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第27話 ベリーハード

 墜ちた。


 ここはラトパ空港から西にいった所にある、ネリュキの山間部だ。

 すぐ近くで、愛機が焚き火になっている。もう延焼の危険はないのだが、無惨な姿に変わり果てたグリペンに、涙が出てきそうになる。


 なんでこんな事になったかというと、一言で言えば「調子に乗っていた」のだろう。


 離陸直後、ヒュー達の「いやあ、ベリーハードとかやったことないから、慣れてる人とやれてよかったよ」という言葉に「え?」と全員が顔を見合わせた。キャノピー越しだが、間違いなくみんなの目が合っていたのがわかる程、その言葉は動揺をもたらした。

 皆、初体験だと言うことがわかったところで、なんとかなるだろうと平静を取り戻したのだが、そこに叩きつけられたのが総数8機のSu-35だった。

 ステルス機が出る可能性も考慮して、まず目視で捉えようとしたのが仇となってしまった。レーダーとIRSTで先に探知されてしまい、あとはなすがままだったのだ。

 一応、3機程は落としたのが見えたのだが、そこで私は被弾し墜落。サイクロプス隊の面々も、全員が墜とされてしまったようだ。


 はぁ、マジでどうしよう。


 この辺の大地には高い木が生えておらず、背の低い植物か岩肌という光景が広がっている。

 右手にはGlock 17。グリペン配備国の空軍で使われているのかは知らないが、一応それっぽく合わせておこうと機体購入時からサイドアームとして忍ばせていた物だ。


 今回の出撃では、プレイヤー側でこの事を知っている人間が少ない。撃墜時に情報が管制側へ伝わったのかも知れないのだが、確実ではない。

 なのでこの後どう動けばいいか、検討が全く付かなかった。


 10分ぐらいだろうか、ぼーっと立ち尽くしていると後ろから声が掛かった。


「おい、動くな!」


 ああ、これはまずい。

 いくら自軍の領土とはいっても、ここはまだ前線だ。小規模の敵部隊が上陸している可能性は充分にある。


「……撃たないでよね」


 そう言って、右手に持つGlock 17を足下に落とす。

 両手を頭の上に置く。敵でない事を祈りながらそっと振り向くと、そこには2人の男が立っていた。


 先頭の男が、一歩踏み出して口を開く。


「所属と名前は?」


「空母マリーゴールド所属、フェザー隊1番機。フィオナよ」


「ん……ああ! 見覚えあるぜ、間違いない。覚えてないか、スリポリトで挨拶させて貰っただろ! 楽にしてくれていいよ」


 そう言われたので、落としたGlock 17を拾い上げながら思い出す。

 この畳み掛けるような口調。ああ、あの時の分隊支援火器だ。

 ラプター撃墜後に周りから質問責めにされている所に、トドメとばかりに色々と言われた記憶が蘇ってきた。


「ああ、あの時の!」


「で、そのお嬢ちゃんがこんなところで何してるのよ」


 もう一人の、AKを持った男が聞いてきた。地上戦に素人な私でも、彼の装備はすごい適当なように思える。

 その腰にぶら下がる小箱はなんだろうと見ると、掠れた文字で「たばこのはこ」と、これまた適当に書かれていた。


「ちょっと無茶な設定のラッティングをしようとしたら……ね」


「活躍は色々聞いてるが、フェザー隊の隊長でもそういう事はあるんだな。弘法もなんとやら、か。で、これからどうするんだ?」


「基地まで戻りたいところだけど、ちょっと遠いのよね。でも、ヘリも来てくれると思えないし。あと、出来れば墜ちた仲間も探したいのよ」


 上空では、先程戦ったSu-35がまだ警戒をしながら飛んでいる。これは当分ここに残っていそうだ。そう言うとこも難易度設定に含まれていそうだし。


「仲間って全部で何人だ?」


 そう質問する隊長の横で、もう1人はタバコを吸い始めた。


「全部で4人。みんな脱出する姿は見えたわ」


「オーケー、ちょっと待ってくれ」


 そう隊長は言い残すと、タバコの人と相談を始める。ほんの数分で、その結論は出たようだった。


「よし、俺らが送ってやるよ」


「え、でも今お金があまりなくて……」


「気にするな。おまえさんは知らんかもしれんが、俺らはあんたとそう縁がない訳じゃないんだ。一時期、地上目標ばっか狙ってただろ?」


「ええ」


「あん時、たまたま俺らも地上でやり合ってたりとかな、そういう事が結構あったんだ。スリポリトん時もそうだ。だから、金はいらねえ。もちろん、おまえさんの仲間を探しながら行くつもりだ」


 ただし、と隊長は付け加える。


「俺達も今ラッティング中なんだ。どこで敵と出くわすかわからねえから、確実ではないと思ってくれ」


 そこまで言ってくれるなら、断る理由は全く無い。


「お願いして……いいかしら」


「そうこなくちゃな!」

「よろしくな」


 そうして口数LMG男、タバコ男との奇妙な共同戦線が幕を開けたのだった。




 ***




「多分だけど、私が一番海側に墜ちたと思う」


 3人は地図を広げる。作戦会議というより、状況把握の為か。


「後、それほどみんなとも離れていないんじゃないかな、と思う」


 理由は、個々に広がりきってドッグファイトに入る前に全員が墜ちたからだ。


「となると、まだ少し煙が見えてるから、まずはそっちに向かって行くか」


「それがいいな」


 私の機体からは既に煙が出ていないが、4人の物らしき煙はまだ見えている。燃料搭載量的な問題だろうか。


「距離的に……ここと、ここ、ここ、ここかね」


 地図上、現在地を示す丸の南側に隊長は次々と丸を書き込んでいく。ちなみに現在地を示す印も手書きだ。


「よし、一番近いここから行こう。で、基地から遠い順で回っていけば効率がいい」


「「了解」」


 あ、またタバコ吸ってる。

 ヘルメットを被り直しながら、AKの男はオイルライターで火を付けた。


「俺が先頭、あんたが真ん中、殿はムラキだ」

「あいさー」


 タバコ男はムラキという名前なのか。そう言えばまだ2人の名前を全く知らなかった。


「隊長の名前って何ですか?」


「ああ、すまん。いつもアルファーとかブラボーとかだから、名乗ってなかったな。俺はフジトだ」


 やっぱりみんな日本人だった。なんか少し安心感を覚える。

 その事を伝えると「ええ!?」と驚かれてしまった。ああ……やっぱり。


「それじゃ、行こうか」


 簡単な自己紹介を終えて、私達は歩き始めた。




 ***




 先程話し合った通りの陣形で歩き始めて20分程が経った頃、1つ目の目標地点に近付いてきた。

 大きな岩陰を越えると、イーグルの残骸があった。流石にもう燃えてはいない。残った尾翼には1つ目の巨人のマーキング、間違いなく彼らの物だ。

 美しかった機体は、無惨な鉄屑へと変貌してしまっていた。

 その鉄屑の傍らには、人影が1つ佇んでいる。


「マイク!」


 その声に気付いた陰は、こちらへと駆け寄ってきた。


「無事だったか!」


「そっちも大丈夫そうでよかった」


 お互いに握手をしながら再会を喜んでいると、フジトから指示が出た。


「早く移動しよう。きっとNPCもプレイヤーも、墜落に気付いているはずだからな」


 その言葉にムラキが続ける。


「とりあえず説明は後だ。武器はあるか?」


「ああ、これだけだが」


 そういってマイクは、フジトとムラキに右手に持ったM92Fを見せながらスライドを引いた。


「充分だ、さあ行こう」


 私達はすぐにその場を離れ、次の地点へと向かった。




 ***




 私の後ろにマイクが入る形で陣形を組み、進軍。

 道中でフジト達への紹介、今の経緯と状況の説明を行う。


「なるほど、どこで誰がどう関わってるかわからんのは、現実もこっちも同じだな」


 マイクの言葉に、ほんとだなと皆笑い出す。


「殆ど同時にみんな墜ちたから、状況がわかんねえんだよなぁ」


「そうね、墜ちた場所がどんなとこかわからないし、脱出の時に怪我してなきゃいいんだけど」


「だなぁ」


 4人で荒涼とした大地を歩く。少ないながらも植物は生えてはいるのだが、やはり日本と比べると殺風景だ。ここの標高が高いのかもしれない。


 それから十数分程歩いただろうか、次の墜落地点が近くなってきた。

 話題も少なくなってきており、沈黙が私達を支配し始めた頃。


 突然、1発の乾いた銃声が響き渡った。


 私達は急いで岩陰に隠れる。フジトとムラキが応戦しようとするが、マイクが2人を制止して言った。


「待ってくれ、ちょっと俺に任せてくれないか」


 そう言うマイクに、2人は不思議そうな顔を返した。

 息を大きく吸い込むマイク。


「聞こえてるなら返事しろ! ヒューの昔の彼女は!?」


 何を言い出すんだこの人は。

 そして少しの後に、返事が返ってきた。


「……とびきり不細工!」


「うっせえレオ! 俺の妹だ!」


 そういうとマイクは走っていき、近くの岩から出てきた影と熱い抱擁を……するかと思ったら、その影を力の限りにぶん殴った。

 ああ、こんなファンキーな連中だとは、夢にも思ってなかった。


 岩陰から出てきたのはレオだった。

 殴られて吹き飛んだ彼はマイクに起こされ、一緒にこちらへ歩いてきた。


「すまんすまん、てっきり敵だと思っちまった」


 そういってこちらへ向き、頭を下げるレオ。


「こいつ、レオなんて名前のくせに超チキンなんだよ。ホラー映画とか全くだめでよ」


「おま、言うなよ!」


 ……ふふっ。

 自然と笑みがこぼれだしてしまい、その場は笑いに包まれたのだった。

 だがその中で、フジトだけは厳しい表情だった。


「ごめんね、フジトさん。騒がしい連中で」


「ああ、いや、そうじゃないんだ」


 そう言いながらフジトは地図を広げる。

 書かれた丸の中でバツのついていない2つの丸だけが、そこには残っているのだが。


「残りの丸の距離、近いんだな」


 誰かがぽつりと言った。現在地からという意味ではなく、丸同士の距離が近いのだ。


「サイクロプスの2人、陸戦の経験は?」


 フジトの言葉に、レオとマイクは首を横に振った。


「陸戦のラッティングの場合、よくあるパターンは大体2つなんだ。ルート上に満遍なく敵が出てくるパターンと……最後にまとまって出るパターン」


「今まで、敵とは戦ってないわね……」


「ああ、そう言う事だ。おまけにこの2つの墜落地点の真ん中には、廃墟がある。こういう場所に敵はスポーンしやすい。急いだ方がいいな」


 フジトが地図を仕舞い終わると、私達は少し走り気味に次の地点へ向かった。




 ***




 墜落地点へ向かう道中、フジトへ聞いてみた。


「ねえ、先に間にある廃墟へ向かうってのはどう?」


「それだとハズした時のダメージが大きい。そこから隊を分割出来るほどの戦力はないからな。まず一番近い所へ行って、何もなかったら急いで建物を経由して最後の所へ行こう」


 全員がそれに頷いた。


「あー廃墟かぁ……俺、ちょっと」


 そんな事を言い出したレオを無視して、全員は進み始めた。

 このフジトという男、頭の回転が早い。一緒にいるとまるで、ジャックの横を飛んでいるような気分になる。陸戦側に偏見があったわけではないが、どの世界にも出来る男というのはいるものだと思う。


 レオと合流してまた数十分後、目標の墜落地点に付いたのだが既にそこには人影はなかった。近くには射出座席が転がっており、サバイバルキットが外されている。

 座席には血痕が付いていた。

 キャノピーか何かで怪我をしたのだろうか。量はそんなに多くはないが、それは例の廃墟方向へと延びていた。脱出時に空から見つけて、そこに逃げようと考えたのかもしれない。


「すぐに廃墟へ向かおう」


 フジトの言葉で5人は走り出した。





ああ、ジャン(ry

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