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第15話 報復


「なぁ、隊長。俺達の任務って、空港の占拠だったよな」


 そう言いながらヘルメットのバンドに挟んでいた煙草の箱から1本を取り出し、咥えたそれに火を付ける。


「ああ、そう聞いているぞ。任務開始時間も別に遅れた訳ではないし、場所も間違っていないな」


 GPSを取り出し、確認しながらそう言う隣の男。

 周囲の景色は地獄という他に表現のしようがない、焼け野原しかなかった。

 しかし、それは向こうの側から見た場合だ。こっちとしては敵が居ない分、天国と言った方がいいのだろうか。

 いや、俺らからしてもキルスコアを稼げないんだから、やっぱ地獄だな。煙草が買えなくなっちまう。ま、成功報酬は入るからいいのだけど。


「とりあえず、占拠"するはずだった"地点へ向かうか……」


 隊長がそう言うなら、俺も行くしかあるまい。あいあいさー。

 手に持っていたAKのスリングを肩に掛け直すと、俺はとぼとぼと歩き始めた。




 ***




 昨日の墜落での一件は少なからずリアルに影響を及ぼしており、お陰で金曜は丸一日、だるい体を引きずって日常生活を過ごす事となってしまった。

 友人からは「フィオさんや、ゆうべはおたのしみでしたね」なんてからかわれるし、散々だ。こっちは愉しまれたんだっつーの。


 そしてその日のゲーム時間にはミーティングが開催され、私が得た情報が他のプレイヤーにも周知された。

 湾内にイージス艦が停泊している事。SAMが配備されている事。他、別の時間帯に動いた部隊によって判明した、迎撃してくる航空部隊の種類と数等の各種情報がつけ合わされていく。


「えーまた、昨日こんなことがありました」


 と、マリーが私に起こった事を説明したその時だ。皆の空気が一変したのは。


「なん……だと。これは許されない」

「同じ苦痛を味合わせてやろうぜ」

「おい、ちょっとマップ西側の奴らにも共有しろ。全面戦争だ」

「俺、B-52買ってくるわ」

「核落とそうぜ、核」


 ちょ、ちょっと待って欲しい。B-52は空母には乗らない。いや、そんな事を言ってしまった人が居るには居るが、これ以上は危ないネタだ。

 核兵器なんて実装されてるのだろうか。絶対無いと思うよ、そんなバランスブレイカー。


「じゃあ、みんな。明日は全力ということで!」


 そのマリーの声と共に、うおおおおお! と沸き立つ艦内のブリーフィングルーム。部屋内の数十人全員が手を振り上げ、唸りを上げている。

 その勢いは誰にも止められ……というか、止める人間が居なかったと言った方が正しかった。


 翌日。

 スロシ島は、焦土と化した。


 私達フェザー隊や、その他対空攻撃を得意とする部隊が制空権を確保。

 そしてラファールを運用する部隊が湾内に停泊中のイージス艦へ、対艦ミサイルの飽和攻撃。

 それと同時に、F-15や16によるSEAD任務と呼ばれるSAMやAAAへの破壊行為。HARMやマーベリックを使った、対地ミサイルの一斉発射。

 それらが終わると同時にやってきた、B-52 ストラトフォートレスの10機編隊。

 スリポリト辺りからやってきたのだろうか。上空警戒していた私が見た光景は、それはもう凄惨なものだった。

 翼下と胴体に合計45発の500ポンド爆弾を満載したそれは、4機がスロシ空港、3機がリポムルエ港、残りの3機が陸上部隊の上陸地点にあった町と街道沿いに配備された戦車へ、全弾を投下していく。

 滑走路に沿って、ハンガー等の空港設備に密集して、波止場に集中して、港に隣接する町中に、上陸地点の町に。あらゆる場所に投下された爆弾は爆風と黒煙を上げ、地面に無数のクレーターを穿っていった。

 一連の行動は誰かが統制を取った訳ではないのだが、あまりにも連携が出来ており、敵軍に反撃させる余裕を与えるものではなかった。


 その様子を、買い直したF-14Dの機上から眺めながら呟く。


「これ、もう決着付いたんじゃない?」


 毎回こんな作戦行動が出来れば、決着は目前のように思える。それに対して、ジャックは疑問を呈した。


『今回はたまたまだろ。というか、敵さんも結構資産はあると思うんだがなぁ。まだ、本気出して来てないと思うぜ、やっこさん。どっかに戦力を集中させてるのか……?』


「そうなのかしら」


『ああ。きっと金を貯めこんでて、ここぞという時にパーッと使ってくるに決まってる。今回、こっちの手の内を見せちまったのが、いいんだか悪いんだか、まだ分かんねえな……』


 このゲームにおいて戦争とは、資金の消耗合戦と表現しても良いだろう。赤軍、青軍、どちらかの資金が先に尽きるか。それとも、資金が尽きる前に領地を落としきるか。勢いのある内に、残り3箇所の大規模拠点を落とし切れればいいのだが……。


 その後、地上部隊の侵攻はあっけなく終わり、今回の大規模作戦は終わりを告げた。

 上空警戒をしていた私とジャックは、そのまま地上部隊に別れを告げてマリーゴールドへと進路を向けた。




「ねぇジャック、1時方向見える? 見慣れない機体がふらふら飛んでるんだけど」


 その帰路、1機の飛行機を見かけた。飛び慣れていないらしく、妙に左右にぐらつきながら飛んでいる。


『んー? ありゃなんだ……BAEホーク、アエルマッキMB-339……いや、ちがうな。日本のT-4か。IFFは友軍の反応だな』


「こちらフェザー隊のフィオナ。そこのT-4、聞こえますか?」


 共通周波数で呼び掛ける。その間に少し機速を上げ、私達はT-4の横へと並んだ。

 コクピットを見ると、中のパイロットは慌ただしくホロウィンドウを出し入れしたり、機体のスイッチを探したりしている。

 しばらくの後に、その機体の持ち主から応答があった。


『こ、こちら……でいいのかな。私、ナオって言います! た、助けてくださいぃ』


 今にも泣きそうな女の子の声だ。とにかく状況を把握しなければ。


「こちらフィオナ。機体に異常ですか?」


『いえ、そうではないんですけど……。私、今日初めてこのゲーム始めて、飛んだはいいんですけど、この後どうすればいいのか分からなくてぇ!』


 なんてことだ……。というか、初めてでよく離陸まで行けたもんだと感心してしまった。


「ジャック、まかせた」


『おいぃ!? お前な! 拾った犬は責任持って飼いなさいって、お父さんに言われただろ!』


「私、母子家庭だし」


『~~っ! ったくよぉ、おい嬢ちゃん! 聞こえるか!?』


『はっはぃ……。ひぃぃぃぇぇ……』


 か細い声が聞こえてくる。これはダメだ、ジャックじゃ話が進まない事を悟った。


「怖がらせてどうするのよ……。わかった、私がやるわ。ナオちゃん、聞こえる?」


『はぃ……』


「操縦桿の使い方、スロットルの位置は分かる?」


『なんとかわかります……』


「私達、これから空母へ帰る所だったのだけど、あなたの機体じゃ着艦は無理だから、最寄りのスロパ島にある空港へ案内するわね。とりあえず、私達に付いて来て貰えれば大丈夫だから」


『あ、ありがとうございます……!』


「それじゃいくわよ。方位の見方は分かる? HUD、目の前のグリーンの線が書いてあるガラス板の上部に、今210って出ているはずだけど」


『あ、はい。出てます』


「まずそれが170になるまで、左にゆっくり旋回するわね。操縦桿を左に少し傾けて、機体が下を向かないように少しだけ操縦桿を引いてみて」


『こ、こうですか?』


 そう言うと、ナオのT-4は機体を左に少しロールさせ、私達から遠ざかり始めた。それに遅れないように、私達も同様のバンク角を取る。


「そうそう、その調子」


 そうして、ナオを先頭にしたエシュロン――横斜めに一直線となる隊形――を形取り、スロパ島へと向かって飛行を続けた。




 しばらくすると、左手にスロパ島の海岸線が見えてくる。

 スロパ島南西部にはまた別の小島があり、今はその間にある海峡上空だ。


「ナオ。管制とのやり取りは私でやるから、ひとまずは色々見ていてね。とりあえずジャック、先に降りてお手本見せて貰える?」


『あいよー。スロパコントロール。フェザー2、進入するぜー』


 そう言って、ジャックはエシュロンの後端から左にブレイクして、着陸態勢に入った。


「彼を見ててね。まず、空港南側に小さい湾があるでしょ? あれを目印に高度を下げていくの。湾から空港までは一直線だから」


『はい!』


 私の言葉通りに飛んでいくジャック。高度を下げ、湾へと向かっていく。


「ギアとブレーキ、フラップの降ろし方だけど、手で位置が分からなかったら、頭のなかで【ギアダウン、エアブレーキ、フラップダウン】って念じるの。そうすればシステムアシストが働いて、体が勝手に動いてくれるわ」


 そうしている内にジャックは湾から内陸部へ進入し、着陸態勢に入った。

 少し機首を上げてフレアを掛けながら、丁寧に機速を落としていく。

 そんなに大きな空港ではないため、滑走路端にある36のマーク付近ですぐ接地を行い、機首上げ姿勢を少し保ってエアブレーキにし、そのまま前輪を着地させる。

 相変わらず見事な着地だ。


『あれ……私に出来るんでしょうか?』


「大丈夫大丈夫、墜ちても死ぬだけだから」


『ひぃぃぃ!』


 まずい、いつもの癖で言ってしまった。これじゃ恐がらせるだけだ……。


「ごめんなさい、冗談よ冗談。途中まで私も同じように飛ぶから、安心して! とりあえずさっき言った、ギアとフラップ出してみましょうか」


『はい。ギアダウン……フラップダウン……むにゅむにゅ』


 最後のむにゅむにゅ言っていたのはよく聞き取れなかったが、頑張って念じているのだろう。

 ヨーで機体を横に滑らせて首を横に向けると、車輪が下りてくるのと、主翼のフラップが展開されるのが確認出来た。


「うん、それでオッケーよ。じゃあ、そのまま進入しましょうか。私の後に付いて来てね。ランウェイ、こちらフェザー1。今から1機進入するから、着陸許可を」


『は、はい!』


『こちらスロパコントロール。レーダーで確認している。進入を許可する』


 少し増速して、T-4の前に出る。

 自分も速度を合わせるために、ギアとフラップを出す。機械の作動音がして、機体の動作が少し重くなる。


「スロットル50%。300ノットぐらいを目安に、速いようだったら自分で調節しちゃってね。湾を過ぎたから、滑走路へ向かうわ」


 機体を再度左バンクさせ、ゆっくりとした速度で旋回を行う。

 時々後ろを見て確認するが、しっかり付いて来れているようだ。


「もう一度、ギアが出ている事を確認して。そしたら私はここから離れて指示を出すわ」


『わかりました。あ、この緑のランプかな……ギア、出てます!』


「了解」


 戻していたスロットルをミリタリーに上げ、ギアとフラップを仕舞う。

 なるべく早く、全てが見れる位置に付けるように、上昇しながら高G旋回を行った。


「機体の未来位置が、HUDの中央に丸で表示されているから、それが滑走路の手前か少し奥にあるように機体を動かして」


 T-4が滑走路に侵入していく。

 低速で水平を保つのはなかなか難しいものだ。彼女も例外なく左右に傾きながらではあったが、それでも懸命に降りようと機体を飛ばしていた。


「いいわよ、そこで操縦桿保持して、そのまま、そのまま。……もうすぐ車輪が付くから、付いたらそのまま操縦桿をゆっくり奥に倒して」


『は、はいぃ……』


 T-4の機体下部から白煙が上がるのが見えた。


「スロットル0にして、エアブレーキとホイールのブレーキを掛けて!」


 地面に降り立ったT-4はそのまま滑走を続け、滑走路中程で停止した。

 ホッとし、胸を撫で下ろす。


「おめでとう、上手いじゃない! 後は少しスロットル上げて、右手に見える広場、エプロンっていうんだけどね。そこまで機体動かしちゃってね。そしたら私も降りるわ」


『お……おりれたんですか……私。よかったぁ……生きてる……』


 その後は、そのまま私も空港上空を2周して、同じくスロパ空港へと降り立ったのであった。





迷子の新キャラ登場。

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