第34話 スロキス島攻略戦2
『こちらマリーゴールド。左翼のグループチャーリーはアキレア、グロリオサに。右翼のグループブラボーはグラジオラス、ガイラルディアの護衛を。両隊、マスターアームオン』
『サイクロプス了解。各機、イージスが居るからって、索敵を怠るなよ』
『バンシー了解。まぁ、フェザー隊がランウェイを潰したから、当分は大丈夫だろ。今の内に制空権を取るぞ!』
マリーから、既に艦隊の護衛に就いているヒューとダスティ達へ指示が飛ぶ。
アキレア、グロリオサ、グラジオラス、そしてガイラルディア。これらはどれもアーレイバーク級のイージス艦だ。どこからかき集めてきたのか分からないが、彼女の事だからそのどれもが信頼出来る物と考えて問題は無いだろう。
ふた手に分かれた航跡を下に見る。
艦隊は既にスロキス島の1/3程まで北上している。各イージス達の上空、数十と見える護衛機の編隊を後目に、私達は一旦スロキス島を後にした。
***
『フェザー隊、着艦を許可します』
マリーゴールドの周回コースに入ると、管制官からの着艦許可と同時に各艦から報告が上がり始めた。
『こちらアキレア、SPYレーダーに反応だ。データリンクで全部隊に共有するぞ』
『グロリオサ、了解。こちらでも確認した。……敵機からのレーダー照射だ。ロックされている』
『グラジオラスも確認した。敵機のミサイル発射を確認。弾はいくらでもあるんだ、ケチんなよ!』
『ガイラルディア、了解。データリンク確認……。よし!』
『ナンバー0708から0745まで。各艦、SM-2 サルボー!』
『『『サルボー!』』』
中央のMFDは周辺の地図が映し出されている。南北に長いスロキス島の周辺に、イージスからデータリンクで共有された脅威の情報が蠢きだした。
数字が割り振られてはいるが、その末尾の数が何なのか分からないほどだ。
着陸許可は既に出ているが、その手を少し休めて艦隊の方向を見る。
アキレアの掛け声と同時に、無数の白煙が一斉に上がった。その煙の群れは対艦ミサイルを迎撃する物、それを発射した母機を狙う物の2つに分かれてそれぞれ高度を上げていく。
生花の様に、スタンダードミサイルの白煙が延びる。
それらはまず艦隊近くに迫る対艦ミサイルに着弾し始め、その黒煙が空を覆い始めた。そのすぐ後には、高空にいた母機達を撃墜し始め、ついには何十もの爆炎が空を埋め尽くしてしまった。
『こりゃ……すげえや』
『圧倒的ですね……』
それぞれ感想を口にするジャックとナオ。自分も何か言いたい所ではあるのだが、呆気に取られて言葉が出てこなかった。
イージスシステムが同時に目標を追尾出来る上限数は軍事機密扱いであり、公表はされていない。ゲーム上でも公になっていない為、それがどう設定されているのかはその持ち主のみが知っている情報となる。
流石に今回はミサイルに母機と目標数も多かったので、全ては落とし切れなかった。しかし、艦への命中弾は確実に落とされているようだ。
『20機ぐらい抜けたぞ!』
『母機は航空隊に任せろ! 優先は対艦ミサイルだ!』
『グループチャーリー、エンゲージ』
『ブラボーもだ。各機、オープンファイア! 稼ぐぞ。バンシー1、FOX3!』
『敵ミサイル新たに20、トラックナンバー0756から0775!』
『全部撃ち落とせ! FOX3! FOX3!』
そこかしこで爆発が起こるが、まだ味方への被害報告はない。ゼウスから与えられた盾の名前は、伊達では無いと言う事だろうか。
さて、こちらもそろそろ降りなければ。
「フェザー4から順に着艦を」
『了解』
【Roger.】
『……おかしいわ』
今の状況に疑問を呈するその声の主は、マリーだった。
「何がですか?」
機速を落としながら、聞き返す。
『奇襲で滑走路は破壊したのよ。それなのに、あの数の航空機が正面攻撃? 今の攻撃で、イージス周辺の状況も、もう伝わってるでしょう』
『あの光景に惚けちまったが、確かにそうだ。あれはどっから出たんだ?』
『情報が漏れてて、対策されてたとか?』
マリーとジャックに疑問にナオが答える、が。
「それなら、もっと効果的な方法があるんじゃない?」
もし事前に漏れてしまっていたとしたら、むしろ私達の奇襲が成功するはずがない。政治のないこのゲームで、真珠湾攻撃の様に敢えて奇襲させた事でされた側が得になる事は無いからだ。
そして、報告が入る。
『グラジオラス、艦後部に被弾!』
『グラジオラス、状況を報告して!』
『雷撃だ、水中ノイズが多すぎて気付かなかった! おい、各部被害報告、ダメコン急げ!』
ナオが着艦の体勢に入る。
『マリーより各艦、上は完全に航空部隊に任せなさい! 潜水艦の位置特定に全力!』
『『『了解!』』』
『グラジオラスよりマリーゴールド。だめだ、電源喪失。戦闘続行不可能』
『マリー、了解よ。各艦、対潜警戒を厳に!』
『こちらアキレア。グループチャーリーはガイラルディア護衛に向かってくれ。こっちはこっちで何とかする!』
『了解、コカトリスは僕らと一緒にここに残ってくれ。他は全員、ブラボーの指揮下に入れ!』
ジャックも着艦の体勢に入り、次の周回で自分もマリーゴールド後方へと向かうつもりだ。
『……この様子だと、潜水艦と空母は居るわね』
「ですね」
空母のILSを捉え、ギアダウン。フラップと着艦フックも下ろす。
もう分かっている、次にマリーが何を言うかは。
だから彼女に言われる前に、今度は私から言ってやった。
「それじゃあ、ちょっと空母を叩きに行ってきますね」
その言葉と同時に、私のグリペンは3番ワイヤーを引っかけた。
***
『フェザー1、いつでもどうぞ』
「了解、発艦します。以後、通信は隊内とマリーゴールドに限定」
管制との短いやり取りの後、再び私は空に舞い上がる。他のメンバーは、既に空に上がっていた。
兵装交換から燃料の補充、全ての作業を含めてもまだ10分も経っていない。グリペンの取り回しの良さが、最高に発揮されている。
強烈な加速G。そしてふわりとした浮遊感を感じた後、高度を上げていく。
「各機、エンジェル5で合流」
『『了解』』
【Roger.】
『で、とりあえず対艦ミサイル担いだけどよ。どうするつもりなんだ?』
先程の補給にて、ジャックとナオにはそれぞれRbs15Fを2つ、残りのパイロンにアムラームを2つ装備させた。一方の私とベルは、ミーティア4本と完全に対空装備だ。
「簡単よ、あちらと同じ事をするの。私とベルでひっかき回してる内に、ジャックとナオで撃沈する」
『簡単に言うなぁ……まだどんだけ敵が出てくるか分からないって言うのによ』
私の横に、合流してきた3機が並んだ。
「2人の腕を信用して、いけると思ったんだけどね」
『そりゃ卑怯だぜ……』
『そう言われちゃうと、頑張るしか無いですね!』
「2人はとにかく、見つからない事を最優先でお願い。もし発見されたら、ミサイルは捨てて帰投していいわ。チャンスは幾らでも作るから」
『あいよ。いくぜ、ナオ!』
『わかりました!』
右翼側の2機がループの体勢に入り、急上昇していく。
「2人はそのまま、私達の後方250kmを追従でよろしく」
『『了解!』』
さて、索敵の為のルート設定だ。現在地はスロキス島の南、マリーゴールドからまだそうは離れていない。
MFDをNAVモードにし、島の南から反時計回りに動くようにウェイポイントを設定していく。終了後、データリンクで各機に送信。
「ルートは送った通り。ジャック達は高度1,000ftを維持、私達は目視も考えて10,000ftへ上がるわ」
『『了解』』
【Roger.】
後方に2機のグリペンを見ながら、高度を上げていく。時間と共に空の色が薄くなり、地平線が広く見える。
レーダーは常に動作させ、敵に自分を見つけさせるようにし向けている。進行方向はレーダー、側面は目視による索敵をしながら、設定したウェイポイントを消化していく。
3つ目のウェイポイントを消化し次へ向けて方向転換をした時、レーダーに反応が現れた。
【Rader contact,IFF no responce.】
「こちらも確認したわ。ジャック達は方位030へ回頭、敵のレーダーを迂回して。空母を見つけたら場所を送るから」
『了解、頼んだぜ。ナオ、付いてこい!』
『了解です!』
レーダーに映る影は3つ、どれも航空機だ。敵空母の護衛に回っている機だろう。
と言う事は、付近に空母が居る可能性は高い。
「ベル。バーナーオン、そのまま直進。中距離AAMの使用は、他の目標群を捉えるまで禁止」
【Roger.】
隊列を離れ、ベルが先行し始める。それに対して私はミーティアのパイロンを選択して、敵機を引き続きトラッキングする。
レーダー上では、敵機群とベルの位置がどんどん近付くがまだこちらからはアクションを起こさない。
【Feather 4,locked.】
「了解。ベル、180°回頭! FOX3!」
ベルがロックされたのを確認してから、ミーティアに点火。3つの敵影に対して、順に1つずつ排煙が向かっていく。
同時に、敵機がベルに対してミサイルを発射したのをレーダー上で確認した。
「ベル、進路そのまま。ECM開始、チャフのタイミングは任せたわ」
【Roger,carry out ECM.】
ベルは既に進路変更を終えているので、このままならミサイルは距離を取られた事で運動エネルギーを失う。失速したミサイルがベルに当たる事はないだろう。
レーダーを見ていると予想通り、ベルの移動速度と比べて敵ミサイルの接近速度が鈍ってきた。
「ベル、再度敵機へ向けて回頭。レーダーで索敵して、他の敵か空母が居たら報告して。優先攻撃目標は撃ち漏らした敵に設定」
もうすぐ、私の放ったミーティアが着弾する。ベルに引っ張られた敵機達は回避か攻撃かの判断を迫られ、攻撃を選択した。つまり、回避機動がベルに比べて遅くなったと言う事だ。
ミーティアが着弾する。2発が命中し、1つは目標を外れて飛翔を続けた。
【Feather 4,FOX3.】
そして私が撃ち漏らした1機に対して、ベルがミーティアを発射。必中距離で発射されたミーティアを表す線は、敵機のマークへと吸い込まれていく。
目標、消失。
「ベル、ナイスキル。進路そのまま、索敵を続行。こちらから合流するわ。次、敵を見つけたら空母が最優先目標よ」
アフターバーナーを入れ、レーダーに映るベルのマークを正面に捉えるように緩い左旋回をする。そのまま一旦レーダーを切り、正面に見える小さな粒へHUDのウィスキーマークを重ねた。
その時、中央と右のMFD上に1と黄色で書かれた丸い印が表示された。
【Enemy sight.】
同時に2、3、4と書かれた印が、その1の印上に重なって現れる。1が空母、2から4は艦載機が発進したのだろう。
「ベル、またまたナイス! ジャック、マップ見てる?」
『ああ、勿論。やっと仕事が回ってきたな』
『ですね。目標1へと進路変更します』
『ナオ、ぎりぎりまでレーダーは使うなよ』
『了解です!』
MFD内のジャック達は60°程、進路を変更して空母へ頭を向ける。その距離は400kmぐらいだろうか。
装備しているRbs15F Mk.3の射程は250kmなので、もう一度敵を釣らなければならないだろう。
「ベル、位置を交代するわ。私の背後から援護をお願い」
スロットルを最大まで押し込み、ベルとヘッドオンの形で入れ替わる。
横を通り過ぎていくベルの機体を横目に見ながら、私は息を整えた。