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第22話 ラトパ防空戦2

『敵、発見しました! 数は……3機です! レーダー範囲、正面ギリギリに映ってます』


 ナオからの報告が飛ぶ。F-14Dで探知範囲ギリギリなら、まだ200km近くは離れているはずだ。


「了解。ナオはそのまま針路を維持して、距離が160kmぐらいになったら……ごめん、マイルだと86ぐらいね。そのぐらいでフェニックスを1発ずつ発射して。どれに対して撃ったか教えて貰えると助かるわ」


『了解です! フィオナさん達はどうするんですか?』


「まだ向こうは私達が1機だけだと思ってるはずだから、その間に横に回り込む。いくわよ、ジャック。方位290」


『了解。ナオ、アフターバーナーはあんまり使うなよ? 俺達は足が長くないんだからな』


『わかりました』


「フェザー隊、エンゲージ!」


 エンジン出力をミリタリーに上げ、編隊からブレイクを開始する。

 うまくナオのミサイルに釣られてくれれば、こちらから一方的に攻撃出来るだろう。ここからはナオとの連携が試される。

 視界の右後方にあったF-14Dが離れ、ゴマ粒のようになっていく。


「ナオ、敵の状況は?」


『変化なし、こちらに向かって来ています。距離は100マイルです』


「了解」


 向こうが長距離のレーダーを持っているなら、もう警戒してレーダーを作動させているはずだ。そうしたらこちらも補足されてしまう筈だが、まだRWRには反応がない。


『あいつが持ってくる話には、今度から気を付けようぜ』


「別に悪気があってやってる訳じゃないでしょう」


 苦笑いを浮かべながら返す。


『FOX3! FOX3! 編隊の、真ん中と右のに向けて発射しました!』


「了解。敵が回避行動に入ったら、私達で残りのに襲いかかるわ。いい、ジャック?」


『オーケー!』


「ナオは、ミサイルが終端誘導に入ったら回避行動に入って」 


『わかりました!』


 さぁ、相手はどう出るか……。

 戦い慣れている人であれば、長射程のミサイルをあまり進路を変えずに避ける事も出来るだろう。逆に言って、警報に驚いてすぐ進路を変えるならそれはnoob、もしくは避ける事が出来ない大型機という可能性も浮かぶ。

 着弾までの十数秒が長く感じる。


『あれ、一瞬何か映ったような……』


 ナオからそんな声が出る。


「どの辺に映ったかわかる?」


『敵機より少し奥でした。んー、レーダーレンジ弄っても何も無いなぁ……』


『チャフのノイズかぁ?』


「……気になるけど、とりあえずは目の前の事に集中しましょ」


『もうすぐミサイル着弾します。3……2……1……。2機、消えました。もう1機はそのまま。方位10、80マイル』


 よしよし、久しぶりにフェニックスがいい仕事をしてくれた。現実にこれを使っていたパイロット達がどう思っていたかは分からないが、私にとっては【当たれば儲けモン】ぐらいの扱いだ。2発も当たってくれたなら、明日は雨が降るかもしれない。


「ナオ、ナイスキル!」


『オーケー、残りは俺が叩く。今の内にフィーは高度を取っておいてくれ。レーダーオン』


「了解、お願いね」


 後ろを飛ぶホーネットをちらと見やりアフターバーナーを点火してから操縦桿を引くと、前方に見えていた海峡が視界の下方へと移っていく。

 その少しの後、ジャックからの通信が入った。


『ロックした。FOX2!』


 アフターバーナーを使っているとはいえ高度を取るために速度を失いつつある自機の下方から、白煙が伸び始めた。既にジャックは私を追い越し、敵に近い状態となっていた。

 10秒かそこらの時間でミサイルは着弾したようで、機体下方にオレンジの光と黒煙が見えた。被弾した機体は、トンリコ湾北側の山岳地帯へと落下していく。


『着弾確認、レーダーロスト』


 相変わらず、きっちりと自分の仕事をこなす男だ。スリポリトの時もそうだった。対空兵装の少ないタイガーⅡの上空援護をしてくれた記憶が蘇る。


「お疲れ様。ナオ、レーダーに敵影は見える?」


『こっちでは何も見えませーん』


「了解、それじゃこの空域で待機ね。二人共、索敵しながらエンジェル20で合流しましょ」


『ほいよ』

『はーい』


「ふぅ……ふふっ」


 まずは損害なしで戦闘を終えた事に、安堵の溜息をつく。ミサイルも無駄なく使用出来たので、上出来と言っていいだろう。

 何より結成してからそう日が経ってない部隊が、それなりに連携して動けている事が嬉しかった。何か変な指示を出したならジャックが指摘してくれるだろうという、彼に対する変な信頼感があるから自分もこうやって指示を飛ばせているのかもしれない。

 そんな自己分析を何故かしてしまい、つい頬が緩む。


『なんだおい、気持ちわりーな』


「な、なんでもないわよ!」


 まずい、声に出ちゃってた……? ヘルメットのせいで頬を叩いて気合を入れる事は出来ないので、コクピットに座り直す事で少し気分を入れ替える。


『もしもーし、フィオナちゃん聞こえるー? マリーよー』


 回線に入ってきたのは、聞き慣れたほんわかボイスの持ち主だった。

 緊張感がいい具合に解れるが、この人はどんな時でもこの調子なんだろうか。この調子なんだろうな……空母が爆破された時だってこうだったし。


「あ、いいタイミングで。こちらフィオナ、先程会敵した敵機は、全機撃退しました」


『やるわねぇー、了解了解。所でそろそろ、そっちに増援第一陣が行くと思うけど連絡あった?』


「いえ、まだ特に無いですけど……」


 と、そこまで言った時にタイミングよくその増援からの通信が入った。


『こちらイーグルヘッド、遠路遥々やってきたぜ。ここからはこちらで管制を行うが、フィオナちゃんもマリーさんも構わないかい?』


『お願いするわねー』


「了解、お願いします」


 とても頼もしい味方の登場だった。

 AWACSの目は戦場を支配する事が出来る。制空権が確保出来ているとはお世辞にも言えないこの状況でここまで来てくれるのは、彼の度胸なのか、それほどに信頼して貰えているという事なのか、どちらかはわからないがとにかく有り難いのは確かだ。


『現在の状況確認からするが、余り時間がないから手短に……驚くなよ?』


 そんな前置きをするという事は、イーグルヘッドは何かこちらの知らない情報を把握しているのだろうか。


『まずネテアの状況だが、制圧作戦は順調だから心配しなくていい。問題はこっちのラトパ側だ』


『なんだ、増援でも来てんのか?』


『ビンゴ。俺も動きを悟られたくなくてさっきレーダーを回し始めたばっかりなんだが、北に400km程の所で敵を8機確認している。これはこれで宜しくはないんだが、それ以上にまずいのは西北西から揚陸艦隊が来ている事だ。もちろん護衛機付きでな』


『成程、スソクラア空港を狙ってんだな。でも、NPCの防衛施設が少しはあんだろ?』


 会敵前に空港へ連絡した時は、駐留部隊はいないとの情報だった。とはいえ拠点には味方NPCの地上軍やSAM施設があるはずで、それらは陸海空の連携を取らずに潰せるほどヤワな物ではない筈だ。HARM等の対レーダーミサイルで飽和攻撃した所で、基地周辺に配備されたAAAが迎撃するだろう。

 それゆえに、大規模戦以外では領地の奪い合いが起こり難いというこのゲームの特性がある。


『スソクラア空港へ確認した所、既にNPCの防衛部隊は壊滅したとの事だった』


『えー!?』

『はぁ?』


 同時に素っ頓狂な声を上げるナオとジャック。

 そこでふと思い付いた、一つの可能性。


「……もしかしてさっきの影って」


 ナオが一瞬だけ見た"影"。

 もしかしてさっき戦ったのはそれらをエスコートしてきた部隊で、あくまでも陽動だった……?


『ステルスか……ナイトホークあたりの編隊だったのかもしんねーな』


『一応、スソクラアの南にあるキリニから地上部隊が援護に向かってくれている。また、ネテア側からも部隊が来てくれるそうだ』


『それまで俺らが持てばいいんだがな』


『そこは……持たせて貰うしか無いな』


「わかったわ。イーグルヘッド、詳細な敵の戦力と距離を教えてくれない?」


『了解した。揚陸艦隊はスソクラア西北西50kmの沖。内訳はミストラル級2隻にソブレメンヌイ級1隻。その後方からMig-29と思われる機影が4。ラトパ北からはSu-27らしき機影が8だ』


『勝てるんですかね……?』


 小さな声でナオが言う。


「気圧されちゃだめよ」


 と言うものの、実に勝てる気がしない。とりあえず手近な物に対処して、サイクロプスの援軍を待つぐらいしか思い付かない。

 なんだか、今日はとりあえずと言ってばかりな気がする。本来の意味としては、現状で出来る最大限の事をやるといった物であるので悪い意味ではないのだが。


『ふと思い出したんだが、俺の記憶だとたしかソブレメンヌイのSAMは射程が30km程だ。つまり、海の上に出なけりゃ怖くはねぇ』


「詳しいのね?」


『はは、演習じゃいつも沈めてたからな』


 少し詳しく話を聞いてみたい内容であるのだが、今はそれどころではない。


「イーグルヘッド、ミグとスホーイじゃどっちが近いの?」


『スホーイだな。こっちはもう君達から200km程の距離だ』


 今までの情報を頭の中で整理する。そして出た結論は……。


「これよりフェザー隊は、空港上空でミグ部隊を迎撃。余裕があれば揚陸艦から出て来た攻撃ヘリを叩いて、出来る限りの時間稼ぎをします。ヘリにはミサイルは使わないようにして、スホーイを叩いた後に残りのミサイルでミグを牽制。後はサイクロプスが間に合うかどうかって感じかな。ごめん、今回は痛い思いを避けれそうにないわ」


 イーグルヘッドとの状況確認が終わり、隊の方針を伝えると、その間に合流した僚機が自機の横に並んだ。


『ま、やるだけやってみるしかあるめぇ』


「ありがと、ジャック」


『出来る限りの悪あがきをしましょう!』


「ええ。ナオ、後ろは任せたわ」


『揚陸艦から4機、LCACが出現。速度は……35ノット』


「フェザー各機、イーグルヘッドとそれぞれが可能なフォーマットでのデータリンクを開始。同時にECMを作動」


 自分の出した指示に倣ってMFDを操作し、データリンクとECMを開始。コクピット正面下部のMFDに表示される地図上に、敵の艦隊と航空機が表示され始める。


「方位250へ回頭、エンジェル25まで上昇しながら接近します」


 その言葉を合図に、3機は同時に旋回を開始した。





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