第三幕
――――姫、こちらにいらっしゃいましたか。
―――どうしたの?
―――いえ、てっきりまた白虎に連れ回されてるのかとおもって。
―――私は大丈夫よ。心配性ね、青龍ってば。
―――出かけるのは結構だけど、最近特に多いからねぇ。
すると、姫と呼ばれている巫女装束の長い黒髪の少女は柔らかく笑う。
そんな姫に緑色の鎧を身に着けた青い肌の青い長髪の青年も笑顔を向ける。
―――あのね、私、この力があるから外に出ると化け物を見るような目で見られてたの。
それで、ときどき叔父様がきてくれたときしか出たことないのよ。
白虎に話したら、どこにでもつれてってくれるって言ってくれたの。
だからね、白虎のこと怒らないで。
―――ああ、別に白虎のことを責めてるわけじゃないさ。
ただ・・・・・我々も気にかけてることを忘れないでもらいたいからね。
青龍と呼ばれた者は姫の頭を優しくなでる。
―――さ、帰ろうか。
―――・・・父上も青龍みたいに・・・・・
姫は泣きそうな表情になり、呟く。
青龍は黙って姫の手を引き、歩き出した。
――――――――――――――――――――――
(・・・なんだろうさっきの夢は・・・)
起きればいつもと変わらない朝。
目が覚めた深衣菜はベットに入ったまま昨日のことを考える。
(そういえば・・・あたしが姫で壱弥が白虎で前世の恋人、兄貴が叔父で陰陽師・・・ってそんなマンガみたいな話夢に決まってる。)
時間を確かめようと身体を転がして起きようとしたが、目の前の光景に凍りつく。
そう、隣にはなぜか壱弥が気持ちよさそうに寝息を立てて眠っている。
「ななな・・・・・」
そのとき、壱弥が眠そうに半目を開く。
「あれぇ・・・みいなぁ?・・・夢かぁ・・・」
腕をのばし、深衣菜に抱きつく。
「ななななななっっ」
「夢なら何してもいいしぃ・・・ふふふ・・」
身体にまとわりつく壱弥を離そうとするが意外としっかりとくっついてくる。
「やっ・・・起きろバカッッッ!!」
叫ぶが壱弥はまだ夢の中のようだ。
「どうした深衣菜!!」
「何かあったのか!!」
悲鳴を聞きつけた裕は竹刀を手に、父はフライパンを手に持って、勢いよくドアを開けて飛び込んできた。
「「あっ・・・」」
絶句し、父はフライパンを床に落として固まる。
裕は竹刀をきつく握り駆け寄ると迷わず壱弥を一度強く叩き、深衣菜から引き剥がすと床に叩きつける。
そして両手を動かして印を結び
「太郎次郎召喚!!今なら反撃出来ないぜ!ボコれーーーーっっ!!」
召喚された赤・青鬼は昨日の恨みと言わんばかりに壱弥を袋叩きにしだす。
「まっっまってよ!そこまでやらなくても!父さんもいるんだから!!」
深衣菜は慌てて裕に制止をかける。
「大丈夫だ!父さん気絶してるからなっっ」
「あっっ立ったまま!!」
そっちの方をなんとかしなきゃまずいんじゃないの!?
そう言おうと父親に駆け寄ろうとしてとき、裕に肩を掴まれる。
「そんなことよりっ抱きつく以外何もされてないかっ!?」
「ないよっっ!あいつただ寝ぼけてただけだからっっ」
そろそろ壱弥がとんでもないことになってないかと心配になる。
「刺激的な目覚ましどぉぉーも!!」
全く怪我はしてなく、鬼どもを投げ飛ばしている壱弥の姿を確認。
悲鳴を短くあげて二匹は消える。
そして、怒りの表情は当然だが主である裕に向けられる。
「裕さん!ひでぇよっっ何もしてねぇのに!!」
「ほら、やっぱり寝ぼけてたじゃん。」
「そうか?俺はてっきり夜這いだと思ったぞ。」
「よっっよばっっ・・・」
叫びそうになった壱弥は、ふと冷静に周りを見渡す。
「あれ、俺の部屋じゃない?」
そう、壱弥は夜中にトイレへと行き、間違えて深衣菜の部屋に来てしまったのだ。
「それに叔父さんがとんでもないことにっっ!!」
「「誰のせいだーーーっっ」」
伊那瀬家の朝は賑やかである。
事実を知った深衣菜には怒られ、裕には呆れられ、2人の父親の機嫌は元に戻った。
そんな日の放課後、壱弥は某所でパイプ椅子に座り、目の前の人物を力強く睨みつけている。
「なんでっ・・てめぇがいるんだっ青龍!!」
「はぁ・・・それは俺の事?」
壱弥は勢いよく立ち上がり遥の胸倉を掴む。
そう、[よろず同好会]の部室にいる。
遥に連れてくるように言われているため、共に部室に行ったとたん喧嘩ごしの壱弥。
「どういうつもりだ!!裕さんに深衣菜のこと押し付けててめぇは高見の見物か!!」
「何のことだい?君とは初対面だっ」
「とぼけるんじゃねぇ!!」
「壱弥ぁぁぁぁぁぁぁっっっ」
深衣菜の拳が容赦なく頭上に落ちる。
とたんに遥を放し、頭を抱える。
「落ち着け!先輩に謝って!!」
「深衣菜ぁぁ~いたぃ~」
「とりあえず説明!いきなり先輩に切れるとかワケわかんないじゃん!!」
遥を壱弥は再び睨む。
何か言いたそうに唸るが、ため息をつく。
壱弥はパイプ椅子に座る。
深衣菜はその隣に椅子を持ってくると座り、壱弥を睨む。
「先輩に何かしようとしたら殴るからねっっ!!」
遥はというと、部室の奥のほうの戸棚から湯のみや急須を出すと用意を始めだした。
「壱弥君だっけ?お茶とコーヒーどっちがいい?」
「は?」
「ほら話するなら飲み物あった方がいいだろ?」
「おま・・・いいや、お茶。」
マイペースな遥に呆れてしまう壱弥。
「もしかしておもてなしされてる?」
「ああ、お客さんにはおもてなししたいんだって。それよりっ先輩にどう話す気っ!?本当に人違いだったら失礼じゃないっ」
深衣菜の言葉に壱弥は首を横に振る。
「いや、あの顔、あのオーラはどう考えても青龍さ。もしかしたら白虎の姿になれば思い出すかもしれないから召喚頼む。」
「それでも違ってたらどうするの?」
「あーー・・・人違いと手品でした、で済ませよう。」
壱弥の殺気を気にしてないのか、遥は笑顔で飲み物を持ってきた。
(先輩って律儀だよねぇ。じぶんのこと怒鳴った相手をもてなすなんて。)
隣の壱弥も深衣菜と同じ事を考えてるようで、複雑な表情をしている。
「じゃあ自己紹介しようか。俺は青野遥。3年2組の生徒でこの同好会の部長さ。よろしく。」
「俺は深衣菜と同じ2年4組に転校してきたばかりの只瀬壱弥。深衣菜とは親戚で同居させてもらってる。」
「あたしは「「知ってるからいいよ」」
遥と壱弥にそろって自己紹介を強制終了させられてしまう。
「じゃあさっそく本題に入ろうじゃねぇか青龍さんよぉ」
遥を鋭く睨みつける壱弥。
睨まれた遥はきょとんとした表情になる。
壱弥は四神のこと、姫のこと、前世のことを話しだした。
遥はただ聞いているだけだった。
「・・・なるほど・・・つまり、俺が青龍の生まれ変わりで、深衣菜ちゃんを守るためにお兄さんに記憶と能力を与えたと。う~ん・・・信じられないな。」
「ほら。」
壱弥はため息をつくと、深衣菜をみる。
「頼む。」
「やっぱりやるの?」
壱弥はうなづく。
深衣菜は錫杖を出すと叫んだ。
「白虎召喚!!」
あっというまに白虎に姿を変えていく壱弥。
「こっこれはっっ」
驚愕の表情となり、椅子から立ち上がる遥。
「こんなことがっっ・・・」
「やっと思いだしたか?」
「うそぉ・・・先輩が本当に青龍・・・」
「どうやったんだい!?こんな手品!すごいじゃないかっっ猫に早変わりするなんて!!」
遥のオオボケに盛大にこけてしまう深衣菜と壱弥。
「おまっっふざけんなぁ!!」
「せ、先輩っあたしが錫杖だしたことは?」
「え、手品だろ?そんな特技あるなら言ってくれればいいに」
「手品じゃねぇ!よく見ろ!!」
遥は壱弥をじっと見つめ、はっとした表情になる。
そして、急須などをおいてある戸棚の下の方の引き出しを探り始めた。
「たしかこのあたりに・・・あった!!」
「な、なんですか?」
「おっもしかして俺のこと思い出して渡す物でもあるのか?」
期待の表情になる壱弥。
「じゃーんっ猫じゃらし!いやぁ校長の飼い猫探すときに使ったアイテムあってよかったぁ。」
「あ?あぁ・・・・・そうかよ・・・」
能天気に笑う遥に対し、壱弥は怒る気力もないというふうにガックリと肩を落とす。
そんな壱弥の目のまえに無邪気に猫じゃらしをちらつかせる遥。
「せせせっ先輩ぃぃぃっっ!!?」
「ふざけんな!!」
壱弥は遥に牙を剥く。
その姿ははたからみても迫力がある・・・はずだった。
どうも、猫科の動物としての本能は勝てないらしく、手は宙を泳ぎだし、双方の目は猫じゃらしを追っている。
「い、壱弥?」
ふと、勢いよく猫じゃらしに飛びつくが、かわされる。
「すごいっっリアルに猫じゃないか!ならこれは・・・とって来い!!」
遥が投げたゴムボールは床をワンバウンドし、窓から飛び出してしまう。
それに飛びつこうと窓から身を乗り出した壱弥を深衣菜は慌てて飛びついて止める。
「壱弥っっだめぇぇぇぇぇっっ!!」
「ボールッボールぅぅぅぅぅぅっっ!!」
「三階から飛び降りないで!先輩も手伝って!!」
深衣菜に促されて慌てて壱弥を引っ張る。
二人掛りでようやく窓から引き剥がす。
「まさか窓から飛び出すなんて思ってなかったよ。悪い悪いっボール取ってくる!」
遥が部室を飛び出した後、壱弥は白虎の姿のままガックリと床に崩れる。
「くっそぉ・・・これさえなければっっ」
「もしかして、獣になると動物の本能に勝てないの?」
「あぁ・・・悔しいけど・・あぁ~~青龍にもてあそばれた!ちくしょぉぉぉぉぉっっ!!」
悔しがる壱弥を廊下の物陰から覗いている影が三つ。
それぞれ笑いをかみ殺すような表情で静かに空いている教室へと移動し、ドアを閉める。
とたんに少年は堰を切ったように笑い出す。
「いっ今の白虎みたぁぁ?まんま猫じゃん!あーはっはっはっ!猫じゃらしにとびついちゃってさぁっっ」
「よっ義隆様っ笑いすぎでっくっくっ」
「あの白虎様がっくっくっ」
少年たちはしばらく笑い続ける。
しかし、少年の一言で笑いを止める。
「青龍か・・・あんな近くにいたなんてね。」
「ですが、様子が少し変でしたね。」
「四神としての記憶がない感じです。」
義隆はその言葉に頷く。
「そうだね。青龍だけど別人だな・・・」
そして、クスリと笑う。




