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第46話 SAM

「兵装の交換と補充が終わった機体から、順に離陸申請をして」


 離陸手順に沿ってコクピット内の機器を起動しながら、他のメンバーへ告げる。


『こちらフェザー3、先に上がらせて貰います』


「了解。その次はベルかしら」


【Yes,Fiona.】


 MFDに割り込み表示を掛けてくるベル。

 そこに目を落としたタイミングで、マリーからの通信が飛んできた。


『こちらマリーよ。さっきメールしたけど、今回の報告は明日の作戦会議時で良いわ。トマホークは2430にグラジオラスから発射。着弾までラグがあるから、そこはグラジオラスと連携してね』


『こちらグラジオラス、以降の通信はこの周波数で頼む。頑張れよ、フェザー隊!』


 聞き覚えのある名前が出てくると、その本人から直接連絡が入った。

 スロキス島攻略戦時に雷撃を受け、電源喪失まで行ってしまったイージス艦。グラジオラス。


「グラジオラス、復活したのね。あの状態から良く……」


『お陰様で。あの後、あれ以上攻撃されずにドックまで曳航出来たんだ。復旧費用は掛かったが、買い直すよりは全然安かったよ』


「それは本当に良かったわ。今回はよろしくね」


『ああ、こちらこそだ』


『フェザー4、クリアードフォーテイクオフ』

【Roger.】


 管制塔からの通信と共に、ベルの機体が滑走を始めた。


『先、上がらせて貰うぜ』


 機首を上げたベルに見とれていると、ジャックはそう言いながらタキシングを開始する。


「了解。各機、上がったらウェイポイント3、エンジェル3で合流」


『『了解』』

【Roger.】


 地平線には、太陽が沈みかけ始めていた。

 いつもと違うシチュエーションに、少し緊張が高まる。


『フェザー1、滑走路へ進入して下さい』


「了解」


 タキシングの間に、各種計器のリセットとウェイポイントの確認を行う。

 今回のルートは結構な距離になる。アニハからストンリコまでの距離とほぼ同じだが、それは直線距離で行った場合だ。道中で捕捉される危険を減らす為に、一旦ナニアオイ方面へと出た後に北西から攻撃を仕掛ける算段だ。


『フェザー1、クリアードフォーテイクオフ』


 タキシングを終えて滑走路へ進入。すぐさまバーナーを点火して離陸体勢に入る。滑走路上の灯りが視界の外へと流れていく。

 体が浮遊感に包まれてすぐ、脚を仕舞い旋回を開始。戦術マップ上に表示されている、先行する3機へと進路を向けた。




 ***




「しかしよぉ。ここの持ち場に志願したのは良いけど、くっそ暇だな」


 車両の通信機越しに、横に並ぶ同型車両である2K22 ツングースカへ乗っている相方へと愚痴る。

 高度が高い場所なので車内、そして防寒着があろうとも寒い物は寒かった。吐いた白い吐息が、車内の薄明かりに光って消える。


 ここの基地が解禁されてから、全員でその利用法が話し合われた。

 敵の基地は海岸沿いである為に攻撃部隊は艦船をメインに編成され、空の連中はここの防衛か空母による攻撃へと割り振られた。

 そして地上部隊へ行われた要求は、如何に敵の接近を防ぐかという点だった。その答えの1つが、山頂への対空車両の配備だ。


『ここまでこれを持ってくるのにメッチャ苦労したのにな』


「ホントだぜ。何回転げ落ちそうになったかわかんねえってのに」


 標高3,000mの山の上まで通じる道路なんて無い。なので道無き道を開拓し、傾斜が緩やかになっている所を探して登る。

 まるでクロカンの様であり少しは楽しかったのだが、何度もやりたいとは思えない物だった。


『あれ以来、全く来ないな。ま、そうそう来られても困るけど』


 同時に俺達は笑った。


 地上での戦いは、なかなか稼ぎが無い。というより、正面からのぶつかり合いが多いので損耗率がどうしても高くなるのだ。このツングースカは、一生懸命に敵車両の撃破を重視して戦って金を貯めた、努力の結晶だった。

 このゲームでは、他種の戦場に移行するのは簡単な事ではない。アカウントを作り直したほうが良いとまで言われる程だ。

 だが、対空兵装は航空機購入への近道となる。このツングースカでもいいし、携帯短SAMでもいい。それで数機を落とす事が出来れば対空ボーナスが付いて、初期機体に毛の生えたレベルの物は買える様になるのだ。

 この戦いが終わったら、俺も念願のパイロットになれるだろう。


「やっぱ2人で揃えたのは正解だったな。機関砲とミサイルが同時に使えなくたって、お互いをカバー出来るし」


『遠くのはミサイル、近付いたら機関砲ってのを2両でやったら、敵さんも近付くのは難しいだろうな』


 先程の戦いを振り返る。

 残念ながら命中弾は無かったが、敵は間違いなくビビって逃げていった。レーダーに反応が無くなったので、もしかしたら操縦をミスって墜落した可能性もある。


 その時、レーダーに反応があった。


『方位150から接近する飛行物体。なんだ、小さいな……巡航ミサイルか?』


「今度は遠距離から攻めてきたか。ま、余裕だろ」


 索敵レーダーと追尾レーダーを起動。表示された光点は全部で4つだった。


『よし、射程距離に入った。取り分は1人2本な』


「早い者勝ちだぜ」


 2両は同時に対空ミサイルを発射した。モニターの中心には追尾レーダーが捉えた画像が表示されている。濃淡の緑色で映し出されたそれは、葉巻型の胴体から生えた2本の翼。トマホークだろうか。

 カメラはモニター中心にピタリとそれを捉える。

 暫くの後、SAMがそれに衝突。SAMの移動していたベクトル方向に爆発炎の光が伸びた。


「よし、命中。次はどこだ……」


『こっちもだ。オッケー、ロックしたぜ』


 同時に発射を告げると、先程同様にミサイルは飛翔を始める。ロケットモーターの噴射音が遠のいていく。

 俺はその中に、違う音が混ざっている事に気が付いた。


「……なぁ、なんか聞こえないか」


 微かに響いてくる、空気を切り裂く音。


『自分のエンジン音でよく分からんな……』


 どうせ放って置いても当たるだろう。そう思って車内から飛び出し、音のする方向へ暗視機能の付いた双眼鏡を構える。

 どこだ、どこだ……。


「山頂よりゼウス。今、飛んでる味方機っているか?」


『こちらゼウスコントロール。今は居ないはずだが』


 ゼウスからの回答と同時に、視認範囲ぎりぎりの距離にある山陰から現れる機影。

 いた、4機! 


「おい、今すぐツングースカを崖際に出せ!」


『お、おう!?』


 エンジン音が高鳴り、金属のキャタピラが擦れ合う音が響く。


「2時方向、下だ!」


『待ってくれ、俯角が取れ……うおお!』


 彼のツングースカは崖に近付きすぎ、足下を取られた。急いで後退を掛けて事なきを得たが、その間にも敵機の発する音は大きくなってきていた。

 自分も急いで同型の車両へと乗り込む。すぐさま対空レーダーを起動するが、足下へ迫る敵機を捉える事が出来ない。


「まだ下なのかっ……!」


 そう呟くと、索敵レーダーにフリップが表示された。


『高度を上げたぞ! 上だ!』


 もうミサイルは間に合わない。

 レーダーと連動した照準システムによって、敵機がモニター上に表示される。


「当たれえぇ!!」


 機関砲発射用のトリガーを引き絞ると、けたたましい発砲音が響き渡って空気を震わせた。

 モニター上に夥しい数の曳航弾が映り、こちらへ正対する敵機へ吸い込まれていく……が。


「なっ!?」


 その瞬間に敵機が大きく、そして鋭いバレルロールをした。こちらの放った砲弾はその円の中心を見事に捉える。

 そして、敵機の翼下にあるポッドか明るく煌めいた。




 そこまでが、リスポーンする前の俺の記憶だ。




 ***




 翌日、ログイン後にフェザー隊メンバーが全員集まるのを待ってからマリーゴールドのブリーフィングルームへと向かった。

 一応ノックして部屋に入ると丁度、偵察した内容の報告が終わった所だった。

 以前の時と同じように、ブリーフィングルームは人で溢れかえっている。ここに所属する飛行隊の殆どが出席しているのだろう。


「――以上が敵陣の全貌です。これから、ここをどうやって攻めようか話したいんだけど……」


 こちらを振り向いて、マリーは


「その前に、戦果の報告ね。皆に先だって、彼女達は山頂のSAMへ攻撃を仕掛けてくれていたの」


 手を差し出して、彼女はこちらの発言を促した。


「……結果から言うと、山頂のSAMは壊滅したわ」


 おお……と、周囲から声が上がった。


「流石は羽根付きだぜ……」

「……これで邪魔者は居なくなった訳か」


 戦果に沸き立つ参加者達に、


「いいえ、そう簡単には行かないと思うわ」


 と、マリーは言い放つ。


「フィオナちゃん、あそこにあったのってやっぱり車両だった?」


 そう聞いてくるので、頷きで返した。見た限りでは、あそこにあったのは対空車両とレーダー車両だったからだ。


「そう……それなら、再度設置される可能性も高いわね」


 例えば山頂にVLSが埋め込まれているとかであれば、もっと話は簡単だっただろう。一度破壊してしまえば、復旧は難しいからだ。

 しかし対空車両なら、資金さえあれば再配備は容易だ。尤も、地形的に考えると時間は掛かりそうなのだが……。


「だから、このチャンスを生かす為に……」


「全員で全力攻撃、だろ?」

「待ってました!」

「腕が鳴るぜぇ! もうエンジンは暖めてあんだ」

「気が早いな……ま、実は俺もなんだがな」


 今度はマリーの言葉を遮って、皆の言葉が溢れ出す。

 その様子にやれやれと手を広げるマリーに、私は再度の頷きで返した。


「作戦はこうよ」


 マリーは改めてその姿勢を正した。


「これより各地の地上部隊は進軍を開始、サリラ平原で前線を構築します。艦隊は殆どがアステリオスの防衛に回るから、制空権の迅速な確保と地上への支援が私達の使命よ。地上の彼らを、無事に麓まで送り届ける。これが達成出来そうにない場合は1度ストンリコまで撤退し、体制を立て直します。既にアニハの部隊には通達済みだから、そちらとの連携も忘れないで」


 場の全員が、その言葉に頷いた。

 皆、覚悟が決まっているという目をしている。


「作戦開始は1時間後のGMT 2400。各自、用意を始めて。解散!」


 そしてブリーフィングルームは、男達の雄叫びに支配された。

 彼等は思い思いに腹の底から空気を捻り出し、勢いよく立ち上がり、ドア近くに居た私達を押し退けて自らの機体へと向かっていった。


 喧騒が去ると、ブリーフィングルームに残されたのは私達とマリーの4人だけになってしまった。

 なお、ベルのボールは人波に蹴飛ばされて廊下に転がっている。


「……まるで嵐ね」


 呟いた私に、マリーが話しかけてきた。


「ここからまた厳しい戦いになるだろうけど、がんばってね」


 私の肩に手を置いて、激励の言葉を掛ける彼女に


「はい、行ってきます」


 その一言だけを私は告げ、私達はハンガーへと向かったのだった。




 ***




 ハンガーは、皆が一斉に機体を出し始めた事で大混雑の様相だ。

 その片隅で、私達3人はお互いに向き合った。


「いよいよ始まるわね」


「ああ」


「ですね」


 それぞれの目を見る。

 言葉は短いが、それは口ほどに物を語っていた。ジャックの目は闘志に満ちており、ナオは爛々と輝いている。


「私からあまり言う事はないけど……」


 一度言葉を飲み込み、


「またここへ、全員で戻りましょう」


 ジャックは腕まくりをしながら、


「さぁ、稼ぎ時だぜ!」


 ナオは一生懸命に力こぶを作りながら、


「やっちゃりますよ!」


 よし、行こう。


「全員、対空兵装を装備。狩りの時間よ!」


 それぞれが自分流に気合いを入れ、自分の機体へと乗り込んだ。







【あの、私のプローブを誰か拾ってくれないでしょうか】





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