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第7話 紅黄草


「お、フィオナちゃんだ」


 翌日、ログインした私を待っていたのはサイクロプス隊隊長のヒューレットだった。


「おおお、これが例のフェザー1ちゃん」

「可愛いなおい可愛いな」

「若いな、おじさんと結婚しようか」


 といった声がヒューレットの後ろから聞こえてくる。なんだか、デジャブを感じさせる光景だ。


「後ろの方々は?」


「そういや紹介がまだだったね。彼らがサイクロプス隊とバンシー隊の隊員達だ。空で散った人達は別の場所でリスポーンしたから、今日輸送機でアニハから飛んできたんだ」


「皆さん、先日は有難う……というより、援護が遅くなって御免なさい」


 喜んでおけとヒューレットから言われていたが、やはりそういう気分になれなかった為に口をついて謝罪の言葉が出てしまう。


「えーんよそんな事。それよりあいつを墜としてくれた事の方がよっぽど嬉しいって!」

「ホントホント。ま、正直何が起こったか分かんなかったんだけどね、俺は」

「どうやって落としたのさ? フィオナちゃん、F-5乗ってたんだろ」


「ま、その辺はヒューから聞いてやってくれや」


 口々に出る言葉を制しながらジャックが顔を出した。こいつはいつの間に来ていたんだろうか。


「そうだね、後で僕から説明しておくよ。ところでジャック、姐さんの所に行くんだって?」


「ああ、その為に昨日海軍機に買い換えた。ところがよ、こいつときたら慌てるもんで機体を買い間違えやがってよ……」


「もうジャック! その話はいいから!」


 人を指差しながらニヤつくジャック。いつか絶対に仕返ししてやる。


「ま、今日の俺らは移動だけで終わるだろうな」


「そっか。僕らは当分、こっちの大陸でミッションをこなして行く予定だよ。また、機会があったら一緒に飛ぼう」


 そう言ってヒューレットはホロウィンドウを操作してフレンド登録を送ってきた。その登録を了承し、私と彼は再会の約束を交わした。

 ヒューレットもジャックも、空母の艦長と知り合いなんだろうか。




 ***




『管制塔よりフェザー隊、貴隊の幸運を祈ります』


 離陸した私達に対して、管制塔からの通信が入る。

 今日は移動だけなのでミッション申請はしていないのだが、こうも状況に合わせて台詞を変えてくるNPCは実に芸達者だ。

 敵として出てくるNPCにも、こういうものは設定されているのだろうか。だとすると、少しやり辛いように思えてしまう。


 先に離陸していたジャックの左前に出た後、スロットルを少し戻して調節する。

 機体の感触を1つずつ確かめるように操作していると、通信がヘルメット内に聞こえてくる。


『いやぁ、やっぱホーネットは安心するなぁ』


「私、あなたがファントムに乗ってるところしか見た事が無いのだけれど」


『そうなんだけどよ。まいいや、そっちは乗り心地どうよ』


「全然違うわ。もう何もかも」


 今までのF-5Eに比べるとF-14Dは二回り程大型に見える。その大きさを補うような大エンジンパワー。自身の速度に合わせて開閉する可変翼。何もかもが違う感覚だった。

 武装に関しても使い勝手は別物となるだろう。今までのタイガーⅡは対地攻撃を重視した機体であったが、トムキャットは対空戦闘重視だ。爆装して対地攻撃も可能であるが、基本的にはAIM-54 フェニックスという長射程ミサイルの運用が、この機体のコンセプトとなる。

 ただこのミサイルが曲者なのだ。カタログスペック上は非常に優秀なのだが、現実での戦果が芳しくない。おまけに1発当たりのコストは高いし、重量も重い。トムキャットには最大で6発のフェニックスを付けれるが、その状態で空母に戻るためには2発を捨てなければならない。

 そんなものではあるが一応この機体のシンボルでもあるため、現在の兵装は短距離用サイドワインダー2発、中距離用スパロー2発、長距離用フェニックス2発という状態だ。

 ちなみにジャックのF/A-18Cは、AIM-120 アムラームを4発ぶら下げていた。くそう……なぜそんなに余裕がある。


 そう言えば、空母の現在位置は今まで話題にしていなかった事を思い出した。


「ねえジャック、あなたのお知り合いの空母は今何処に?」


『スロパ島の沖合だな。大丈夫だ、方向は合ってるから安心しろ』 


「そう、それならいいけど。出発前にヒューレットが【姐さん】って言っていたけど、艦長さんは女性なの?」


『ああ、そうだ。歳は20代後半、俺と同じぐらいだな。まーたなんで、こんなむさ苦しいゲームやってんだろうなと思うわ』


「それ、私に言ってない?」


『ん、悪ぃ。そういうつもりじゃ無かったわ。いや、お前も大概だと思うけどな!』


 ははっ、と笑いながらそんな事を言われると、こちらも意地悪をしたくなってくる。


「あなたに女性の知り合いが居るなんて意外だったわ。もしかしてリアルでも仲良かったり?」


『はぁ? マジかよ、カンベンしてくれよ』


「じゃあ、そういう事にしておくわ」


 今までずっと上手に立たれていたように思っていたのと、こんな早くに仕返し出来た事で久々にちょっといい気分だ。

 今度からこういうやり方で苛めてやろう。


『ったくよぉ……お、見えてきたぜ。あれがニミッツ級航空母艦【マリーゴールド】だ』


 そこにあったのは、白い航跡を引きながらアクアマリンの海に浮かぶ、鈍色の要塞だった。




 ***




「有難う、助かったよ」


 航空母艦の甲板に着艦したシーホークから出てきた男が、それを迎えたクルー達に言う。


「あんなとこで撃墜されるなんてな。しかも敵味方含めて生き残りがお前だけなんて、ラッキーな奴だな」


「ほんとだよ、神様に感謝してるぜ。早くパイロットスーツ脱いで、冷てぇもんを飲みたいな」


 男はそう言うと、ヘルメットを掲げて挨拶をしながら甲板上を歩いて行った。


 甲板上で交わした挨拶通りに、空母内の食堂へ男は向かう。艦橋下にあるハッチを開け、下層へと降りて行った。

 数度、NPCクルーや他プレイヤーとすれ違うが、何気ない素振りで「よう」と挨拶をしていく。

 空母内は何層にも別れており、目的のところへ行くためには何度も梯子や階段を昇降しなければならない事もある。この男が目的とする場所も、一度甲板から3層分を降りて再度1層上がった先にあった。

 

 機械の奏でる喧騒が人の声に変わってきた事が、食堂付近に近づいた事を知らせる。

 食堂には十数人がおり、それぞれ思い思いに食事をしていた。

 だが、男はその群れの中には入らなかった。

 入口付近から内部を覗きこんだ後、今まで歩いてきた道とこれから更に歩んでいく道を見て、そこに誰も居ない事を確認する。

 更に階段を数度昇降の後、辿り着いた場所のドアには【格納庫】の文字が記されていた。


 男がドアを開けると、整備中の人間から声が掛かる。男にはこのツナギを来た人間がNPCなのかプレイヤーなのか見分けが付かなかったが、そこはさしたる問題ではなかった。

 周囲を見渡して、他に誰かいないか男は確認した。ここにいる人間は自分達2人だけである事の方が重要であった。


「ん、見ない顔だな。最近来たのか?」


「ああ、これからよろしく頼む。ちょっと自分の機体を確認しに来たんだ」


「おう、そうなのか。でも、ここにあるのって俺の知り合いの機体だけだと思ったんだけどなぁ」


「ああ、お前には特別見せてやろうか。俺の機体は……こいつだよ」


 そう言って男は懐から消音器付きの拳銃を取り出し、先程まで整備をしていた男へ向けて発砲した。

 2回、弾丸が空気を切り裂く音とスライドの動く音が響いた。

 驚愕に目を開きながらツナギの男は仰向けに倒れ込む。

 念を入れ、残りの弾丸を頭部と左胸に撃ち込むと、床には赤い水溜りが出来始めた。

 先程の会話から考えると、ツナギの男はプレイヤーなのだろう。それならば、事は早く進めないといけない。数秒の後に何処かでリスポーンしたこの男により、この事が公になってしまう。

 手早くホロウィンドウを操作し、インベントリ内のプラスチック爆弾を実体化する。先程使った拳銃以外、男のインベントリの全てを爆弾が占めていた。

 とはいえ既に他の箇所も回ってきているため、現れたのは手持ちの残り分だけだが、それでもここを使えなくするには十分な量だ。機体の誘爆も期待出来る。

 ここを爆破すれば自分も海の藻屑と化してしまうだろうが、どうせ最初から帰る手段はない。リスポーン前提の作戦なのだ。

 後は、同じ部隊の仲間が片を付けてくれる。


 こんな作戦が出来るのも、このゲームならではだろう。

 普通のゲームならば敵兵の頭に敵軍を示すマーカー等が出るものだが、このゲームではそれすら表示されない。

 歩兵であれば迷彩服を統一したりして識別するのだが、パイロットは東西どちらの航空機にも乗れるので怪しまれる事は少ない。

 救難ビーコンを出している敵パイロットを殺して、そいつと入れ替わるという技を使った甲斐があった。


「……グッバイ、マリーゴールド」


 敵を出し抜いたという満足感に口元を歪ませながら、男は手元のスイッチを握りしめた。




 ***




『お、見えてきたぜ。あれがニミッツ級航空母艦【マリーゴールド】だ』


 そこにあったのは、白い航跡を引きながらアクアマリンの海に浮かぶ、鈍色の要塞だった。


 だがその鈍色の要塞に目を落とすと同時に、その後部横側、格納庫と甲板を繋ぐ航空機用エレベータの部分から爆発が起こる。私にはそれが、色合いといい形といい、まさに紅黄草の花が咲いた様に見えてしまった。

 1輪目が咲くと、続けて他の数カ所でも同様の爆発が起こった。


「確かに、満開に咲いてるわね」


『あー……いやいやいや、アホな事言ってんじゃねえよ。おい、こちらフェザー2! マリー、応答しやがれ!』


 私のジョークを無視してジャックが叫ぶ。


『えー、こちらマリーゴールド。あら、早かったわねジャックぅ』


 大人びた女性の声が聞こえてくる。この人がマリーゴールドの艦長なのだろうか。


「こちらフェザー1、状況を教えて下さい」


『フェザー1……あ、あなたが羽根付きのフィオナちゃんね!ジャックから聞いてるわぁー』


 呑気な声が聞こえてくる。自分の艦が燃えているというのに、この余裕は何処から来るんだろう。


『折角来てくれたのにゴメンナサイね。綺麗に格納庫が吹き飛んじゃって、ちょっと今はてんてこ舞い。ミサイル攻撃じゃないと思うんだけどね』


『俺達は降りられるのか?』


『まだ煙がデッキ上を覆っているから、止めた方がいいと思うわぁ。それよりね、大変なの。レーダーが所属不明機を捉えちゃったのよ。こっちは火災が広がっちゃって、まだ飛行機上げられないのにー』


 マリーと呼ばれた女性の声の裏からは、ダメコン急げだの状況確認だのといった怒声が聞こえてくる。

 すぐに沈む事はないだろうが、このままでは敵機の攻撃を許してしまうだろう。そうなれば、私達は降りる場所を失ってしまう。


『今、丁度上がってる部隊もいないの。護衛艦隊も出払っちゃっててねー。という訳なんで、よろしくねっ!』


「了解、私達で迎撃します。フェザーエンゲージ、マスターアームオン」


 火器管制システムを入れた私達は、大海原にある紅黄草の花畑を追い越していった。





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