知られざる楽園の噺
2013/06/16
診断結果
牙声さんは『遅い』と『影』と『傷』と『藤色』を使ってSSを書いてください!!頑張ってね(・ω・)ノ
ブログ【茶しまと小説のはなし。】(http://ameblo.jp/kisei728/entry-11553720477.html)にて公開。加筆修正済。
明るい大通りから少し外れた路地裏。光の届かないその場所に、独り走る影があった。
遅いよ、もっと速く走らなきゃ。あの場所へ行かなきゃ、影に捉まってしまう前に。あの子が僕を待ってる。
僕の後を追うあの影も、空から舞い降り立ちはだかるあの影も、僕とは比べ物にならないくらい大きなあの影も、動く鉄の塊も、みんなみんな僕の行く手を邪魔するんだ。きっとあの場所へ行かせまいと、先の見えない暗闇の中に引き摺り込もうとしてるんだ。
どんなに息が切れて呼吸が苦しくなっても、足が縺れて転んでも、開いた傷が痛んでも、止まらない。止まれない。
この先にあの子が待ってるんだ。行かなきゃ、約束の場所へ。
漸く見えた希望に、力強く脚を踏み込んだ。
暗い路地を抜けた先には、疲れた躰もあの恐怖も何もかもを忘れる程綺麗な世界が其処にはあった。
暖かな太陽の光と穏やかな風が僕の体を包む。日光を受けて光り輝く柔らかな草の海に散らばる色とりどりの花。そんな世界の中、純白の彼女を見付けた。藤色のリボンが草花と共に靡いて、彼女は僕の元へと歩み寄る。鼻と鼻をつけて擦り寄って、白の彼女と黒の僕は寄り添った。
暗い路地を抜けた先、人間達の知らぬ楽園がある。
その楽園の中、二匹の白黒猫の秘密の逢瀬を知るのは彼らを見守る光と影だけ――――。
影は進むべき道を教えていた。その優しさを黒猫は知らない。