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第53話 スポンリオ攻防戦2


『こちらマリーゴールド所属部隊。サイクロプス、以下30名弱。これより戦闘に参加する』


 上空にやってきた航空機部隊は、フジト達が以前に乗艦した艦の名前を発した。その事により、他の部隊の人々が色めき立つ。

 おまけにサイクロプス隊といえば、フジトとムラキは縁がない訳ではない。


『おい、今マリーゴールドって言ったよな?』

『てことは、羽根付きの連中も来てるのか?』

『いや、それらしい機体は見えないな……』


『こちらサイクロプス1、落ち着いて聞いて欲しい。僕達が離艦した直後……マリーゴールドは雷撃を受けたんだ』


 その言葉に、先程までの声が途絶える。


『それじゃ……今居るのが全部か?』


『かもしれないし、そうじゃないかもしれない』


 そのヒューレットの声に続けて、別の男の声が聞こえてきた。


『こちらイーグルヘッド。おしゃべりしている暇は無さそうだ。敵基地より航空機の離陸を確認。これは……スホーイとミグ、戦闘機だぞ!』


『対空兵装装備の人はサイクロプス隊に続いてくれ! 対地攻撃機は、地上部隊の援護と敵基地にいる車両の撃破を!』


 上空を飛んでいた戦闘機は一斉に散開し、それぞれの目標を追い始める。そしてそこから全体の1/3程の数の一団が抜け出し、スポンリオ山へと向かった。


 そこからが、空中戦の始まりだった。


 殆ど間を置かずに、山の麓へと口を開く滑走路から戦闘機達が飛び立っていく。

 まず味方の内、数機がそれらにミサイルを発射した。だがミサイルは上手く敵機を捉えられなかったのか、敵機によって避わされてしまう。

 ミサイルの目標とならなかった敵機は、避わしたのを見届けたかのような間で応射を開始。それによって味方機の内、2機が空に散る事となった。


 短距離ミサイルですら捉える事が難しい間合いで、戦いは推移していく。その中で特に異彩を放っているのが、赤い機体色の4機編隊だった。

 彼らは2機ずつに分かれ、お互いをカバーし合うかのように空を舞う。狙われ始めた1機が出ると、もつれ合うその場を狙って1機がミサイルを放つ。2機が狙われると、分かれた別の2機が同様にして援護の射撃を放った。


 空に、様々な航跡の雲が描かれていく。その様子があまりに美しく、フジトは息をのんだ。


「フジト、見とれてる場合じゃないぞ」


 ムラキの声で我に返ったフジトは、改めて地上側の様子を掴もうと目を凝らした。


『こちらイーグルヘッド。サイクロプス、もう少しの辛抱だ。後少しでアニハからの増援が来る!』


『了解。サイクロプス隊各機は赤い奴から狙う! 他の機を援護しよう!』

『『『了解!』』』


 地上では、戦車隊が歩兵の壁に対して攻め倦ねている。こちらはやられたらそれまでだが、向こうはいくらでもすぐに復活出来るのだ。その事は彼らの二の足を踏ませるには充分な理由になっていた。

 なるべく遠距離から砲撃を加えようと敵歩兵から距離を取るが、今度は基地から補充された自走砲や自走ロケット砲からの攻撃を避けるのに手を焼かされる。そうしている内にじわじわと車体にダメージが蓄積されていき、履帯を破損する車両も出始めていた。


「じり貧と言わざるを得ないな……」


 空側も、撃墜される機体より発進する機体の数が多くなってきている。聞こえてくる通信も、劣勢を告げる物ばかりだった。


 そろそろ厳しくなるかもしれない。

 そうフジトが思ったとき、アニハからの更なる増援の到着を知らせる無線が入ってきた。


『こちら臨時編成のフェニックス隊、ユリウスだ。遅くなって済まない、これより戦闘に参加する』


 声と同時、彼方から4機の味方機は一斉にミサイルを発射。白煙が延びた先、全てで爆発が起こった。

 双眼鏡を覗いたフジトは、その機影を追った。直線で構成された、グレーの機体。あれは……ラプターか! おまけにユリウスと言ったら空のトップランカーだ。

 しかし、たった4機という機数なのが気になる。


『ひゃあ! ランカー様のお出まし……って、たった4機じゃないか……』


 フジトと同じ事を思ったであろう地上部隊から、落胆の声が上がった。


『まぁ、当然そう言われるよね』

『だから言ったじゃんYO!』

『……だよなぁ』


『そう言わないでくれ。アニハはアニハで、今は防衛に掛かりっきりなんだ。無理を言って、ランカー4人で抜けてきたんだから』


『4人ってまさか……トップの4人か!?』


 その言葉で、下がり掛かっていた地上部隊の士気が上がり始める。


『こっちの武装は、機外も含めてアムラーム満載だ。AWACS、指示をくれ』


『了解した、危険度の高い攻撃機から順に、データリンクで指示を出す』


 一旦距離を取ったラプター達は、ある程度距離を取ったところで再びミサイルを発射し始めた。既に爆撃コースに入っていたフロッグフット部隊が慌てて回避行動を取り始める。

 しかし猛禽の爪はそれを逃がさない。


 その光景は、嫌でもテンションを上げさせる物だった。フジトはもう自分の仕事を忘れて、空中戦に見入ってしまっている。

 しかし、ムラキは冷静さを失わなかった。いくら兵装を満載にしたラプターと言っても、何十本もミサイルを持っている訳ではない。このままではいずれ、先程と同じように徐々に追い込まれる様になってしまうだろう。


 何か、決め手が必要なんだと、ムラキは南の空を眺めながら思った。




 ***




 武装の補充が終わり、私達フェザー隊はストンリコを飛び立った。

 先程から聞こえてくる無線が、前線の状況を知らせてくる。まず先に前線に到着したのはヒュー達だった。その後にアニハから飛び立った航空部隊が合流。そこに基地から飛び出してきた敵部隊がぶつかり、スポンリオの上空は混乱し始めている。


 5,000ftで巡航する私は、他のメンバーへと呼びかけた。


「各機、合流した?」


『おう、大丈夫だ』

『もう横に並びまーす。ベルちゃんも、ちゃんと付いて来てますよ』


 その声と共に、僚機達が私の左右に並ぶ。


「さて、どうしましょうか……」


『地上部隊の援護をしたい所だが、そう悠長な事も出来そうにないしなぁ』


 地上部隊は、まるで無限湧きするかのような敵兵に手こずっているようだった。彼らの予想だと、基地内に複数の兵員輸送車を置いてそれをリスポーンポイントにしているらしい。

 それを破壊してしまえば戦いは楽になるのだろうが、何分敵の懐にあるので手出しが出来ない。空から攻撃出来るのは、各所にある出入り口から顔を出した自走砲やSAM、AAAが精々のようだった。


「このままだと武器や弾薬が尽きた方が負け、なんて事になりそうね」


『こっちは遠方から出張している分、持久戦になったらどうしても不利だしな。兵員輸送車が破壊されれば、リスポーンも出来なくなって最初からやり直しだ』


 そうなったら、今回無理して出張った意味が無くなってしまうだろう。


『じゃあいっその事、私達で基地を壊しちゃうとか!』


 この子、可愛い声でとんでもない事を言うわね。


『あのなぁ、あんな山にある基地をどうすんだよ。バンカーバスターだって、滑走路の入り口を壊すのが精々だ。もしそんな事したら基地への突入が難しくなって、地上の連中から顰蹙を買うぜ?』


 空側の人間も、最初から爆撃は諦めている。爆撃機なんて出した所で「地震かな?」と思う程度に基地が揺れるだけだろう。こちらの航空機が少なくなってくれば、長距離のSAMを準備する時間だって出来てしまう。


 機体は山岳部を抜けて、平地へと入った。ラサルファの街が右手前方に見える。そこからすぐのサリラに入れば、もう交戦圏内だ。

 ネテアから行けたら、もうちょっと楽だっただろうになぁ。


「そういえば、ネテアにも空港はあったわよね? いつもの感じでストンリコに行っちゃったけど」


『ああ。だが、以前の空爆で跡形も無くなっているらしいぞ』


「そんなに爆撃が激しかったの?」


『いや、燃料や弾薬に大誘爆したらしい。地上施設は更地になっちまったから、いくら降りれる場所があっても使い物にならないな』


 そうなのか。一度も行ったことが無い場所だっただけに、惜しい気持ちがした。

 そんな事を考えていると、


『……それですよ!』


 突然、ナオが叫んだ。


『あのお山の基地って、飛行機が出て来てますよね? だったら当然、それを使う為の燃料とかは使い易いようになってる筈です』


『予想じゃ、6本の滑走路が放射状に伸びてるって話だな』


 滑走路の入り口と思われる穴の向きから、そういう想定がされていた筈だ。その辺は、マリーとの会話でもしばしば出ていた事だった。


『放射状って事は、真ん中で重なっているって事です。勿論、他の基地みたいにハンガーとかが無いと使い辛いと思うんですけど、それだったらそう言うのは真ん中に置くのが一番効率良くないですか?』


 確かに。そういう構造なら、1度に6本の滑走路を使う事が出来る計算になる。今現在、リアルタイムで聞こえてくる通信でも、6機の戦闘機が出現したという声があった。


『つまり、滑走路が重なり合う部分はある程度のスペースが有る、と』


『で、そういう場所には必要な物が集まっている……筈です』


「それを壊せば、基地を破壊出来るかも知れない……?」


『ですです!』


 考えが伝わって嬉しそうにする彼女の声が聞こえてきた。


『で、誰がそれを壊すんだ? 地上の連中がそこまで行けないから困ってんじゃねえか』


 そこに無情な突っ込みを入れるジャック。


『ぐっ……そうでした……』


 しかし、その予想は良い所に行けていると私も思う。後は、どうやってそこに爆弾を……。


 ん? 爆弾?


「そうだ。飛行機で突っ込めばいいじゃない」


 その私の発言に、続けてジャックの乱暴な指摘が入った。


『は? 馬鹿かお前。昔のゲームならいざ知らず、このゲームは空気抵抗とか衝撃波がきっちり計算されてんだ。離着陸しか考えてないような通路に……』


「そこよ」


 私は、ジャックの言葉を遮って続ける。


「あそこは離陸だけじゃない、着陸の事も考えて作ってあるのよ。現に、以前フランカーとあそこで出会ってるじゃない。少なくとも、あの大きさの機体が自由に出入り出来るようにはなっている筈」


『そりゃそうだが……じゃあ、あそこをどうやって飛ぶんだ? 音速が出ていなくったって、航空機の周りに起こる空気の乱流は想像以上だぞ。ましてやあの内部にある空気量を考えたら、壁のようになって即墜落しても不思議じゃない』


 確かに、彼の言葉は一理ある。


 過去に、新幹線のトンネルが騒音問題を起こした事があった。高速で狭所に飛び込む事になる為に、列車がピストンの役割をしてしまうのだ。トンネルに突入後、押し出された空気がまるで大砲のように押し出されて爆音を出す。その解決の為に、先頭車両の形を工夫したそうだ。


「ギアとエアブレーキを出して、超低速でミリタリー出力」


『……その理屈を聞かせてくれ』


「エアブレーキは機速を落とす為よ。ランディングギアもそう。で、失速ぎりぎりの速度で100%の出力を出して、機体の前にある空気を後ろに逃すの。場合によってはアフターバーナーを使っても良いかも」


 そう。その新幹線の取った解決法は、列車の後方に空気を逃がすような形にするという事だった。

 戦闘機の加速にはジェットエンジンを使う。吸い込んだ空気を圧縮させて、燃料と混ぜて爆発。そこで得た燃焼ガスを推力として使う。出力に伴って、吸入する空気量も上がる。

 機速をなるべく上げずに出力を出せれば、機体の周囲を流れる空気量とエンジンの吸入する空気量の差も少なくなるだろう。

 おまけにトンネルの容積に対して、これからやろうとしている事と列車では体積の比率が違う。


「という、素人考えなのだけれど」


 私の説明を聞いて、先程から云々と唸るジャック。


『わっかんねえ。こればっかりはやった事がねぇし』


『ですよねー』


「そうよねぇ……」


 やっぱり、ジャックでもどうなるか分からないか……正直、自分でも無茶苦茶な作戦だと思っているし。


 しかし、その後にジャックの口から出た言葉は意外なものだった。


『まぁ、でもよ。いざとなったら着陸しちまえばいいだろ、脚を出して行くんだし。おあつらえ向きに突入口は滑走路と来てらぁ』


「あれ? また無茶してとか言って、反対するかと思ったのに」


 前に怒られた事に対する皮肉を、今更になって言ってみたりする。些細な反撃だ。

 それに対して彼は、


『言っただろ? 事前に言ってくれりゃ、お前のケツは俺が守ってやるって』


 そんな言葉を返されたら、私も毒気も抜かれてしまうわ……。


「わかった、私の負けよ。滑走路出口には対空火器があるでしょうから、それが潰れたら私が突入するわ」


『了解、楽しみにしてるぜ!』

『わたしも了解です。ベルちゃんもオッケーだって!』


 左右を飛ぶ機体のパイロットと目が合う。そして、その後ろを飛ぶ無人機。

 爆装された機体の下を、サリラの街が流れていった。


「各機、マスターアームオン。祭りの会場に飛び込むわよ!」





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