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第36話 スロキス島攻略戦4

 空母マリーゴールドのハンガー。そこでIRIS-TとASRAAMが目の前のグリペンへと装着されていくのを、腕組みしながら見つめる。

 IRIS-Tは、AIM-9Xサイドワインダーと似たような性能の短距離赤外線誘導のミサイルだ。一方のASRAAMは同様に赤外線誘導だが、機動性を重視した前者とは違い、射程の長さを重視した設計がなされているミサイルである。


「アスラームか。やっぱ、お前もそうだと思うか」


 私の装備を見て、ジャックが言う。


「ええ。多分いるわよ、F-35」


「ハリアーⅡって可能性もあるがな。あれならハープーンが撃てる」


「それも混ざっているかもね。でも、ロックしにくい対艦ミサイルって言ったら、間違いなくF-35よ」


 その根拠はF-35の内部兵装庫に唯一入れる事の出来る、JSMと言われるノルウェー製の対艦ミサイルである。これがステルス性能を持っているのだ。


「どっちにも対処出来るように、俺とナオでアムラーム。お前らでアスラームを持ってけばいいか」


「オッケー、そうしましょ」


「よくわかんないけどわかりましたー」


 各々が、準備の終わった自分の機体に乗り込む。激しい機動はしていないので、まだその耐久ゲージには十分な余裕がある。

 燃料と弾薬の補給が行われた機体達は、その出撃の時を今か今かと待っているようだ。


【お話は終わりましたか。待ちくたびれたのですが】


 コクピットへのステップに足を掛けた私に、ベルから声が掛かった。

 AIが待ちくたびれる……いや、まあ……いいか。


「そう、ごめんね。ああいう時、そっちに会話内容が伝わらないのが不便ね」


 コクピットへ潜り込んだ後、ベルへ謝罪の言葉を掛けると、


【問題ありません。こちらから話しかける事は出来ませんが、艦内でのオープンチャットの内容はログから取得しています】


 そんな事を言い出した。

 説明の手間は省けたが、逆に言うと個別の回線かチャンネルを使わないと内緒話は出来ないと言う事か。


「……あなた、便利ね」


【でしょう?】


 と言いながら、ベルは左右のカナードを交互に上げ下げする。誉められたと思って、嬉しいのだろうか?


「それじゃ聞いた通り、私達はIRミサイルメインで行くから。増漕の投棄タイミングは任せるわ」


【了解しました】


 今回は念の為に、4機全てが追加の増漕を装備している。これはSTOVL機の燃料消費の多さを考えて、少しでも優位に立つ為の作戦だ。


『こちらフェザー2、上げてくれ』

『フェザー3もお願いしますー』


 ハンガー端のエレベーターで、先に準備の出来た2機がデッキ上へと運ばれていった。




 ***




 本日、2回目の出撃。

 ジャック、ナオ、ベルの順に機体は空へと運ばれ、最後に私がカタパルト上に立った。

 幾度と繰り返した手順によって、私も同様に艦上を離れる。


「フェザー1より各機。高度500、方位090へ。さっきと同じように行くから、高度警報は切っちゃって」


 了解。という声と、MFDへの表示の後に3機は集まり、渡り鳥のようにフィンガーチップの隊形を組んだ。


 既に西にあるネテアへとマリーゴールドは進路を向けている。私達はその進行方向と反対に舵を取り、前回同様の低空進入を試みる。

 現在、マリーゴールドの護衛にはスロキス島の左翼に展開していたアキレアとグロリオサが付いており、被弾したグラジオラスには、ガイラルディアが護衛と救助に付いている。グラジオラスは既に戦闘能力を奪われてしまっているが、艦内にはまだNPCの搭乗員が残っているらしい。


 なぜNPCを救出するのかと言うと、戦闘艦においてはNPC搭乗員の練度という要素が重要な位置を占めるからだ。

 当然の事ながら、イージスやフリゲート、空母という巨大な構造物を、プレイヤーが1人で運用する事は物理的に不可能だ。それをアシストする為に多数のNPCが乗り込んでいるのだが、彼らには各作業の練度ステータスが設定されており、同じNPCを使い続けるとその能力にボーナス値が与えられる。

 船乗り達にとっては、NPCの強さが自分の強さと言っても良いだろう。つまり、彼らを失うという事は戦力が減る事と言っても、過言ではないのだ。


 と、ここまではマリーからの受け売りなのだが、そういうのを抜きにしても孤立した味方を放っておく事は誰だって気分が良くない。


『まだガイラルディアに、攻撃は飛んできてるんだよな?』


「ええ、そうらしいわ」


『ならデータリンクで、おおよその発射点を送って貰おうぜ。一応の目印になるだろ』


「なるほどね。ガイラルディア、こちらフェザー1。聞こえますか」


 回線を切り替えて呼び掛ける。少しの後に応答があった。


『こちらガイラルディア、マリーさんから連絡のあった隊だな。こっちは残弾が少なくなってきて、あんまり状況が宜しくないぜ』


「了解、なるべく急ぎます。あの、目標の大体の発射位置ってわかりますか?」


『ああ、把握している』


「それを目標にして索敵するので、データリンクで指示をお願いします」


『了解した。CIC、聞いていたか? リンク16で送ってやってくれ』


 リンク16とは、NATO軍標準のネットワークシステムの名称だ。すぐにコクピット中央下部、スロキス島の地図が表示されたMFD上に、その位置が電子音と共に優先目標Aとして表示された。


「位置、確認しました。1カ所だけ?」


『そうなんだ。そこから断続的に飛んでくるんだが、何せ山の裏側でな。艦砲射撃しようにも手が出ない。トマホークは撃ってみたが、効果無かったな』


「わかりました、指示位置を優先して索敵します」


『とりあえずこっちは救助が終わり次第、この海域を離脱する。上空の支援はあまり期待しないでくれ、手一杯なんだ』


「了解。フェザー各機、電子的沈黙を保ったまま低空で突っ込むわよ。ジャックは島の北部を、ナオは南部をお願い」


『了解です!』

『了解、お前はどうするんだ?』


「私はベルと一緒に、指示された中央部へ行くわ」


【Roger.】


 既に、目の前には島の海岸線が広がって見えてきた。右手には小さな、しかし現在の飛行高度並に高い半島部が近付いてくる。

 この高さになると、波頭が砕けるのもよく見える。海岸線は砂浜ではなく岩場であった。上陸作戦を行うには、ここは全く適していなさそうだ。


「各機、マスターアームオン。散開!」


 右後ろに位置取っていた2機がブレイクを開始する。そのままジャックとナオは、左右へと高度を保ったまま離れていく。流石にこの低高度では正面から顔を離したくないので、その様子をミラー越しに見送った。


 高度を更に100程下げる。

 海岸線に小さい住宅地が見えた。眼前に迫ったそれはあっという間に自機の下を通り過ぎ、海は陸地へと視界の支配率を渡した。

 自分が目指す先はスロキス島で一番、陸地がくびれている場所だ。優先目標として表示されているポイントを右手に見ながら5キロ程しかない陸地を通り過ぎ、再び海上に出る。


『こちらフェザー3、ロックされました!』


『落ち着け。多分対艦ミサイル載せてるから、搭載量を対空に割く余裕はない筈だ。そのまま距離を取れ!』


「援護に向かうわ。ジャックはそのまま、そこの索敵をお願い」


『了解した』


「ベル、右へブレイク」


【Roger.】


 すぐにブレイクターン。MFD上の彼女の位置へ進路を向けるが。


『あれ? レーダーでロック出来ますね』


「攻撃出来るなら、やっちゃっていいわよ」


『わかりました。FOX3!』


 山間に少し高度を取ったナオの機体が見え、その瞬間に白煙が伸び始めた。レーダーに映ってるのなら、射線は通っているだろう。アムラームならほぼ必中距離だ。

 中距離用ミサイルといっても、至近距離で使えないと言う事はない。むしろ、追尾に使えるエネルギーが多いのでその命中率は高くなる。至近距離で大変なのはレーダーによる捕捉なのだが、敵を見つけられている現状であればそれは問題無い。


『あ、当たりました。1機撃墜!』


「ナオ、グッキル! 私はそのまま海岸線沿いにそちらに合流するわ」


『了解ですー……きゃあ!』


 金属がぶつかり合う音が無線に入り、ナオの悲鳴が上がった。


「どうしたの!?」


『被弾しました! どこからっ!? くっ、姿勢が……』

『ナオ、大丈夫か!? くっそ!』


 ナオの声の後ろで、様々な警告音声が聞こえる。聞き取れたのはレーダー警報、エンジン出火、燃料漏れ……。


「ナオ、武装を全部捨てて身軽にして! 飛べそうならそのまま帰艦!」


『なんとか消火出来ましたけど、出力がもうだめそうです! 高度が保てません』


「……了解。必ず、迎えにくるから」


『お願いします、脱出します!』


 黒煙を吐き出しながら墜ちていく前方の機体。そこから上方に噴煙が出るのが少しだけ見え、そのすぐ後にパラシュートが開くのが見えた。

 すぐにアスラームのシーカーを起動。少しのラグの後、ロックサイトがHUDに現れる。


 そしてその直後、ロックサイトからパラシュートへ向かって曳航弾が延びるのが見えた。


 脱出した人間に対して銃を向ける行為は、別に規約で禁止されてもいないしマナー違反でもない。しかし、戦闘機に対して向ける口径の機関砲が人間に向けられるとどうなるか。

 現実の戦争では、パイロットを殺す事は機体を破壊する事より効果があると言われている。だがこのゲームでは、それはただのサディズムでしかない。


「……ふざけるなぁ!」


 その行為は私の怒りの琴線に触れ、2本のアスラームに火を付けた。

 ロックサイトは大きく移動していないので、ホバリング中だったのだろう。ミサイル警報が出ても、そこからの回避行動はもう不可能だ。

 いくつかの火球がそこから射出されるが、それに目もくれずミサイルはサイトの中心へと吸い込まれていった。

 2回の爆炎が上がり、敵機は爆散した。


 すぐにパラシュートへと目を向ける。微かに動くその主の影を見て、少しだけ安堵した。


『フィー、やったか? すぐに合流するぞ!』


「……お願い、そうして。まだ敵はいるわ」


 RWRに警報が出る。

 もうこちらの位置はばれてしまった。スロットルを押し込み、右へブレイク。手近にある谷へと向かう。

 中央のMFDへ目を落として位置を確認すると、そこは最初の出撃で通った谷だった。

 レーダー警報はまだ鳴り続いている。


「ジャック、そっちに誘い込むわ! 前回通った、2回目の谷で合流で!」


『おう、わかった!』


「ベル、先行して谷に!」


【Roger.】


 開けた市街地上空から谷に機体が入り、左右に山が迫る。

 前回同様に800ftでの進入だが、アフターバーナーを全開にしている今、速度は前回の倍近い。ラダーでの回避は間に合わない為、大きく機体を傾けながらその隙間を走る。それは前を行くベルも同様で、右へ左へとロールさせながら飛んでいた。

 地面でレーダー波が遮られるのだろう、警報の電子音が断続的に鳴る。その間隙を縫って、ミサイル警報が発せられた。


【Flare. Flare. Flare.】


 左に見える山を回り込みながら、フレアを射出。自機が上手く山陰に入ったようであり、後方で爆発音が聞こえる。


 そして2射目を知らせる警報。再びフレアを射出しながらの谷潜りが続けられる。

 眼前のベルが大きく右旋回をし、それに続いて同様に操縦桿を引き終わる。すると谷の終わりが見えると同時にミサイル警報が止まった。

 そして、正面からこちらに突っ込んでくる機影が1つ。


『待たせたな! 捕捉、FOX2!』


 左手、至近距離をグレーの機体が超高速で通り過ぎる。

 ジャックはすれ違い様にミサイルを発射。その行方をコクピットから上半身を乗り出す勢いで見る。


 谷の出口で爆発が起こり、すれ違った機体は谷に入らずに高度を上げた。


『うっしゃ、ざまあみ……ぬあぁ!』


 谷出口の爆発が収まると同時に、そこから現れた白煙。それは上昇で速度を失ったジャックに向かって延びていく。

 ジャックはフレアを撒きながら反転して降下の体勢に入るが、その機体の腹部にミサイルが食い付いた。


「ジャック!」


 被弾した機体は制御を失い、錐揉みしながら山間部へと墜ちていった。

 先程同様、少しの後にパラシュートが開く。


 ジャックまで撃墜された。

 感傷に耽る間も無く、再び機体は山間へと入っていく。開けた場所を通過したので、後方の敵から再度レーダー波が飛んでくる。


 その時。


【Limiter disable.Get FCS control.Set Performance Group A.】


 ベルからの通信が電子音と共に入った。


「ベル!?」


 眼前を飛ぶ機体から、2本のミサイルと増漕が投棄される。その直後、激しいベイパーと共に、ベルは通常ではあり得ない角度で上昇を始めた。

 数秒でループの頂点に達したベルは、それでも谷より低い高度を保っていた。

 そして、機体はミサイルを発射。


【Bingo.】


 程なくして、ベルからの撃墜報告が上がる。

 私は呆気に取られながら、隊列を組み直すその機体を見続けていた。




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