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鈍色の婆は唇を欲する I was kissed by strange 婆.

作者: サンシーク

後半の巫女うんぬんは全て作者の創作です。

 今、この現代日本の東京『深喜町』で、まことしやかに囁かれている、とある都市伝説がある。

 そして、ある日の明け方、俺はその都市伝説と遭遇してしまった。



―――――――



 東京の昔ながらの門前町、『深喜町』。ある平日の明け方、俺はそこにあるバイト先、深喜第三ビルの建設現場の夜勤を終え、始発に乗るために地下鉄の駅へと向かって歩いていた。

 途中、ゴミ袋が積んである小さなゴミ捨て場の横を通りかかった。すると


『みゃー、みゃー』


とゴミ捨て場から、猫の声が聞こえてきた。

 声枯らして鳴くその猫は、声からして仔猫だろうか?

 俺は昔実家で飼っていた猫を思い出し、猫の事が気になり、


「子猫ちゃん、どこにいるのかな~?出ておいで~。」


と猫なで声で呟きながら、ゴミ捨て場に足を踏み入れた。


『みゃー、みゃー』


 俺は仔猫がいると思われる、ゴミ袋とゴミ袋の隙間を覗こうとした。すると突然、その隙間から


『ミ~ツケタ。』


甲高い嗄れた人の声が聞こえてきた。


「誰かいるのか!?」


 俺は驚き、そこに向かい声をかける。


『タスケテオクレヨ。デラレナインダヨ。』


 誰かが倒れて動けないのか?この辺りは飲兵衛横町が近いせいか、酔っ払いがよく倒れている事が多々ある。

 俺は急いで隙間に顔を近づけて覗く。すると、


『イナイ、イナイ、ババァ!!!』


っ!!!


 隙間から奇妙な老婆の顔が見え、その老婆が声を発した。


『キヒヒひヒヒひひヒひヒヒ!』


 老婆がわざとらしく笑う。

 っ!!!

 なんだ、このババァは!

 俺は思わず後ずさる。なんと隙間から見えた皺だらけのババァの顔は髪も耳も目も鼻も口も歯も濃い鼠色、全てがいわゆる鈍色にびいろだったのだ。


『ばばバババばババばばば!』


 辺りにゴミ袋を散乱させながら、ババァが積んであるゴミ袋の中から勢いよく立ち上がった。

 俺はまたもや驚愕する。全身が現れたそのババァは、ボロボロの着物を着ていたのだが、その着物も手も爪も足も全てが鈍色だったのだ。

 と、次の瞬間、ババァが大袈裟にクネクネと身体を動かし、


『ババァ、クタント倒レテイタノニイキナリ爆誕!ドウ?ネェ、コノダジャレ、ドウ?』


 このババァは、『ババァ、クタン』と『爆誕』をかけたのだろう。しかし、このババァ、ノリノリである。だが、ドウ?と訊かれても答えようがない。


 『ソレジャ、イクゾイ!!!』


 ババァはそう叫ぶと、いきなり近くにあったゴミ袋に手を突っ込むと、なんと、鉈を取り出し、あろうことかそれを俺に向けて構えた。

 このババァ、ヤバい!


 俺は恐怖を感じ、一刻も早くこの場から立ち去るために思わず走り出した。


『キヒっひひひ、ふヒヒひひヒヒっひヒヒヒヒヒヒ!』


 走りながら振り返ると奇妙な声でケタケタと嗤いながら、鈍色のババァが鉈を振り回し、髪を振り乱し、目は焦点が合っていない上に血走り、口からは全身と同じ鈍色のよだれを垂らしながら、大股開きで走って追いかけてくる。

 ババァとは思えない瞬足で、みるみるうちに俺との距離が縮まってきた。


 ヤバい!ヤバい!!ヤバい!!!

 このままだと、追いつかれる!


 俺は何度も横道にそれたり、道行く人に擦れ違い様、助けを求める。だが誰も気付かない上にババァとの距離が確実に短くなっていく。

 と、少し先に交番が見えた。俺は一縷の望みをかけて、交番へと走る。あと少しで交番に辿り着く、とその時、


 ガシッ!!!


 身体に何かがしがみついた。俺はその衝撃で地面に勢いよく叩きつけられた。


『いひッ!ひヒ!!!ヒひひひひひヒばばバババばバばひヒヒヒひひひ!』


 っ!!!!


 鈍色のババァが年寄りとは思えないような馬鹿力で、俺にしがみついていた。


『カクゴシナ!』


 鈍色のババァが、仰向けに倒れていた俺に跨がった状態で、鉈を振り上げる。

 もう駄目だ!俺は覚悟を決め、目をつむる。と、次の瞬間、


『ブチュウ!!!』


 俺の唇に何かが押しつけられた。何事かと思い、目を開けてみる。すると、すぐ目の前に目を瞑った鈍色のババァの顔があった。


 っ!!!


 俺は鈍色のババァにキスされていたのだ。


 なんだ!なぜだ!!どうして!!!


 とにかく俺は鈍色のババァの頭を掴み、力一杯引き離そうとする。しかし、まるで強力な接着剤でくっつけたかのようにビクともしない。

 と、俺が鈍色のババァを引き離そうと四苦八苦していると、ババァの唇がモゾモゾと動き始めた。


 何をしている?


 何か喋っているようだ。

 

 よく聞くと、鈍色のババァは俺の唇と自分の唇を重ね合わせながら、何か祝詞のりとのようなものを唱えている。


 どういうことだ?


 俺がその状況に戸惑っていると、鈍色のババァが唇を離した。そして、俺の目を真っ直ぐに見て、先程とは打って変わった落ち着いた安心感のある老女の声で、


『われらがめですくぅぞくしにふくぬぅりくとぅをあたえたまえとかしこみかしこみももうす』


 そう呟き、鈍色のババァは優しい笑顔を浮かべながらスゥ~と消えていった。



―――――――



 後に色々調べてみると、関係ありそうな資料を見つけた。 深喜町には大昔村があり、その村には『くとぅーふーめぇ』、現代風に直すと『言霊の巫女』という存在が居たらしい。

 『くとぅーふーめぇ』は年に四度、季節の変わり目の祭りの日に鈍色の巫女服を着て、運気の上昇と次の季節を無事に過ごせるよう、ある方法で村人全員に辺り一帯の守り神から授かった『福の言霊』を吸わせる儀式をしたという。その儀式というのは口移し。要するに接吻、キス。

 まず、村人と『くとぅーふーめぇ』が自分の唇に清めの塩と清酒を塗り、互いに短刀を持つ。そして神楽を舞い、その後、接吻をしながら、『くとぅーふーめぇ』がその間、短い祝詞のりぬぅりを唱えるのだという。その祝詞が『福の言霊』というわけだ。

 ちなみに『くとぅーふーめぇ』は六十歳以上で、それまで巫女を勤めてきたものが選ばれるということだ。

 今回、俺が出会った鈍色のババァが『くとぅーふーめぇ』かどうかはわからない。しかし、何らかの関係があるのは間違いないだろう。

 なお、資料の最後にはこう記してあった。


『室町時代末期、くとぅーふーめぇのいた「永守村」は、他教の信徒たちによって、他の地に逃げ延びた数人以外は一人残らず殺された。』


 彼女は死んでなお、村人達、いや、彼らの子孫を守る『くとぅーふーめぇ』であり続けようとしている気がしてならない。

 何故なら、俺は逃げ延びた村人の子孫なのだから。

 ちなみにババァにキスされて運気が上がったせいかは分からないが、翌日、一日に五回連続で百円玉を拾い、二回連続で二千円札を拾った。



『われらがめですくぅぞくしにふくぬぅりくとぅをあたえたまえとかしこみかしこみももうす』


『我らが愛する後に続く子孫達に福をもたらす言葉を与えていただけるよう神々に謹んで申し上げます。』



――都市伝説・接吻婆せっぷんばばぁ――

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