は壱弥の胸倉を掴み、自分に引き寄せる。
[落ち着いてよ!先輩みたいに記憶ないかもしれないじゃん!]
[そりゃねぇな!玄武は深衣菜のピンチを助けてるんだ!]
[だから玄武か水の能力者か判らないって言ったじゃん!]
2人が睨みあっていると、やや大袈裟なため息が聞えて来た。
「先輩方お話しは終わりましたか?仮とはいえ主の僕を放ってイチャつくなんていい度胸してますね。」
「「あ」」
深衣菜は壱弥を慌てて突き放す。
「慣れない事でしょうから多少の無礼は許しますよ。でもほどほどにして下さい。」
壱弥はムスッとした表情で黙る。
深衣菜は最初から衝突してしまった事で不安は大きくなっていった。
慶隆と一緒に一年の教室に入ると、クラスメイトたちの、主に女子生徒から黄色い声が上がる。
そう、深衣菜も壱弥も人気があるのだ。
「ねえ、あたし達がいることで注目されてない?」
「その方が狙われにくいですよ。一部を除いて。」
「一部って?」
深衣菜の問いかけに、義隆は深くため息をつく。
「・・・・・昼休みになればわかります。いいですかっ先輩方は僕を何が何でも守って下さいよっ。その為の護衛ですからね!」
(なんか必死になってるなぁ・・・昼休み何があるんだろう)
「心配すんなって!俺がいれば大丈夫だ!」
「ええイザって時は只瀬先輩を盾にして逃げます。」
「かっ可愛くねぇ~~~っっ」
睨み合う壱弥と義隆。
(ああもうっ一番の障害はこの2人の仲の悪さだよ!)
午前中は授業、休み時間を含めて問題なく過ぎていく。
各教科の担当の教師は事情を知っているせいか特に深衣菜と壱弥がいることについて咎めることはなかった。
一年生たちは2人に羨望の眼差しを送りつつも関わることはない。




