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第5話 スリポリト奪還3


 アフターバーナーを全開にしてスリポリト市街地から郊外の空港へ向かう。機体は振動を伴いながら加速を続けるが、ファントムの方がエンジン出力が大きい故に先行を許していた。

 空港へ向かう間にも、再度状況を確認する。


「イーグルヘッド、現状を」


『先程のバンシー2、バンシー4ロストと同時に、残りのバンシーもレーダーロスト。その後すぐにサイクロプスも2機をロストした。レーダーでミサイルを捉える事は出来たが、範囲外から飛んできた様子は無く、滑走路付近から発射されていたと思われる』


 一体何が起こっているのだろうか、一瞬で6機が撃墜とは……滑走路上にSAMが残っていた? いや、それならバンシーが片付けていた筈だ。

 考えを巡らせていると、残ったサイクロプス隊のメンバーから声を荒げた通信が入った。


『こちらサイクロプス4! ラプターだ! あいつ、目を話した隙にたった100mかそこらの加速で離陸して、ミサイルぶちまけやがった! くっそ、ミサイルアラートが鳴り止ま』


 そこまで言った後、サイクロプス4からの通信は途絶えた。

 そこに再度通信が入る。


『こちらサイクロプス1! 4が墜ちた! こいつ……! くそ、どこいった!』


「こちらフェザー、今そちらに向かっています! もう少し持ち堪えて!」


『了解、と言いたいけど生憎弾切れでね……。とりあえず、数分は持たせてみせるよ』


「フェザー了解」


 非常に絶望的な連絡だった。

 ラプターの愛称を持つF-22は、現在でも世界最強の戦闘機と言って良いだろう。最新のステルス性能、豊富な武装、強力なエンジン、更に推力偏向ノズルとコンピューター制御のお陰で、強力なドッグファイト能力を持っている。

 これは実機の話だが、過去に144機を撃墜しながら被撃墜は無しという恐ろしい戦果を上げた事もあると聞いた事がある。

 とはいえ流石に100mでの離陸は不可能であろうが、突然の事できっと彼から見たらそのぐらいに見えてしまったのだろう。

 空港の制空権を確保していながら敵機の離陸を許してしまったのが悔しいが、施設破壊しないで奪取する事も目標の一つだ。

 上がってしまった事に文句を言うより、今は上がった物を叩き落さなければならない、が……。


「ジャック……」


 サイクロプスに了解と返したものの、どうやってラプターを相手をすればよいのか分からずに少し弱気な声を出してしまった。

 そんな事を見透かして、ジャックが言ってくる。


『なーに、か細い声出してんだよ、お前らしくもねえ。なあ、ラプターの弱点って知ってるか?』


 ……弱点? 持っている知識で考えても、弱点という弱点は思い付かなかった。何をどうしろというのだろうか。


『いくらステルスっていってもケツから盛大に炎出してんだぜ? 過去の記録を例に出すなら、演習でユーロファイターが落としたっていう事もある。その時、決め手になったのは赤外線センサーだ。お前、9Xを1個持ってきてるだろ?』


 確かに実験だと思って9Xは1個だけ装備してきたが……。翼端パイロンを選択し起動してみるが、レーダーと同期はしない。FCSが古く、対応しないのは当然だ。

 だがボアサイトモードにすると、見事シーカーが反応しロックサイトは表示された。

 ……少し前を飛ぶ、ジャックに。


「ええ。でもF-5のレーダーじゃステルスを補足出来ないだろうし、FCSとの連携も駄目。一応ボアサイトモードでは起動出来るみたいだけど、敵味方の区別付いてないみたい」


『それでいい。試して見ようぜ! ヒュー、聞こえてるか?』


『ああ、聞こえている。打つ手があるなら、それに掛けるしかないね』


『ちなみにやっこさん、ミサイル何発打ったかわかるか?』


『7機落とされて、さっき1発を何とか躱したよ。そういえば、さっきから飛んでくる気配がない』


『だろうな。イーグルヘッドが捕捉してない以上、レーダー反射面積の増える機外パイロンは付けてねえ。とすると、乗っけれるのは最大でアムラーム6発とサイドワインダー2発、合計8発で打ち止めだ。多分ガンキル狙ってくるぞ』


『よし、その手で行こう!』


 サイクロプスとジャックのやり取りを聞く間、私は少し呆気に取られていた。自分の無力さと、この状況でのジャックの分析能力に。

 少し深呼吸して、心を落ち着かせる。そして状況の整理、自分が出来る事の全てを考え直した。


「私の2発はどちらともボアサイトで撃つ事になるわ。サイクロプス1とフェザー2で相手を撹乱、合図したらブレイクして下さい!」


『サイクロプス1、了解!』

『フェザー2、了解、エンゲージ!』


 再度深呼吸し、深く息を吸う。マスクからの酸素を脳に行き渡らせ、宣告した。


「フェザー1、エンゲージ!」




 F-22 ラプター――猛禽――に追いかけられる、一つ目の巨人が描かれたもう一つの猛禽――F-16ファイティングファルコン――、その後ろを追い掛けるように2つの羽根が舞った。


 F-22は予想通りガンキルを狙っているようで、その射線上にF-16を入れようと追いすがる。F-16はそうはされまいとシザース機動を行い、F-22の持つ運動エネルギーを消耗させようとする。

 ハサミが開閉するように蛇行を繰り返す2機を追って、F-4が自身のガンレンジに入れようとF-22を追った。

 その後ろを同じように追いかける。

 F-22の強烈な機動を追おうと操縦桿を深く動かす度に、激しい縦Gが私を襲う。この機体にはコンピューターで制御されたG制限が無いため、操縦者の入力をそのまま反映させて水平尾翼のエレベーターが動く。

 体を襲う縦Gは体内の血液を下半身へと追いやり、それに比例して頭部の血流量が少なくなる。Gスーツが下半身を圧迫しそれを阻止しようとするが、一瞬で視界が暗くなった。

 だが、F-22をより近距離で追うジャックは、私以上のGに襲われているだろう。それなのに彼の機動の激しさは衰えない。

 流石、ランク上位に位置しているだけの事はある。逃げ続けるサイクロプスリーダーの腕も相当なものだ。

 追いかけ始めてから10回に近い回数は同様の機動をしていたが、不意に、F-22の取る迎え角が大きくなった。それに対応出来ず、ジャックのF-4はF-22をオーバーシュートしてしまった。

 後ろに付かれるプレッシャーを嫌がり、F-16とF-4を同時に正面に捉えようとした動きだろうか。迎え角を大きくした事でF-22の旋回半径は小さくなったが、その代わりに速度が大幅に下がった。


 チャンスは今しかない。


「各機スロットル0で、下へブレイク!」


 正面を飛ぶ友軍2機へ指示を出す。それと同時に、旧式のサイドワインダーであるAIM-9Eのシーカーを起動。

 予定にない指示が含まれていたが、2人はそれに対応してブレイク機動を実施。

 出力の下がったエンジンの熱源より、ミリタリー推力を出しているF-22の排熱を優先的にシーカーが捉え、F-22の機影に緑の菱形が重なる。


「フェザー1、FOX2!」


 左の翼端から、排煙がF-22へと伸びていく。

 その発射と同時に、今度は右翼端のAIM-9Xを選択する。シーカーが作動し、F-22の機影を捉える。

 ミサイル警報が反応したようで、F-22のパイロットは更に旋回の角度を深める。殆どポストストール機動と言っていい角度だ。背中をこちらに向け、インテークの上にはベイパーが見える。それと同時に数個のフレアが射出された。

 再度ロックサイトの位置を確認するが、9Xのシーカーは未だF-22を捉え続けている。

 よし、こいつは"騙されて"いない。


「FOX2!」


 再度宣言し、9Xのロケットモーターに点火。右翼端から同様に排煙が伸びていく。

 最初に発射されたAIM-9Eはフレアに騙され、F-22の後下方で爆発した。敵機にダメージは無い。

 だが、これでいい。

 フレアを発射された後でも9XのシーカーがF-22を捉えている事と、回避機動を取らせる事こそが重要だった。

 結果、9Xのシーカーは本体を捉え続け、F-22にはもう回避のためのエネルギーが残っていない。

 9Xはエンジンへと吸い込まれていった。


 橙色と黒煙に彩られたミサイルの爆発が、F-22のノズル、水平・垂直尾翼を吹き飛ばす。

 機体をコントロールする術と推力を失った機体は錐揉み状態へ陥り、程なくしてコクピットから射出座席が飛び出した。


 操る者の居なくなった機体は、そのまま地面へと激しく激突した。




 戦闘を終え、巡航推力に戻し水平飛行へと移行した私の横に、ブレイクして離れていたジャックとサイクロプス1が並ぶ。


『……やりやがったな、マジで』


 ジャックが言う。だがそう言われても、まだ実感が沸かない。ただただ、緊張感から来る胸の高なりが抑えられない。


「――二人共、本当にありがとう」


 とりあえず口をついて出たのは、有利な状況を創り出してくれた二人への感謝だった。


『いやぁ、最高だったよお二人さん。最後の指示が来た時はびっくりしたけど、そっちの作戦がうまくいったみたいだね』

 

 ふと計器に目を落とすと、一つの警告ランプが点灯していた。……フューエルビンゴ、ガス欠だ。

 増槽無しで来て、ドッグファイト中は殆どアフターバーナーを点火し続けていた為だろう。


「ジャック、私燃料切れで落ちるかも」


 そう言うと、ははっという笑い声が聞こえた。残燃料管理も出来ないのか、と言われたようで少し恥ずかしさを覚える。

 しかし、笑われたと思った私の予想は、外れていたようだった。


『なーに言ってんだ、あそこに一杯あるじゃねーか』


 キャノピー越しにハンドサインで下を指さすジャック。目を落とすと、そこには先程まで敵の基地であった滑走路が無傷で横たわっていた。





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