仇を打つ噺
2013/06/18
診断結果
牙声さんは『ぶつかる』と『風』と『空中』と『土色』を使ってSSを書いてください!!頑張ってね(・ω・)ノ
ブログ【スクールイベントのはなし。】(http://ameblo.jp/kisei728/entry-11555259428.html)にて公開。加筆修正済。
「やっと見付けた」
目の前には黒茶の毛を持った巨大な化け物が居た。ずっとずっと、探し求めていた相手が。
この時を、ずっと待っていた。俺が生きた意味を今、示そう。
獲物を見付けた巨体は四つん這いの状態で唸り声を上げる。ゆらりと状態を起こし、後ろ脚だけで立ち上がった。己の道に立ちはだかる化け物に刃を向ける。その圧倒的な存在感に気圧されそうになる体を叱咤して地を蹴った。
目指すはあの化け物の首を。
背後に流れていく景色、徐々に加速する体。風を切り裂く音だけが耳に響いていた。走馬灯の様に脳裏を過る記憶が、俺に力を与える。
死にもの狂いで逃げたあの時から、ずっと奴を憎んでいた。生きて帰ったのが俺だけだと知らされた時、どんなに後悔したものか。
何故俺だけが生き延びた? お前だけでも逃げろと背を押された時、何故逃げてしまった?
奴に立ち向かって行った仲間たちの背中を、俺は見ていた筈なのに。彼らを止める事が、共に逝く事が、出来た筈なのに。
結局彼等を置いて独り逃げた俺だけが今此処に居る。最期に会った彼らは皆土色の顔をして、五体満足の者は誰一人居なかった。
あの時彼等に誓ったんだ。絶対に奴を赦さないと、俺の手で仇を打つと。
残り一歩。
振り上げられた化け物の、リーチの長い爪が体を引き裂いた。そんな事で俺は止まらない。
走り込んだ勢いそのまま思い切り右脚を踏み込む。空中に踊る体、振り上げた剣に全体重を乗せる。右腕が風を切って唸りを上げた。
化け物の体と振り翳した剣が、ぶつかる。
――研ぎ澄まされた感覚の中、握り締めた剣から骨肉を斬り裂く感触が伝わった。
化け物と擦れ違う。その巨体の背後、痛む身体で何とか受け身をとって転がった。溢れ出す血には目もくれず化け物を見る。
ゆっくりと傾く化け物の巨体。斬り裂いた喉から噴き出す血がまるで深紅の雨の様で。
地響きを立て崩れ落ちた化け物は二度と、起き上がる事は無かった。
やっと、やっとだ。仲間を失ったあの時からずっと、この為だけに俺は生きてきた。血反吐を吐く程の努力だって奴を倒す為に必要なのだと、仇を打つ為に必要なのだと思えば迷う事など無かった。
奴に付けられた傷口が、まるでそこに心臓があるかのように波打つ感覚。止まる事無く溢れ続ける血が服を、地を染める。痛みは感じなかった。
遠退いて行く意識に身を委ねる。
これで俺も彼等の元に逝ける。やっと逢いに逝ける。ずっと謝りたかったのだ、俺だけが生き延びた事を。共に逝けなかった事を。
彼等は俺を咎めるだろうか。いや、優しい彼等はきっと笑顔で迎え入れてくれるのだろう。
ふと笑みが零れた。
これで全てが終わる。次に生きる時にはまた、彼らと共に……。
暗闇を抜けた先、暖かな光の中で彼等は俺を待っていた――――。
戦闘ならではの疾走感が出せない。




