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第47話 ファーストアタック


 黄色い服を着たシューターが発艦の合図を出し、姿勢を低くする。

 既に100%の出力を出している機体は更に蒸気の力を上乗せされて、空へと飛び出した。

 ランディングギアを収納し方位360、つまり真北へと進路を取るために左旋回に入る。


「各機、ウェイポイント2で合流で」


 そう言うと間もなく、速度を落として巡航に入った僚機が隊列を組み始める。


『まずはネテア上空で、各隊と合流だな』


「そうね」


 これから、今までで最大規模の戦いが始まる。それはこのゲームにとっても初めての事になるだろう。

 今では参加する事が普通の事になってしまったが、ジャックと飛び始める前はこんなふうに仲間と飛ぶなんて想像もしていなかった。

 1人で自由気ままに飛ぶ事だけを満喫する毎日。それはそれで楽しい物ではあったが、きっとそれを続けていたらこの光景を見る事は出来なかっただろう。


 段々と、ネテアに近付くにつれて戦術マップ上の航空機の数が増えてくる。既に数機は私達に合わせて横を飛んでいた。

 いくつか見覚えのある機体も増えてきた。ヒュー達にダスティ達。それに以前、アップデート直後のスクランブルで飛び出していった人達も見える。コカトリスにオーガ、フラッパーだったか。

 隊に属しておらず、ソロで普段は飛んでいるであろう人達も合流して、私達の一団は総勢50機強の編隊へと変わっていた。


『ここまで集まると、本当に戦争みたいだな』


 誰かが呟く。その呟きの他にも、この光景に驚いている者も多かった。


 だが、その中で何機が無事に母艦へと帰還出来るのだろう。

 現実の戦争においては、一般的に戦力の30%だかを喪失すれば敗北と言われていたような気がした。


 だが、彼らは自分がやられるまで戦うだろう。これがゲームだからだ。


 プレイヤーにとっては死ぬ時がゲームオーバーでもあり、また始まりの時でもある。その繰り返しの均衡が破られた時に、初めて決着が付く。

 そしてまた、戦いが始まるのだ。


 しかし、私はそう考えてはいない。

 何度も墜落はした。しかし、生きて帰ってきた。この一瞬一瞬こそが私達にとっての「生」なのだ。

 死地を越えた瞬間の、生の実感。それが余りに官能的なので、囚われすぎてしまっているだけかもしれないのだが。


 巨大な白い機影が隊列に合流してくる。


『こちらイーグルヘッド、今日もよろしく頼む……っ!?』


 彼は挨拶の言葉の最後に、驚いて喉を詰まらせる。


『いや、ちょっとこれは……この数は初めての経験だな、レーダーが光点だらけだ』


 その機影の数に圧倒される彼に、


『何事も最初は初めてさ』

『頼むぜ、今日は大人しく従うからよ』


 そんな言葉が返された。

 実に偉そうだ。さっきまで自分達だって驚いていたくせに。


『まぁ、任せてくれ。NPCにも手伝って貰うから、な?』


 そう彼が言うと、イーグルヘッドから可愛らしい女性の声が聞こえた。


『あ、よろしくお願いしまーす。私、キャシーと言います』


 それに即座に反応する列機達。


『前言撤回。ミスしたらミサイルぶち込んだるぜ、イーグルヘッドさんよぉ』

『てめえ、NPCの女の子とずっと一緒だったのか! 裏山死刑!』

『久しぶりにキレちまったよ……このまま山頂、行こうぜ……?』


『もう、すぐこれなんだから……』


 その様子にナオが呆れた声を出した。


「あら、構って欲しいの?」


『いーえー、めんどくさいのでいいでーす』


 だと思った。

 まぁ皆の反応は放っといて。そろそろネテア上空を通過する頃合いだ。


『こちらイーグルヘッド、おいでなすったぞ。敵影……30機ずつ、北と北西から来るようだ。これより臨時編成を行う。スロキス島の時同様に、チャーリーとブラボーへ割り振るぞ。各自、MFDで確認してくれ』


 戦術マップ上の、自機を示すアルファベットが更新される。


『こっちはブラボーか。あんときゃ単独行動だったから、なんか新鮮だな』

『そうですねぇ』


「ま、やる事は同じよ。今日はナオにベルを付けるわ。勝手に使っちゃって」


「わかりました!」

【Roger.】


『イーグルヘッドよりブラボー、こっちは俺が担当する』


『えー、キャシーちゃんがいいんだけどー』

『マジかよ、ずっとおっさんの声を聞くなんて……』


 この声はバンシー隊のメンバーだ。


『キャシーの声を聞きたかったら、さっさと倒して向こうに合流するんだな。敵群は方位345、距離100マイル。ブラボー各機、マスターアームオン』


『『『了解!』』』


「了解、マスターアームオン」


『俺がいるんだ、レーダーは付けるなよ。アムラーム持ってる奴は、こっちに誘導を渡してくれ。そうすりゃすぐ回避出来る』


 戦術マップ上の敵機影が近付いてくる。もう数十秒で、アムラームの射程に食い込むだろう。

 火器管制装置が、データリンクで送られてくるターゲットをロックした。


『先手必勝、バンシー1から4は発射しろ。続いてオーガ、フェザー、コカトリス、スケルトン。いけっ!』


 各機から順に、レーダー誘導ミサイルの発射を告げるコールが聞こえ始めた。


「フェザー隊各機、FOX3!」


 私達も同様に、翼下にぶら下げたミサイル1本に点火。他の友軍機が発射したミサイルの噴煙に混ざって飛翔を始める。

 アムラームの射程に合わせての発射となったので、敵機はミーティアの回避不能範囲を離脱する事は難しいだろう。


 合計で20本を越えるミサイルは、白い雪崩のように敵部隊へと襲いかかった。




 ***




『撃たれたぞ! 反撃しろ!』

『くそっ、後手かよ! FOX3!』

『FOX3! 全機、ビーム機動に入るぞ。ブレイク! ブレイク!』

『だめだ、うわああああ!』

『あっぶねえ、避け……』

『フェンリル3が喰われた! ああ、4も!』

『推力が……すまん、後は任せた! ベイルアウトする!』


 ほんの数秒前まで自分達を祝福してくれているかの様だった蒼穹は、一瞬の内に我々に牙を剥く捕食者となった。

 だが、敵は最大射程でミサイルを発射したのだろう。被弾した者は少なくはないが、避わせた者も多い。

 ようやく、反撃の狼煙となるミサイルのコールがこちらからも聞こえ始めた。


『……メインステイが出払っているのが苦しいな』


 サラマンダー1、俺達の隊長がその様子を見て呟く。前を飛ぶその深紅の機体は、闘志を燃え上がらせているかのように輝いている。


 が、俺達は遅刻組だ。


『でもよ、準備に時間が掛かったのは正解だったか』


 そう、3番機の言う様に準備に手間取り、出遅れたのだ。

 だがそれには理由がある。

 敵機の接近の報を受けた時、俺達は機体のカラーリングをしていたのだ。全機同じ色、塗りたてほやほやである。

 しかし、ただ訳も無く色を塗ったのではない。隊員全員がSu-30MKIへと買い換えた記念という意味も籠もっている。


『んなこと言うと、他の連中に妬まれて晒されるぞ』


「もう募集の時に晒したようなもんじゃないか」


『ははっ、言えてる』

『そう言えばそうだったな』


 眼前に形成されつつある戦闘空域。至る所で炎が燃え、煙が上がる。敵も味方も被弾したが最期、羽根をもがれて真っ逆さまに墜ちていく。


 これが現代の戦闘なのだろうか。


 進化した武器での戦いは余りにも味気ない。一瞬の判断ミスの結果が直ぐに現れ、それをリカバリーする余裕は一時もない。

 これを過去の撃墜王達が見ていたら、どう思うのだろうか。

 ……どうにも思わないだろうな。同じように、ただ目の前の敵と戦うだけか。


「なぁ、隊長。フェザーがいたらどうする?」


 つい、その名前を口にしてみた。

 フェザー隊。俺達が一度、完膚無きまでにやられた相手。


『そうだな。俺個人の気持ちとしては、3と4にもあの高揚感を味わって貰いたいんだが』


『ああ、話に聞くあの隊か』

『許可が貰えるなら、俺もやりあってみたいな』


『なら話は早い。手当たり次第にぶっ放して、最後まで生き残れ』


「どうしてだ、隊長?」


 その彼の言葉に疑問を投げかける。


『簡単さ。最後まで生き残ってた敵が、フェザー隊だからな』


 成る程、納得した。


『エネミーレーダーコンタクト、ワンオークロック。全機、攻撃開始!』


「サラマンダー2、FOX2! FOX2!」


 その命令に合わせ、俺はK-77Mを2つの目標に対して発射した。




 ***




 接敵から数分で何機が墜ちたか分からない。そんなものを数えている余裕なんてあるはずはなく、とにかくエネルギー管理と飛来するミサイルの種類の選別に、集中力の全てを捧げている。

 既に敵味方入り乱れての大乱戦の様相を呈しており、RWRは盛大に悲鳴を上げ続けている。


『FOX2! ミーティア2本にして正解だったな! おおっと』

『ラッキー、FOX3! やたっ!』

【Guns,Guns,Guns.……Bandit down.】


「FOX2! ……ビンゴっ!」


 2本目のIRIS-Tが敵の胴体に食い込む様を見届けると、直ぐに索敵へと戻った。


『オーガ1、撃たれてるぞ! 回避しろ!』

『なっ……!』


 眼前でまた、味方が1機墜ちる。既に感覚は麻痺してきており、思考は既に悔しさよりその先、オーガ1へ向かったミサイルの発射元を探し始めている。

 HMD上に敵影が入ると、ミサイルを発射。敵機は真横にいるが、放たれたミサイルは急旋回をしてそこへ向かう。ロケットモーターが燃え尽きる前に機影へミサイルが食いつく。

 しかし同時にRWRがレーダー照射を知らせる。敵の最期を見届ける前に操縦桿を一気に引き、回避行動へと移った。


『フェザー1、グッキル! グッキル!』


 味方機からの通信で、ミサイルが無事に命中したことを知る。


「……大分減ってきたようね」


 敵も味方も、だが……。

 RWRの鳴る頻度は少なくなってきており、爆炎も明らかに少なくなっている。弾切れした機体の中にはガンファイトに持ち込む者も出てきているようだ。

 弾切れしたならマリーゴールドへ戻りたいところだが、追尾されている状況ではそうも行かない。離脱に入れば、一方的に撃たれる可能性もある。

 切りの良い所で補給に戻りたいが……。


『こちらバンシー2、後ろに付かれた! 振り払ってくれ!』


 まだまだ、そうも行かないようだ。


「こちらフェザー1、援護に向かうわ! 持ちこたえて!」


 何度目か分からないアフターバーナーの点火を行い、機速を上げつつ索敵を開始する。2機がシザースを行なって互い違いに旋回をする姿を見つけ、すぐさまその最後尾へと機体を連ねた。

 だが、機動が激しすぎてシーカーが固定出来ない。


「バンシー2、威嚇射撃するからその隙に!」


『了解、助かる! このまま離脱する!』


 そう言い放ち、敵機をガンレンジに入れる。だが、その際のレーダーロックに敵は気付いた様で、直ぐに回避機動に移った。

 機首を急激に持ち上げるポストストール機動に不意を付かれ、オーバーシュートをしてしまう。


「なっ、コブラなんて!」


 まさか実戦で使われるとは思わなかったその曲技を目の当たりにして、声を上げてしまう。

 だが、姿勢を立て直すまでは時間がある。そう思って垂直降下に入り、機体を加速させた。


 だが、敵はその空力を無視した姿勢から機体を横に捻り込み、こちらに機首を向ける。

 レーダーロックの警報が響き、背後の影がミサイルの噴煙を曳き始めた。

 直ぐにバーナーをカットして、8Gで真横へ旋回を開始。余りに距離が近かった為、私はミサイルの旋回半径内に入った様だった。ミサイルはフレアへ流されていった。

 こちらを睨む、赤い機体。距離が近いのでシルエットがよく分かる。カナードの付いたフランカーだ。


「この赤いの、強いわよ!」


『こっちも今、そいつに手こずらされてる!』

『こっちもです! ベルちゃん、今行くから!』

【Roger,Nao. Flare,flare,flare. ……Evade now.】

『ベルちゃん、ナイス! FOX2!』

【Nao,good kill.】


 撃墜報告が飛ぶ。

 ナオとベルのコンビは上手く行ってるようだ。


『……よし、いい感じだな。ナオ、俺はフィーの援護に行く。後は任せるぜ』


『任せられました!』


 更にミサイル警報。くっ、方角が分からない……。


『フィー、上方後ろだ! FOX2!』


 その言葉を頼りに、スプリットSに入る。チャフ、フレアの両方を連続して放出すると、水平まで残り20°に入った所で警報が止まった。


『ビンゴッ!』


「……ふぅ。助かったわ、ジャック」


『いいってことよ』


 さぁ、次はどこだ……。

 イーグルヘッドへ状況を確認しようとすると、良いタイミングで彼から連絡が入った。


『イーグルヘッドよりフェザー隊、敵残り3機。こいつらに相当数を喰われているぞ。こっちは君達しか残っていない。残存兵力は現在補給に帰っている。後、10分で第2陣が到着するが……』


 10分は長い。今ここで私達が撤退すれば、敵の増援が来てしまうかも知れない。

 抑止力となる為にも、もう一踏ん張りか。


「了解、つまり私達でやるしかないのね。聞いてた、みんな?」


『おう!』

『はい!』

【Yes.】


 心強い味方達の声に、気持ちも昂ぶる。


「ここで弾も燃料も使い切るわよ!」





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