前を向く噺
2013/06/15
診断結果
牙声さんは『ぶつかる』と『風邪』と『傷』と『赤』を使ってSSを書いてください!!頑張ってね(・ω・)ノ
ブログ【久々のオンラインのはなし。】(http://ameblo.jp/kisei728/entry-11552941230.html)にて公開。加筆修正済。
何時まで経っても止む事の無い雨が、ずっと降り続いていた。容赦無く体にぶつかる雨が心地良い。冷えて感覚が無くなっても、傘を差すなんて無粋な真似はしない。だって、折角の雨だ。傘なんて邪魔な物差したら勿体無いだろう? 色の無い世界の中で降る、この雨が好きだ。これが一番良いのだと、このままが一番良いのだと、ずっと信じていたのに。
突然現れたのは赤を纏う少年。いきなり現れた彼は僕に『風邪を引く』と言った。
「何をふざけた事を。僕はこの雨が好きで、色の無いこの世界が好きなんだ。勝手に色を混ぜないで、この世界が変わってしまう。消えてしまう」
――本当にそう思ってる? 本当にこの世界が好きなの? 色付く事を恐れて、止まったままのこの世界が。
「好きだって言ってるだろう。『止まったまま』だなんて関係無い」
――本当にそうかな。君は逃げているだけでしょう? 『今』見るのが恐いから。『忘れてしまう』事が恐いから。
「五月蠅い、だから何だって言うんだ。何も知らない癖に、お前に何が解る」
――解るよ。僕は君で、君は僕だから。彼女を忘れたくないんでしょう? だから君は此処に居る。『今』と言う『色』を忘れて、彼女が居た頃のこの世界に。雨が止まないのは、君が泣いているからだよね。
「何を言ってるんだ。僕は泣いてなんていない。僕はただ此処に居たいだけなんだ」
―うん、知ってるよ。でもこのままじゃいけないって、本当は知ってるんだよね。だから僕が此処に来た。君が前に進む為に。
「嫌だ、僕は此処に居たい。進みたくない、忘れたくない」
――でも、君は進まなきゃ。大丈夫、君なら出来るよ。ちゃんと忘れないで前に進めるから。だから、僕と一緒に行こう。君の傷の手当をしなきゃ。
蹲る僕の目の前に差し出された手。行きたくない、此処に居たい。でも、思い出したんだ。僕は前に進まなきゃいけない。前を向いて。
恐る恐るその手を取る。自らの足で立ち上がれば、赤の僕が僕を抱き締めた。冷え切った体に触れた暖かい体温に、涙が溢れた。二人で一緒になって声を上げて泣いて、こんなに泣いたのはいつ振りだろうか。
行かなきゃ。
大丈夫、自分の力で立てた。また前を向けた。もう“一人”でも大丈夫。
どんなに雨が触れても沁みなかったのに、彼の涙は僕の傷に沁みて痛みを帯びた。有難う、そう告げれば彼は安心したように優しく笑う。
漸く上がった雨は、空に虹の橋を架けた。
色付いた世界に、赤の僕はもう居ない――。
雨は哀しみ、その雨に濡れる事で泣く、色の無い世界は大切な人を失った哀しみで進むことを止めた彼の中の時、色が混ざるとは現実を見る、赤の少年は進まなきゃいけないと解っていた自分、傷は大切な人を失った心の空白、空に掛かった虹は進むべき道。




