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第18話 実戦

『フィオナさん……RWR、でしたっけ? 何か印が出ているんですけど……』


 すぐにMFDをRWRモードに切り替えて確認すると、確かにその画面内に1つのシンボルが確認出来た。

 練習開始時、念の為にレーダーで周囲の索敵を行なっていたが、その時には味方機が映っただけだったはずだ。

 味方機……? IFFの故障……? 色々な可能性が浮かぶが、確認を取らない限りこの状況が変わることはないだろう。


「こちらフェザー隊、スロパ島南30マイル周辺で行動中の機に連絡します。こちらに所属不明機が1機向かってきていますが、確認出来ますか」


 共通チャンネルで呼び掛ける。AWACSが居ればいいのだが、出撃前に確認した飛行ルートではこの付近に居ない事が分かっていたので、レーダーで確認出来た味方機が応答してくれる事を祈るのみだ。

 すると、すぐに返答があった。


『悪い、ソロでラッティング中なんだが1機を逃した。それがそっちに向かったのかもしれない。こっちは被弾していて、対処出来ない』


「機種はわかりますか?」


『わからん。だが敵の残弾は残っているはずだ、気をつけてくれ』


「了解。ナオ、状況はわかったわね? すぐにアフターバーナーオン、方位0へ回頭して!」


『りょ、了解です!』


 こちらはほぼ非武装に近く、ドッグファイトに持ち込む前に被弾してしまう可能性が高い。

 となれば、今取れる行動は逃げの一手だろう。

 ナオのF-4Eが翼を翻したのを確認した後、自分も機体を同じ方向へ同様にブレイクを行う。視界内の空気取り入れ口付近の空気が圧縮され、ベイパーと呼ばれる水蒸気の雲が発生し始める。


「ナオ、あなたが先行して。そっちのほうが足が遅いから、後ろを付いて行くわ」


『わかりました!』


 指示通りに北へ回頭を終えたF-4Eが水平を取り戻すのに合わせて、こちらも旋回を終える。先行するナオに合わせ、アフターバーナーの点火と消火を繰り返しながら速度を調節。

 再度MFDへと目をやるが、RWRは依然としてこの機体に向けられるレーダー波を捉え続け、警告を発していた。

 現状では敵の距離も高度もわからない。RWRではレーダー波を照射されているという事しかわからない為だ。その事が非常にもどかしく感じる。このまま逃げ切って、スロパ島の防空圏内に入れればいいのだが。


 だが、その淡い期待はロックオン警告音によって砕かれる事となった。


【Pi Pi Pi Pi Pi Pi】


「まっずいわ、ロックされた。ナオ、そっちはどう?」


『こっちは……えっと……大丈夫です』


 アフターバーナで加速をしてはいるが、まだ始めてからそう時間の経っていないこの状況では、じきに敵に追い付かれてしまうだろう。

 そして敵のレーダーは自分を狙っている。

 逃げる、という選択肢は奪われてしまった。


「オッケー、じゃあそのまま逃げ切ってね。私は迎撃に移るわ」


 ナオの返事を待たずに機体を90°近くまで右に傾け、アフターバーナーを点火しながらブレイクを開始する。


『ちょ、フィオナさんっ!?』


【Pi Pi Pi Pi Pi Pi】

【Beeeeep!】


 それと同時に、敵のミサイル発射を知らせる警報が鳴り響き始めた。警報が出るということはレーダー誘導のミサイルだ。つまり、敵はまだ中距離ミサイルの射程距離に居るという事か。

 最新鋭機であれば光学的にミサイルを探知出来る警報システムを搭載しているが、この機体では赤外線誘導ミサイルの発射に対しては警報が出ない。

 真横に傾く機体からキャノピーの天頂付近、敵がいるであろう辺りを凝視して、敵のミサイル煙を探す。

 

 あった。機体の4時方向に白線を捉える。

 ただ、過ぎた時間から逆算して、もうミサイルとの距離はあまり無い。チャフの散布開始と共に、強く操縦桿を引く。HUDのG表示は7.2を示す。

 

『駄目です、フィオナさん! 独りでなんて!』


「逃げなさい、私は……いいから!」


【Beeeeep!】

【Chaff.】

【Chaff.】


 体にかかる遠心力によって呼吸が荒くなり、会話にもう意識を集中出来ない。

 視界内に捉えているミサイルの白煙の先へと視線を動かすが、今だ敵機の位置は確認出来ない。

 その時、ミサイルの警報音が鳴り止んだ。回避に成功したのだろう。

 しかし、今からではスプリットやインメルマンをやったとしても、状況を打開するビジョンが見えない。

 悪手かどうかわからないまま、右旋回を続ける機体を反転させて左旋回に切り替える。シザースに持ち込めれば御の字だ。


『私も迎撃します! ミサイル、もう1つそっちに行きました!』


 その言葉を受けて、アフターバーナーを切りフレアの散布を始める。ミサイルからのレーダー警報が鳴らない。なら、今度のは赤外線誘導だ。

 再び操縦桿を引くと、HUDのG表示が先程と同程度の数値を表示する。視界がブラックアウトを始める。 


【Flare.】

【Flare.】


 ……まったく、言う事を聞かない子だ。逃げろって言ったのに。


「狙いやすいように……このまま左旋回を続けるわ……」


『はぁ……はぁ…………捉えた!』


【Flare.】

【Flare.】


「撃つのは……充分引き付けてから……!」


『了解! あっ、更にもう1つ! こんにゃろぉー!』


【Flare.】

【Flare.】


 レシーバーから機銃の発射音が聞こえ始める。

 再度、首をあらゆる方向に傾けてミサイルの白煙を探す。ミラーに、ナオの放った曳光弾が一瞬だけ映った。


『やった! 当たった!』


「ナオ……ミサイルはどこかわかる…?」


『真後ろ、1つは外れましたけどもう1つが追いかけてます!』


【Flare.】


 その声が聞こえた所で、今まで断続的に聞こえていた風を切る様な音と、デジタル音声が途絶える。まずい、もうフレアを使い切った……?

 MFDを切り替えて確認する余裕は無い。そこからは考える事をせずに、目一杯まで操縦桿を引く。

 機体限界の9Gを超える力が叩き付けられ、光を失いかけていた視界は完全に暗闇へと落ちる。

 意識が飛び掛け、手の力が抜け始めた時、突然機体を襲った振動で我に返った。硬質な物体同士がぶつかる甲高い音が、数カ所からコクピット内へと響く。


『フィオナさんっ!』


【Engine fire right.】

【Engine fire right.】

【Engine fire right.】


『フィオナさんっ! フィオナさんっ!』


 ミサイルを避け切れず、被弾した事を悟る。消化の為に旋回を止め、機体に水平を取り戻す。

 スロットルの右レバーだけを手前に引き切り、右エンジン計器類のFIREと書かれたカバーとそれに隠されたスイッチを押し上げ、消火ボタンを押す。これで燃料供給が停止し、消火剤が噴出されたはずだ。

 すぐに火災は止まったようで、スイッチ上の消火を示すランプが光り始める。

 これで一安心だと、大きな溜め息をついた。


『聞こえてますか!? 大丈夫ですか!?』


 横に並んだナオが、こちらを見ているのがわかった。

 その声は無線越しでも、焦った様子が伝わって来るものだった。


「ええ、火災は止まったわ。でも、右エンジン死んじゃった。ごめんね、私が索敵を怠ったばっかりに」


 今回は大失敗だ。レーダーを付けたままにしておけば、近づいて来る機体にも気が付いただろうに……。

 またジャックになんか言われそうだと、独りごちる。


「それより、敵は?」


『なんとか弾が当たったみたいで、煙を吹きながら墜ちて行きました……』


「あら……初戦果じゃない、おめでとう。今回は助けられちゃったわね」


 ナオの機体がE型で本当に良かった。初期型だったら機銃が付いていないので、一人でバーチャル海水浴をしないといけない所だった。

 話ながらMFDを切り替え、機体の残燃料を確認する。数値の減り具合から、燃料漏れは無い様だった。


『そんな……それより、機体は大丈夫ですか?』


「うん。こういう時の為の、2つのエンジンよ。1つだけでも帰るだけなら出来るわ」


『よかった……』


 艦載機は基本的に双発になっている。これは片方のエンジンが不調になったとしても、飛び続けられる様にという海軍の要求があったからなのだが、今日ほどそれを有難く感じた事は無い。


「それじゃ、さっさと帰りましょうか」


『……はい!』




 帰り道、残った左エンジンの温度が妙に高くなり始めて少し焦ったものの、なんとか騙し騙し飛び続けてスロパ島へと降り立った。

 右側へ流れ続ける機体を制御するために左のラダーを踏み続けていたので、足の感覚がなんかおかしい。左足が突っ張り棒のようだ。

 ハンガー前のエプロンまで機体を誘導した後に、機体を降りて被害の具合を確認する。


「あー、これは酷いわね……」


 右エンジンは真っ黒にローストされており、水平尾翼も半分が吹き飛んでいた。左エンジンにもいくつか破片が刺さっている。これが原因で不調だったのだろう。

 先に降ろさせて貰ったため、今し方着陸を終えたナオのF-4Eがエプロンに入ってきた。F-14Dの横で機体を停止させエンジンを切り終わると、せかせかとした様子で機体を降り、こちらへ向かってくる。


「うわぁ……真っ黒ですねぇ」


「修理、いくら掛かるかなぁ……頭が痛いわ。それより……」


 空の上で言えなかった事を言う事にした。


「なんで逃げなかったの? 結果的には助けて貰ったからあまり言いたくないんだけど、隊長の言う事は聞かなきゃ駄目じゃない」


 先日、ミグの群れに突っ込んだ事を棚に上げてこういう事を言うのは少し心が痛むのだが、ここは言っておかなければならない所だと自分に言い聞かせる。戦闘中に一人が勝手な行動を取って、隊が不利な状況に陥るというのは良く有る事だからだ。まぁ、ジャックの受け売りであるのだが。

 すると、ナオは申し訳無さそうに目を伏せながら口を開いた。


「ごめんなさい……でも、どうしても置いていくなんて事が考えられなくて。そうしたらもう、後は必死で……」


 その、何処かで聞いたことがあるような言葉に目を見開いた。


「まったく、もう……そういう悪い子にはお仕置きね!」


 ナオの頭をくしゃくしゃと撫で回す。

 怒られると思ったのだろうか。手が触れた一瞬、体が強張ったのが感じられたが、すぐに強張りはなくなっていた。


「ひゃっ、や、やめてくださいぃー」


「明日は初めての着艦よ。またビシバシ、しごいてあげるわ!」


 そう言いながらも、私は口元の緩みを抑えることが出来なかった。





ふええ…警告音わかんないよぉ…。Over G、買い直そうかなぁ…。

ようつべもニコニコも探しまくったけど、イマイチよく分からず。どなたか良い動画知ってたら教えて下さい…。

F-16やF-18はいっぱいあるんだけどなぁ。


ちなみに、ナオが落とした機体はMig-29フルクラムの初期型です。

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