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第6話 誤操作


「こちらフェザー隊、着陸許可を」


『こちらスリポリト基地管制、着陸を許可します』


 着陸許可が下りた為、機体をランディングコースへ向ける。その前に一言だけ言って置かなければと思い直す。


「ごめんなさい、先に降ろさせて貰うわ」


『いいっていいって、お先にどうぞ。残弾あるこっちでエアカバーしておくから』


 ランディングコースへ乗った機体を減速させつつ、フラップとギアを降ろす。キュッとタイヤが鳴る音と振動が伝わり、機首の車輪も接地。

 そのままブレーキを掛けつつ、無傷で奪取したハンガーへ向けて誘導路を進む。

 幸い、対空車両は基地外縁に配備されていたようであり、滑走路、施設共には被害がなかった。

 ハンガー前に駐機し、エンジンの火を落とす。まだフワつく感覚が残る体でキャノピーを開け、NPC整備兵が掛けてくれた梯子で地面に足を下ろした。

 なんだか、久しぶりに陸に降りたような気がしてしまう。


 そんな感傷に浸っていると、いきなり建物から飛び出してきた何十人もの武装集団に囲まれてしまった。

 敵なのか味方なのか分からずに驚いている私の前に、男が一歩踏み出しながら訪ねてくる。


「……あんた、フェザー隊の隊長か?」


 どこかで聞き覚えのある声に頷きで答えると、辺りは一瞬にして歓声に包まれてしまった。


「うおおおお! マジで女の子だ!!」

「さっきの見てたぜ! マジ凄かったって!」

「F-5でラプター墜とすとか、聞いた事ねーよ!」

「ほんとほんと。装甲車両片付けてくれたのもあんただろ? 超助かったぜ」


 面々から口々に言いたい事を言われ、対応が出来ずに困っていると先程の男が口を開いた。


「悪い、紹介が遅れたな。俺はさっきあんたが援護してくれた部隊の隊長をやってる者だ。いやさ、さっきの市街地の辺りから回線で不穏な事が聞こえてきたもんで、皆そっちが気になっちゃってよ。こりゃやべえと急いで基地へ向かったんだ。そしたら上で大立ち回りしてんじゃん? しかも敵がラプターじゃん? 通信回線の会話からもエラい緊張感が伝わってくるし、とにかく俺らは空港占拠するしかねえってなったら、みんな士気上がっちゃってさ。とにかく、お礼を言わなきゃな。有難う」


 複数人からマシンガン口撃を浴びせられている状況に助け舟が出たかと思ったら、今度は分隊支援火器がやってきたようだ。

 しかし私が上で戦っている間にそんな事があったとは。あの通信の後はもう自分の事だけで一杯であったので、地上の事はすっかり忘れてしまっていた。

 その事を少し恥じる。


「ごめんなさい。こちらの事だけで一杯で、その後の援護も出来なくて」


「何言ってるんだって! あんたはきっちり仕事してくれたじゃねーか、誰もそんな事考えてねぇよ。むしろこっちが支援出来なくて申し訳ないくらいだ。あ、あんたの連れも帰ってきたみたいだぜ!」


 そう言うと男は滑走路に目をやった。その方向に私も目をやると、既にF-16がタキシングしており、F-4も滑走路へ接地した所だった。




 その後、地上部隊から聞いた話によると、撃墜されたサイクロプス隊とバンシー隊のメンバーの内数人は脱出に成功しており、空港周辺で保護されていたとの事であった。

 その事に少し安堵するも、結果だけ見れば彼らを囮にして美味しいところだけを攫っていった様でもあり、あまり喜ぶ気にはなれない。

 しかし、それをサイクロプス1――ヒューレットというキャラネームだと教えて貰った――に伝えると、「こういう時は喜んでおかなきゃダメだよ」と爽やかに言われてしまった。

 うーむ、ジャックと同じ人種だというのにこうも違うのか。一方は爽やかイケメン、もう一方は無精髭のおっさん。

 あ、自分も半分は同じ人種だった。


 基地奪取に喜ぶ表の喧騒から離れ、基地内の売店で飲み物を飲んでいるとジャックが話しかけてきた。


「お疲れ、フィー。どうよ報酬、結構振り込まれたんじゃねーの?」


 そういえばまだ確認していなかった事を思い出し、ステータスウィンドウを開く。作戦の成功報酬と撃墜報酬で……、なんだこの金額は。


「ん、どうしたよ」


「ん、ええ……所持金の桁がそのまま一桁上がってたから、ちょっと驚いちゃって」


「そいつは良かったな! これでF-5Eともお別れ出来るじゃねーか。俺も次は別の機体にしようと思ってんだ」


 そう言うジャック。それならば丁度いい。ここで今後の方針を打ち合わせるのもありだろう。

 別にF-5Eが嫌いな訳ではないのだが、流石に今後も使い続けるのは厳しい。前線に立ち続けるのなら、より搭載能力のある機体に換えるのが無難だ。


「ジャック。あなた、海軍機って興味ある?」


 は? という顔でこちらを見てくる。あ、そうだ。ファントムって元々海軍機だった……。


「なんだ、海側行こうっていう事か? あっちの方でも、空港付きの島は結構あるぜ」


「んー、今ちょっと攻め込まれてるでしょ? 今回陸側を取り返したから、次は海側で戦闘が起きるのかなって。で、どうせ海に行くなら艦載機に乗ってみたいし」


「そうだな、それは有り得るだろうな。東の海側に出るんなら、やっぱ空母のお世話になんなきゃいけねーしなぁ。一応、俺の知り合いで乗ってる奴いるけどさ」


 一応、とはまた酷い。空母の艦長と言ったら、結構大変な仕事だろう。そんな事をやってる人に対して、一応とは……。


「行くなら連絡取っておくけどよ、後悔すんなよ?」


「……なんか引っ掛かるけど、お願いするわ」


 オッケー、と言うとジャックはホロウィンドウを弄り出した。メッセージを送っているんだろう。

 回答はすぐに返って来たようで、人差し指と親指で丸いマークを作った。


「よし、機体を見繕うか。俺はレガシーホーネットにしようかと思うわ、一応アムラームも使えるしな」


 F/A-18C ホーネットはコクピット横からエアインテークにかけて、帽子のつばの様なストレーキが存在するのが特徴的な機体だ。

 現在ではその後継機のF/A-18E スーパーホーネットが就役しており、それと区別するために旧型はレガシーという言われ方をする。逆にスーパーホーネットをライノと呼ぶ場合もあるらしい。

 この辺の知識は父の書斎からの受け売りだが、今は本当、読んでおいてよかったと思う。読んだからこそこんなゲームをやっている、と言えなくもないのだが。


 私はどうしようか。

 ホーネットだったらコスト的にも適当だ。ジャックの出しているホーネットのウィンドウを覗き込みながら金額を確認すると、一応3機程は買える手持ちがある。


「ちなみにだ、隊で機種を揃えると整備費が割安になったりするぞ」


「そうなの? じゃあ私もホーネットにした方がいいのかな……」


「ただ、ヒュー達みたいに役割分担しないでマルチロールで固めちまうと、やっぱ器用貧乏感が出ちまうな。まあ、何選んでもいいと思うぜ。好きなのに乗るのが一番だ」


 そう言われるのが一番迷うんだけどなぁ……。値段とスペックが表示されたメニューを見ながら、トムキャットとホーネットを行ったり来たり。

 F-14AとF/A-18Cでは、F-14の方が金額設定が安いのか。その代わり、可変翼って整備費高いんだろうなぁ……。でもカッコイイなぁ、憧れちゃうなぁ。


 延々とメニューをスクロールさせるその様子を見てなのか、ジャックが言った。


「お前、着艦やった事あるのか?」


「……ない」


 その一言を聞いて、迷わず私はF-14の購入ボタンを押していた。これ以上古くなると戦力として心許ない。だが、事故で間違いなく2機は墜とすと踏んだので、少し余裕が欲しい。そう考えれば妥当な選択だろう。

 あっ、とその行動を止め損なったジャックが、少し頭を抱えているのが横目に見えた。


 メニューウィンドウの所有機体リストを開き、F-5Eに付いているチェックを外してからF-14"D"にチェックを付け直す。

 エプロンにあった機体はモザイク状のポリゴン片へ姿を変え、代わりに二回りは大きい双発機が現れる。


「宜しくね、猫ちゃん」


 そう呟きながら、私は後輪に手を置いた。艦載機らしく、その太い柱に安心感を覚える。

 その後ろでジャックの声が聞こえた。


「お前なぁ、よく見ろって……D型はホーネットより高いぞ」




 ログアウト後の私は、夜を徹して動画サイトで着艦動画を漁っていた。




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